« 「無限の住人」 第十三幕「風」 | トップページ | 「夕ばえ作戦」第4巻 そして夕ばえに彼女は… »

2011.01.16

「隠密飛竜剣」 隠密十兵衛、西へ

 将軍家光から西国探索の密命を受け、狂気を装って旅立った柳生十兵衛光厳。西へ西へ…遠く薩摩へと足を進める十兵衛の前に、次々と起きる奇怪な事件。隠密独眼竜の秘剣がうなる。

 高木彬光の時代伝奇小説紹介シリーズ、前回紹介した「隠密独眼竜」に続き、同じ柳生十兵衛光厳(誤記にあらず)を主人公とした連作短編集「隠密飛竜剣」であります。

 柳生十兵衛が、武者修行、あるいは狂気に陥って出奔したのを隠れ蓑に、各地を隠密として回ったというのは、これは講談や小説・映画などで古くから見られるシチュエーションですが、本作もそれに則った作品。
 将軍家光、そして松平伊豆守から密命を受けた十兵衛が、各地で出会った数々の事件を描いた、高木版柳生旅日記といった趣向の作品集です。
(ちなみに設定時期が、同じ趣向のほとんどの作品で見られる青年期ではなく、島原の乱後の晩年記となっているのが少々面白い)

 収録されているのは全七話――
 香取神宮の神託と称して百人斬りを目指す凶剣士との対決を描く第一話。能の紅葉狩の如く山中に潜む妖女に挑む第二話。京を騒がす大盗と風魔小太郎との三つ巴の争いの第三話。十兵衛配下の隠密が情と任務の狭間で苦しむ第四話。十兵衛暗殺計画と仇討ち騒動が交錯する第五話。山賊退治を背景とした十兵衛のつかの間のロマンスを描く第六話。そして薩摩を舞台とした十兵衛最後の戦いである第七話。

 尾張を皮切りに、諏訪、京、岡山、熊本、そして薩摩と、西へ西へ、十兵衛の旅も続いていくこととなります。


 さて、本書を再読して改めて感心したのは、本書が、短編連作というスタイルをなかなかにうまく利用しているということであります。

 当然の事ながら、長編に比べればページ数が少なく、展開できる物語にも限りがある短編。
 しかし、それは逆に、ユニークではあるものの長編一本を保たせるには足りないアイディアを中心に据えた、バラエティに富んだ物語を描くことを可能とします。

 さらに、隠密十兵衛、という一定の枠があるということは、、その枠さえ守れば、逆に十兵衛を遠景においても自由に物語を展開させることができるということでもあります。


 そのスタイルを最大限に活かしたのが、第三話「百万両呪縛」と第四話「隠密くずれ」であります。
 前者は、関白秀次が遺したという百万両を巡り、十兵衛と大盗と風魔小太郎の三者が相争う物語。後者は、池田家のお家騒動(熊沢蕃山も登場)を探る隠密が、十兵衛を仇と狙う女と愛し合ってしまいという内容ですが、面白いのは、二作とも十兵衛は脇役に近い立ち位置であることでしょう。

 つまりどちらの作品も十兵衛以外の人物が中心となっているのですが、絶対的正義の味方である十兵衛からあえて軸を外すことにより、物語がどちらに転がっていくのか、登場人物の運命がどうなるのか読めず、意外性ある物語となっているのが実に面白いのです。

 主人公であるはずの十兵衛の存在を、むしろ一種のトリック的に使う――
 全部の作品がそうであるわけではもちろんなく、むしろそうでない作品が大半なのですが、しかしそれでも、それだけでも、本作は連作短編集としてなかなかに魅力的なのであります。

「隠密飛竜剣」(高木彬光 春陽文庫) Amazon


関連記事
 「隠密独眼竜」 六連銭真田流vs柳生家一門隠密陣

|

« 「無限の住人」 第十三幕「風」 | トップページ | 「夕ばえ作戦」第4巻 そして夕ばえに彼女は… »

コメント

ずいぶん昔に読みましたが、確か十兵衛がキ○○○を装って・・・という話でしたね。話の流れとしては完結編がありそうな流れでしたが,打ち切りをくらったのかな?

投稿: ジャラル | 2011.01.17 23:11

ジャラル様:
そうそう、そういう展開です。でも文体が片目いや堅めなので、偽既知外ってすぐわかっちゃうんですけどね。
お話的には完結しているのですが、むしろ長篇の方と微妙にかぶっているのが…

投稿: 三田主水 | 2011.01.23 21:04

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/50605462

この記事へのトラックバック一覧です: 「隠密飛竜剣」 隠密十兵衛、西へ:

« 「無限の住人」 第十三幕「風」 | トップページ | 「夕ばえ作戦」第4巻 そして夕ばえに彼女は… »