「黒鷺死体宅配便スピンオフ 松岡國男妖怪退治」第1巻 テーマなき伝奇世界
山深い黒鷺村に友人を訪ねた松岡國男と田山録弥は、そこで村の言い伝えをなぞらえた連続猟奇殺人に遭遇する。村の住職兼巡査の笹山、霊獣ミサキを操る少年やいちとともに事件に挑む松岡。そしてその事件を皮切りに、彼らは次々と奇怪な事件に巻き込まれていくことに…
大塚英志・原作、山崎峰水・画のコミック「黒鷺死体宅配便」のスピンオフ「松岡國男妖怪退治」の第1巻がようやく発売されました。
「黒鷺…」は、現代を舞台に、非業の死を遂げた死体の願いを叶えていくチームの姿を描いたユニークなホラーですが、その主人公の背後霊(?)・やいちの生前の姿を描いたのが本作…
のはずなのですが、蓋を開けてみれば、大塚作品常連の松岡國男=柳田國男が、田山録弥=後の花袋を相棒に、これまた常連キャラの笹山(の先祖であろう笹山残口)とともに怪事件に挑むという極めてユニークな作品となっています。
民俗学の父である柳田國男と、自然主義文学の中心人物たる田山花袋が、若き日に親しい友人同士だったというのは、知らない人が聞けばちょっと驚く「事実」でありますが、本作はそれを根底に置いて、もうやりたい放題。
元々は、上記の如く「黒鷺…」のスピンオフとして、やいちのルーツを描く物語であったはずが、そこに怪奇探偵・國男の迷推理が加わることによって、実に混沌とした状況となっているのが、好き者にはたまりません。
猟奇事件が発生し、その謎解きの解決に――ホームズとワトスン、ではなくてデュパンとその相棒の如く――乗り出す國男と録弥。
そして國男が強引な推理で解決したかに見えた事件の、その一段奥にある真相を暴き、怪異を鎮める笹山とやいちという図式が、本作の基本的なパターンなのですが――
それだけでは普通の(?)伝奇推理もので終わりそうなところに、豪腕大塚流のガジェットが加わるのですから、ただで済むわけがありません。
七人ミサキや蛭子信仰といった、ある意味定番の題材を扱った第一話、第二話は、まだまだ序の口。
うつぼ船と吸血鬼と○○○○○○(あまりのことに伏せ字とさせていただきます)の意外すぎる三題噺の第三話、そして井上円了と國男の宿命のライバル対決(?)がとんでもない存在を喚起する第四話まで来ると、いやはやもう、喜ぶべきか呆れるべきか…
もちろん私は大喜びなのですが、しかし、一つだけ気になったのは、本作におけるテーマ性、時代性であります。
大塚伝奇においては――本作同様に山崎峰水と組んだ作品であり、大塚伝奇の中ではかなりコメディ色の強い「くもはち」でも――そこに、その時代とその人物たちを描く必然性とも言うべきテーマ性が明示的にせよ暗示的にせよ、存在していることは、読者であればよく知っている話。
そのテーマ性が、本作においてはほとんど感じられないように思えるのは、これはスピンオフ企画という成立によるものかもしれませんが、いささか残念であります。
私は大塚伝奇の三題噺的構造がかなり好きではあるのですが、しかしその面白さもテーマ性という、その隙間を埋めるものがあった故なのか…と、今更ながらに感じた次第です。
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