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2011.02.11

「黄金万花峡」 秘宝の鍵は○○○○に?

 猫背山一本松の下から掘り出された木乃伊は、徳川忠長ゆかりの黄金の在処を知る月海上人だった。二百年の眠りから覚めた月海は、最期の力で忠長の子孫である加与の乳房に、おしろい彫りで黄金の手がかりを刻みつける。黄金を狙う者たちから逃れつつ、恋人の宗太郎と共に黄金を探す加与だが…

 久々の陣出達朗作品紹介、今回は「黄金万花峡」であります。

 かの駿河大納言忠長が、死にあたって駿府城から運び出させたという莫大な黄金の在処を巡り、箱根の山中に繰り広げられる善魔入り乱れての争奪戦…
 と書くと、時代伝奇小説の典型的なパターンの一つに見えますが、そういう常識に留まらない(こともある)のが陣出作品の恐ろしさ。本作も、どうしてこうなった感溢れる一種の怪作であります。

 まず驚かされるのが、その導入部。黄金の存在を知り、忠長の子孫である学者を殺害した悪人たちが、二百年前に土中入定した月海上人の木乃伊を掘り出すのですが…
 この月海が何と水っ気を取り戻して木乃伊状態から復活、普通に喋り出すのですから大変です。

 実は月海、二百年前に忠長の黄金の在処を教えられ、それを然るべき者――すなわち忠長の子孫――に確実に伝えるためにはどうすばいいか考えた上に取ったのが、自らが伝えるという手段。
 なるほど、それは確実ではありますが、根本的にどこか狂っているのが素晴らしい。

 この月海氏は、父を殺されたヒロイン・加与(当然彼女も忠長の子孫)に黄金の在処を伝えようとしますが、悪人たちの手により瀕死の傷を負い、加与も意識を失ってしまいます。
 ここでまた考えた月海、ここならば! と考えて、加与の乳房におしろい彫りなる秘法でキーワードを彫り込んで息絶えてしまうのでした。

 さてこのおしろい彫り、乳房が酒を飲んだり風呂に入ったりして温まるか、色々あって充血するかすると文字が浮き出るわけですが…
 もうおわかりですね? 宝の在処を探るため、黄金を狙う悪人たちは、加与の乳房を「もりもりもんで」(原文ママ)浮き出た文字を読み取ろうとするのです!
 何ですかこの深夜アニメのERO展開みたいな設定は。

 そんなこんなで中盤以降延々と繰り広げられるのは、加与の乳房争奪戦。
 加与の側には、恋人であり武術の達人である青年武士・宗太郎や、父親の別荘番の若者・飛介といった味方もいるのですが、もう一つの黄金の手がかりである黄金の玉(…深い意味はないでしょうね)争奪戦に忙殺されて、加与は何度も何度も悪人に攫われ、もりもりと…

 しかしそれでもある意味感心してしまうのは、このような怪しからぬ設定であっても、物語の空気が下品になったり陰惨になったりしない点でしょう。
 何しろ、本作に登場する悪人の男どもは、みな加与の体よりも黄金に夢中な奴らばかり。黄金さえいただけばお前の体などに興味はないと断言する、ある意味天晴れな連中ばかりです。
(ただし、悪女たちはその限りではないのですが…)

 さらに、乳房やら金の玉やらの争奪戦も、ドタバタ活劇めいて、どこか呑気な雰囲気が漂うのも、本作の不思議な明るさを支えます。
 特に飛介のキャラクターは、時代伝奇小説にしばしば登場する、間は抜けているが純粋で善意に溢れた忠僕でありながら、その豪快な忠僕ぶりが非常におかしく、作品のムードメーカーと言ってさしつかえありません。

 というわけで、善男善女には決して薦められるものではありませんが、今この時代に陣出達朗と聞いて喜ぶ向きにはぜひご覧いただきたい、何とも不思議な作品であります。

「黄金万花峡」(陣出達朗 春陽文庫) Amazon

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