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2011.02.12

「天海の秘宝」 かつての名作たちの匂い

 時は宝暦、凶盗・不知火一味、宮本武蔵を名乗る辻斬り、言葉を喋る黒い犬など、奇怪な存在が江戸の夜を騒がせていた。本所深川に住むからくり師・吉右衛門は、顔なじみの剣術家・病葉十三が聞きつけてきた噂から、この怪物たちと対決することとなる。そしてその裏には、驚くべき天海の秘宝の存在が…

 ファンには言うまでもないお話ですが、夢枕獏は、時代もの、過去の世界を舞台にした作品も、数多く発表しています。
 そのほとんどは(やっぱりと言うべきか)未完でありますが、しかしその中で数少ない完結作が、本作「天海の秘法」であります。

 その出だしは、古き良き時代伝奇もののそれを連想させるもの。
 平穏な日常に怪事が発生、怪人が出没し、主人公たちは次第次第に事件に巻き込まれた果てに、その背後の巨大な秘密を知る…というやつです。

 本作において描かれる怪事・怪人は、人間の言葉を喋り、賭場を荒らしたり武士を噛み殺したりするという黒い犬の出没であり、夜な夜な街に現れる宮本武蔵を名乗る辻斬り。そしてそれらの背後で糸を引く、大黒天なる黒ずくめの怪人――
 それに挑むのは、本所深川で奇妙なからくりを作っては周囲に法螺右衛門と呼ばれているからくり師・堀河吉右衛門と、天才剣士・病葉十三。そして本所辺りを縄張りにする無頼武士の本所の銕!(その正体は言うまでもないですね?)

 はじめはごく小さな怪事の連続であったものが、やがてその影響は広がり、ついにはあの天海僧正が遺したという秘宝を巡る大騒動に展開するのですが…
 実はこの辺りはまだ物語の中盤までの展開。吉右衛門たちと大黒天一味の虚々実々の戦いが続く中、空に謎の暗黒星が出現した辺りから、物語は驚くべき真の貌を見せるのですが…

 その先の内容には、ここでは詳しくは触れますまい。
 ただ、かつて私が光瀬龍や半村良の作品から受けた驚き、それまで描かれてきた物語が全く別の真実を見せる瞬間の驚きを、本作に触れることで、久々に思い出すことができた、と述べておきましょう。


 …正直なところ、本作は良くも悪くも作者が肩の力を抜いて著したものか、読んでいて「?」となる部分も少なくありません。
 物語のスケール感においては、先に名を挙げた作家たちの作品には及びませんし、登場人物の行動にも、首を傾げる部分があります。
 時代伝奇ものという観点からすれば、別に天海や武蔵でなくとも良かったのではないか――もちろん、インパクトというものは大事ですが――というところもあり、その点も含めて、評価が辛い方が多いようなのも頷けます。

 しかしそれでもなお、私が本作をそれなりに気に入っているのは、私が時代伝奇というものにはまるきっかけとなった諸作――そしてそれは、間違いなく作者も意識していると思いますが――が持っていたあの匂いを、本作からも感じ取れたからにほかなりません。
 それは作品を評価する姿勢からは邪道かもしれませんが…


 あ、でも、あの悲鳴の恐竜的進化だけはやはり評価できませんが。

「天海の秘宝」(夢枕獏 朝日新聞出版全2巻) 上巻 Amazon /下巻 Amazon
天海の秘宝(上)天海の秘宝(下)

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