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2011.02.20

「聖忍者伝」 忍者と悪魔と正しい歴史

 大坂冬の陣の最中、天から堕ちてきた少女・シルヴァーナ。“災厄”と呼ばれる存在との戦いに敗れた彼女は、地上で出会った抜け忍・草薙丸に忍術の伝授を請う。草薙丸の特訓に耐え、めきめきと上達を見せるシルヴァーナだが、“災厄”に草薙丸が深傷を負わされ、連れ去られてしまう…

 先日、長谷川裕一の「忍風の白竜」を紹介しましたが、今回紹介するのは、「ヤングキングアワーズ」誌に2話4回掲載された「聖忍者伝」。
 「忍風の白竜」、そして本作に先立つ「忍闘炎伝」で描かれた、忍者vs異国の悪魔の戦いを描いた物語の系譜に連なる作品ですが、今読み返してみると、意外な作品との繋がりが見いだせるのです。
(今回、長谷川ファン以外は置いてけぼりとなりますのでご勘弁を)

 “災厄”(≒悪魔)と戦うために遣わされた天使でありながらも、敵に敗れた上、その身を汚されたシルヴァーナ。
 腕利きの忍びでありながら任務に失敗して家族を失い、抜け忍となった草薙丸。

 生まれも育ちも(種族すら)違いながらも、ともに一度は敗北し、戦う理由を、生きる理由を失いながらも立ち上がろうとするという共通点を持つ二人の戦いが、本作の前半2回では描かれます。

 構図的には、「忍風の白竜」とメインキャラの性別が逆転した形となっており、展開も同作とほぼ同様なのですが、ぶっきらぼうな草薙丸の意外な熱血ぶり(「“こい”といわれて来るやつと…“来るな”といわれて来るやつじゃ気合いが違うんだよ!」という台詞!)など、なかなかに長谷川節横溢の内容。
 青年誌掲載のためか、個人的にあまり嬉しくないHシーンが(これは後半2話も一緒)入っているのに目を瞑れば、やはり良くできた作品であることに間違いありません。


 しかし驚かされたのは、続く後半2回であります。
 落城した大坂城から逃れてきた真田大助――実は女性!――を“災厄”の手から救い出したシルヴァーナと草薙丸。
 しかし大助は、国松(豊臣秀頼の子)を救うため、実は既に“災厄”と契約を交わしており、上司に当たる大天使から、シルヴァーナは大助抹殺を命じられることとなります。
 歴史上死すべき人物を生き残らせることにより、歴史を改変しようとする敵の企てに対し、その対象となる人物を殺そうというのは、目的達成の観点からすれば正しいかもしれません。
 しかし、正しいというだけでは選べない選択だってある…というわけで、大助を大天使から守るために――いわば抜け忍と同じ立場になって!――シルヴァーナは戦うこととなるわけです。

 と、面白いのは、ここで語られる天使たちの目的。
 それこそは、神の記録(アカシックレコード)――彼女たちの主が何度も何度も歴史を素描した果てにたどりついたもっともあやまちのない美しい歴史を守ることなのですが――

 ここで思い出すのは、同じ作者の時間テーマの名作「クロノアイズ」「クロノアイズグランサー」。
 歴史とは、時の流れとは何なのか。正しい歴史とは何なのか――そんなテーマを見事に描いたこれらの作品に登場する概念と、実は通底するものが感じられるのです。

 本作は、実は「忍闘炎伝」と設定年代の異なる同一世界の物語であり、この後は、両作の登場人物が共闘することが予定されていたとのことですが(同人誌版の本作には、そのイメージ予告編も収録)、むしろ本作の世界観は、「クロノアイズ」のそれに繋がるものだったのではないか――と今頃気づき、興奮した次第です。
(シルヴァーナたちの主って○○○○○なんじゃないの!? とか)

 実のところ、「クロノアイズ」の連載開始は本作の発表とほぼ同時期のため、アイディアが重なったというのが真相なのだとは思いますが、しかし作者が作者だけに、いつかやってくれるのではないか、と密かに期待している次第です。


 作品紹介のはずが、一長谷川ファンの単なる妄想となってしまいましたが、請うご寛恕。

「聖忍者伝」(長谷川裕一 一迅社IDコミックスDNAメディアコミックス「忍闘炎伝」下巻所収) Amazon
忍闘炎伝 下

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