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2011.02.19

「雨柳堂夢咄」其ノ十三 時の流れぬ世界で時の重みを知る

 前々巻から前巻までの二年間も長かったですが、この巻までの間も本当に長かった…というわけで、実に約三年ぶりの登場となった「雨柳堂夢咄」其ノ十三であります。

 大きな柳の木が目印の骨董屋・雨柳堂の少年・蓮が、様々な想いの籠もった骨董品たちと人々の縁を見守る短編連作の本作。
 相変わらずいつ読んでも変わらぬ興趣・雅趣に満ちた作品ですが、しかし今回の味わいはまた格別であります。

 それもそのはず、本書は、単に三年ぶりの新刊というだけでなく、本作の復活巻というべきもの。
 三年前の前巻の感想で触れましたが、実は本作については、一度実質的に終了宣言に近いものが、作者から語られたことがありました。

 その後、掲載誌である「ネムキ」誌では古今の幻想小説の漫画化である「幻想綺帖」(これがまた名作揃いだったのですが…)が連載されたこともあり、もう雨柳堂に、蓮君に会うことはできないのかと意気消沈していたのですが…
 同誌で連載が再開され、そして今回こうして単行本化されたことは、まことに欣快の至りとしか言いようがありません。

 そして、その第13巻がまた傑作揃い。
 「三人の客」「秋の旅人」「雪華の箱」「春のつむじ風」「夏のしつらい」「夜伽の客」「布の花・布の鳥」…

 男女の微笑ましい想いが呼ぶ優しい奇蹟あり、重い現実の中で美しい想い出が見せる一筋の光あり、風雅を解する人ならざるものとのコミカルな交流あり――
 収録されたバラエティ豊かな全七編は、いずれも暖かく美しい人(と、人ならざるもの)の情というものを、骨董品という長き時を越えてきた物に込めて、描き出しています。

 もちろん、本作のこの味わいは、実に20年前の連載開始以来、一貫して変わるものではありません。
 しかしそれでもマンネリズムと無縁であるのは、ゆったりした発表ペースもあるかもしれませんが、虚実のあわいからこの情を汲み取り、描き出す作者の卓越した腕あってのこと…というのは、今更言うまでもないことではありますが。

 本書のあとがきでは、これからも本作が描き継がれていくことも宣言され、まずは一安心であります。

 なお、このあとがきでは、時の流れが存在しないような雨柳堂の世界を、作者自身が結界と表現しているのが実に面白いところ。
 時の流れぬ世界で、時の重みを知る物たちの物語が描かれるというのはいささかユニークですが、こちらも時の許す限り、この物語をこれからも見守っていきたいと思います。


 ちなみに本書の少し前に刊行された作者の画業30周年及び「雨柳堂夢咄」連載20周年本「千波万波」には、本作の番外編が二作収録されています。
 そのうち一編は、以前本作に登場していたつくろい師の少女・釉月が、美しく成長した姿で(そしてその傍らには…)登場するのですが――

 彼女はこの結界から抜け出たと見るべきでしょうか。それもまた善哉。

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