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2011.02.15

「ゆんでめて」 消える過去、残る未来

 またもや少々遅れてしまいましたが、おなじみ「しゃばけ」シリーズ最新巻「ゆんでめて」であります。
 前作「ころころろ」同様、今回も各話が緩く繋がった連作短編集といった趣ですが、これが冒頭からなかなかに意表を突いた、いかにも本シリーズらしいくせものなのです。
(なお、内容の核心に触れる部分がありますので、未読の方はご注意下さい)

 腹違いの兄・松之助が子供を授かったお祝いに出かけた長崎屋の若だんなこと一太郎。
 しかし、分かれ道で弓手、すなわち左に行くはずだったのに、ふとしたことから右に行ったことで、彼の周囲の運命は大きく変わることになってしまいます。

 その後に起きた火事が長崎屋に回り、お馴染みの妖怪の一人・屏風のぞきが火傷を負うことに。
 その後も屏風のぞきは徐々に弱っていき、さらに不運に不運が重なって、彼は何処かへ消え失せてしまうのでありました。

 もしも火事の時、自分が店にいれば、屏風のぞきは無事だったのではないか…そんなあまりにも大きな後悔の念を胸に、何とか屏風のぞきを探し出そうとする若だんなの姿から、物語は始まります。

 ――と、冒頭からあまりの急展開に読んでいるこちらも驚いてしまうのですが、本作の面白いところはここからであります。

 第一話「ゆんでめて」の序盤には、次の文章があります。
「友、七之助が取り持つ縁で、かなめと知り合ったのは去年だし、花見をしてからは、もう二年経つ。雨の日おねと出会ったのは三年も前、火事の日からは、既に四年も経っているのだ」

 つまり第一話の時点で、既に火事は四年前の出来事であり、そしてそれから「現在」に至るまで、様々な出会いと事件があったという設定。
 そう、本作は、この第一話から、時を遡り、そして最終話において、火事の日の出来事が描かれるという趣向なのです。
 すなわち、「ゆんでめて」「こいやこい」「花の下にて合戦したる」「雨の日の客」「始まりの日」――本書に収録された五つの物語は、それぞれ、冒頭から一話一年ずつ遡り、最後に発端が描かれることとなります。

 しかし本作の素晴らしいところは、その構成が、単に意表を突くためというだけでなく、はっきりと意味を持っている点でしょう。

 簡単に結果から言ってしまえば、本作は、これまでも(特にSFで)無数に描かれている、悲劇的な未来を回避するために、過去を改変しようという物語の系譜に属するものであります。
 そうした物語においては、未来の結果を生んだ過去の原因を取り除けば、そこに至るまでの時の流れ、経緯は変わり、未来は救われることになるのですが――
 さて、最初の歴史に存在した経緯、過去が変わったことで消えてしまう経緯は、無価値なものなのでしょうか?

 本作の構成は、実にこの問いかけのためのものであります。

 たとえ悲劇的な四年後に続くものであっても、そこに至るまでの一年一年には、様々な出会いが――そこには若だんなにとっては大変な前進も!――あり、そしてそれが大事な想い出として、積み重なっていくこととなります。
 しかし、発端を変えるということは、その楽しかった出会いと想い出をも捨て去るということでもあるのです。
(ちなみに本作に収録された物語は、いずれも、何らかの形で「発見」と「出会い」を描いたものであるのは偶然ではないでしょう)

 ゆんでとめて、二つの道を同時に選ぶことができないように、一つの未来を選ぶことは、もう一つの未来を捨て去ることでもある――
 結末は明るいように見えても、そこに一抹の苦さが残る。いかにも本シリーズらしい結末に、大いに唸らされた次第であります。


「ゆんでめて」(畠中恵 新潮社) Amazon
ゆんでめて


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