「ななし奇聞」(新版) 帰ってきた妖怪絵師
あやかしを見る力を持つ旅絵師・七篠晩鳥(ななしのばんどり)。文明開化が闇を駆逐していく中、気ままに放浪の旅を続ける彼は、様々なあやかしと出会い、触れ合うことに。
以前紹介した作品をもう一回紹介するというのはちょっと気が引けますが、前の版になかった作品を収録した単行本の新版が登場したということで、ご勘弁下さい。
「猫絵十兵衛御伽草子」の永尾まるのデビュー作(という扱いでいいのかしら)「ななし奇聞」の復活であります。
主人公の七篠晩鳥先生は、老若男女に好かれるイイ男で、腕前も折り紙付きの絵師。一つ所に留まらず、日本中を放浪する彼には、人ならざるものを見る力が…
というわけで、晩鳥先生が各地で出会ったあやかしとの交流を描くちょっと良い話、という趣向の連作短編集であります。
と書くと何となく感じられるかと思いますが、本作は一種「猫絵十兵衛」の先駆的な作品。
あやかしを見る力を持つ主人公が、それをごく自然の、この世に当然存在するものとして受け止め、そこに暖かな――時に厳しいものもありますが――交流が生まれる様を、本作は描いていきます。
本作の舞台となるのは、明治初期という、大きな時代の変転があった時代、つい先日まで、人とあやかしが隣人として当然のように暮らしていた時代。
その時代を背景に描かれる晩鳥先生の旅は、表題作以外は同人誌掲載ということもあってか、さほど内容に統一性はないのですが、しかし、それが逆に、本作に何とも言えぬ緩さ(もちろん褒め言葉であります)と居心地の良さを与えてくれます。
今回、角川書店から刊行された新版は、以前の単行本化の際に収録された「ななし奇聞」「飛び首」「つくも」「ひとつ」「待ちびと」「くだの」「くだの弐」「泣き虫されこうべ」「あやかし散歩」に加え、「ゴロスケホッホー」「朱夏」の二編が追加されたもの。(ちなみに追加の二作は、どちらも四コマ的作品)
実は先に少年画報社から刊行された「まるっと永尾まる」にも、「ななし奇聞」から「ひとつ」までの四作品が収録されているので、それも含めると三回私は読んでいるのですが、しかし何度読んでもよろしいものはよろしい。
特に表題作の「ななし奇聞」と、「ひとつ」は、人間の世界とあやかしたちの世界が重なり合う、その一瞬を粋に切り抜いて見せた、その呼吸が実に良いのです。
なお、本作にはBL成分も含まれているのですが、初読時にはかなりショックを受けたのが、今回さほどでもなかったのは、あらかじめ構えていたから、と思うことにします。
(冷静に読むとキスしかしてないしねえ)
何はともあれ、こういう形で好きな作家の過去の作品が復活するというのは、やはりありがたいお話であります。
ちなみに三年前、旧版の感想の末尾に「ちなみに作者の永尾まる氏は、猫漫画専門誌で「猫絵十兵衛御伽草紙」という時代漫画を連載されているようですが、こちらも単行本化されないかと期待しているところです。」などと私は書いていましたが…いやはや、隔世の感であります。
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