「素浪人屋敷」 唐人屋敷に出る鬼は
江戸で流行する、不気味な唐人屋敷の歌。かつて江戸を訪れた明国人が住み着き、今は廃屋となったその屋敷の下げ渡しを、鳥居耀蔵が進めようとしていることに疑問を持った遠山左衛門尉は、自らと瓜二つの素浪人・神尾左近に調査を依頼する。勇躍屋敷に踏み込んだ左近をそこで待っていたものは?
高木彬光の時代伝奇小説紹介シリーズ、今回は、以前紹介した「素浪人奉行」に始まる、江戸北町奉行・遠山左衛門尉と瓜二つの素浪人・神尾左近シリーズの「素浪人屋敷」であります。
「唐人屋敷に灯がともりゃ めっぽうきれいな鬼が出る 前を通れば二階からまねく しかも鹿の子の振り袖で」
「唐人屋敷の女の鬼は 血を吸わずには生きられぬ 横を通れば下からまねく 肉の離れた骨の手で」
「唐人屋敷に足踏みこみゃあ 生きて帰れぬそのさだめ それでも亡者はこりもせず 後から後から参るとさ」
こんな歌詞で歌われる謎の唐人屋敷――かつて明国の大臣・胡広竜が、援兵を求めて来日した際に暮らしたという、本郷郊外のその屋敷が、本作の舞台となります。
(ちなみに歌自体は、作中でも触れられている通り吉田御殿の歌の替え歌ですな)
この大臣は三年後に謎の失踪を遂げ、屋敷は廃屋に…以後数回、払い下げ取り壊しが幕閣の間で話題になったものの、その度に不幸が起こるという曰く付きの屋敷。
その屋敷の下げ渡しが再び話題に、しかもそれが鳥居耀蔵発議であったことに遠山左衛門尉に疑いを抱いたことから、左近の出陣と相成ります。
しかし、屋敷に踏み込んだ左近が見たものは、廃屋となって久しい屋敷の中に縛り付けられた唐人髷の美女、しかもその名を、胡広竜が故国に残した恋人・呉才女と名乗ったのだから奇怪極まりない。
さらに、屋敷を探っていた浪人者が毒殺され、左近も幾度も唐人の短剣に命を狙われる始末。さらに「呉才女」が何処かに消え、もう一つの唐人屋敷の存在が…
左近は、自分に近づいてきた女賊・不知火おりんと心ならずも組んで、事件に挑むこととなります。
このあらすじを見れば歴然のように、本作は昔懐かしいスタイルの(時代)伝奇推理。
古怪な呪いの伝説が残る地を舞台に、一見超常現象としか思えぬような事件が続き、そこに名探偵が挑んで…というものであります。
その意味では本作はステロタイプな作品ではありますが、しかしその因縁・背景に、かつて明国人が住んだという屋敷を設定することで、本作なりの個性はきちんと出ているかと思います。
(秘宝伝説が海外由来というのも定番ではありますが…)
また、作中で左近が嘆じるように、中盤まで物語の鍵を握ると思われた人物が、現れては死や行方不明の形で退場していくというのも面白く、ここはさすがにミステリ作家としての作者の顔が現れていると言えるでしょう。
各章のタイトルが、上に引用した歌の歌詞というのもちょっと洒落ています。
そんなわけで、派手さ目新しさはないものの、ウェルメイドな作品なのですが…しかしちょっと困ってしまうのは、本作で左近が主人公を務める必然性があまりないところ。
遠山左衛門尉と瓜二つというのが最大の個性の左近なのですが、しかし本作ではそれを発揮する場面がほとんどなく…(既にほとんど全員に存在がバレてる)
その辺りがらしいといえばらしいのですが――
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