「希少寡談 櫂」 森野流巌流島異聞
ここしばらく故あって家の片づけを続けているのですが、その中で昔ため込んだ雑誌が色々出てきました。そこで今回は雑誌に掲載されたきり(おそらく)単行本に収録されていない作品を。
森野達弥の巌流島異聞と言うべき「希少寡談 櫂」であります。
時は慶長17年、関門海峡付近では頻発する地震と不漁に漁民たちが悩まされ、海神様の祟りと怯えていました。
そんな中、漁師の佐助は網元からある武士を船島(巌流島)に乗せていくよう言われます。
言うまでもなくこの武士は、佐々木小次郎との決闘に臨む宮本武蔵…なのですが、この武蔵がまた非常に傲慢でええかっこしいのイヤなヤツ。
自分の腕を誇示して、佐助に威張りちらす武蔵は、自慢話をするうち、鱶と出くわしても櫂で殴り獲ってやると嘯くのですが――
本作の武蔵は、非常に俗物として描かれているのですが、その根底にあるのは、自分が所詮由緒正しい身分の武士ではないというコンプレックス。
周囲からは野良犬と見下される自分を自嘲的に見つめ、それだからこそお前とは違う、と佐助に接するのです。
が、そんな武蔵を嗤うがごとく現れたモノの衝撃たるや…!
森野達弥といえば水木プロダクション出身、当然ながら(?)妖怪画の達人であります。
特に「無宿狼人キバ吉」に登場した怪物たちは、師匠の画風をさらにグロテスクに進化させた、悪夢の産物のようなモノたちばかり。
本作のクライマックスに登場するのも、いかにもその作者らしい凄まじいモノであり――それまでに描かれた、実に人間的な武蔵像はどこへやら、根こそぎ全てをさらってしまいます。
冒頭で描かれる何者かにボロボロにされた佐助たちの網など、よく考えると伏線はあるのですが、ほとんど一発ネタに近いインパクトには脱帽であります。
何故武蔵は櫂で戦ったのか、何故武蔵は決闘に遅れたのか…
巌流島の決闘での武蔵の行動の理由ともなっているのも心憎い、何ともすっとぼけた味わいの佳品であります。
ちなみに本作が掲載された「コミック乱ツインズ」誌の2004年12月号は、晩秋の怪談漫画小特集という趣で、他にも御茶漬海苔の「逢魔ヶ刻」、のなかみのるの「鬼瓦」といった異色の顔ぶれの、異色作が並んだ号。
時折抜き打ちのようにユニークな短編が掲載される同誌らしい企画であったと思います。
「希少寡談 櫂」(森野達弥 「コミック乱ツインズ」2004年12月号掲載)
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