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2011.03.08

「雪月記」第3巻 軍師の物語と神子の物語と

 戦国時代を舞台に、未来を視る力を持つ異能の軍師・照遠緋乃の姿を描く「雪月記」の最終巻、第3巻であります。

 この巻の舞台となるのは、緋乃が生まれ、少年時代を過ごした地・蕃海。
 蕃海の領主に仕える武士の子に生まれた緋乃は、戦で父を失い、十歳の時にその「浄天眼」の力を見出され、照遠に連れてこられたのですが…

 青年となった緋乃が蕃海で再会するのは、かつて同年代の友人として過ごした、城主の息子二人。
 しかし城主が亡くなった今、家中は先代により後継者に指名された妾腹の兄と、先代の正室が奉じる弟の間で緊張が高まり、血で血を争う抗争が続いていたのでした。

 ここで弟により招かれた緋乃は、浄天眼で視た悲惨な粛正の未来を変え、一滴の血も流さず国を治めるために奔走するのですが――
 そして一方、照遠の地で明かされるのは、緋乃の側に常に仕える謎の男・過徒の正体。禁忌を犯したとして村八分にされていた老婆が語る、封印された過去の物語とは…


 というわけで、この巻では、浄天眼を持つ軍師の物語、そして神子という存在の――言うなれば本作の根幹に関する――物語、双方において、緋乃自身の存在に密接に関わる物語が展開されていくこととなります。

 これまでは、流される血に心を痛めつつも、あくまでも雇われの身として依頼に相対してきた緋乃ですが、今回の依頼は、彼にとっても懐かしい故郷、懐かしい人々に関するもの。
 浄天眼で視てしまった惨劇を避けるために、いつになく緋乃が努力するのも、照遠の滅びを避けるために努力するのと、同じ次元に属するものなのでしょう。
 これまで、彼の軍師稼業の物語は、それなりに目新しさはあるものの、やはり彼があくまでも雇われということで、今ひとつドラマとして弱い部分があったのですが、今回はそれが解消されていると言えるでしょう。

 そしてもう一つ、本作の謎であり――そして良くも悪くも引っかかりとなっていた過徒の目的の一端が、ようやく語られたのも大きい。
 特に前巻においては、緋乃に対してヤンデレ的興味で接しているようにも見えた彼が何者なのかが見えてきたことで、彼の緋乃に対する執着がようやく納得いくものとして見えてきた印象があります。

 その一方で、緋乃の過徒への執着はまだ今ひとつわかりにくいのですが…(巻末の小説で補足はされていますが)


 が、物語がようやく動き出したというところで、本作は完結。
 過徒の真の目的な何なのか、照遠を襲うという悲劇の正体は、そして緋乃はそれを回避できるのか…
 それらは全て、謎のままに終わることとなってしまいました。

 軍師としての緋乃を描く物語と、神子としての緋乃を描く物語の噛み合わせが今ひとつだったためか…などとは思いますが、それをここで言っても仕方ありますまい。
 この巻のラスト、絶望の中に小さな希望を感じさせる結末自体は悪くないものだっただけに、やはり残念ではあるのですが…

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