« 「天下一!!」第3巻 彼女のリアリティは何処に | トップページ | 「SF水滸伝」 時にはこんな水滸伝(その二) »

2011.03.13

「水辺物語」 時にはこんな水滸伝(その一)

 かつて圧倒的なその力で遼国を破った梁山泊の一〇八星は、戦いの後、それぞれの道を歩んでいた。リーダーの宋江も、平和な暮らしを楽しんでいたが、そこに官軍が襲いかかる。皇帝が一〇八星討伐に乗り出したと聞かされた宋江は梁山泊で仲間たちと再会するが、敵の手は次々と一〇八星を襲う…

 どうも最近水滸伝成分が足りない、ということで、久々に水滸伝リライト作品紹介。今回は「水辺物語」であります。

 かつて一〇八ヶ魔王と呼ばれた一〇八人の異能の持ち主。遼国を破った後、宋清や李逵と、一市民として平和な暮らしを送っていた宋江は、突如、宋国皇帝が、自分たちを捕縛し、命を奪わんとしていることを知ります。

 大きな犠牲を払いながらも辛うじて逃れた宋江は、劉唐、阮三兄弟、魯智深らと合流、かつて集った梁山泊に籠もることとなります。
 しかしその時既に官軍側についた一〇八星が梁山泊を襲撃、一〇八星と一〇八星の戦いが始まることとなります。

 何故一〇八星が狙われることとなったのか、そして梁山泊側に潜む内通者の正体は、そして宋江の失われた記憶とは…
 宋江は絶望的な戦いの中で、幾多の謎に直面することとなります。

 と、梁山泊一〇八星集結後の姿を描いたやに見える本作、あえて伏せましたが、実は本作は中国風の異世界を舞台としたファンタジー。登場人物名や用語のほとんどは原典のものを引用していますが、舞台となるのは、かなり進んだテクノロジーが存在する世界であります。
 一〇八星は、軍部の博士・晁蓋の手により体内に「隠械」なる機器をを埋め込まれた存在であり、それが各人の武器・あるいは特殊能力の源となっているのです。

 登場する一〇八星も、そのキャラクターは現代風(?)にアレンジされており、半数近くが女性という設定(李逵も晁蓋も女性でありまうs)。
 主人公たる宋江も、温厚ながらどこか自分を抑えたところのある少年…と、全く原典とは異なっています。

 この辺り、一〇八星のアレンジが面白い半面、どうにも…な登場人物もいて(特に呼延灼の塩っぽさはものすごい)、絵柄的・描写的にも今ひとつこなれていない面とも相まって、万人にはちょっと勧めがたい印象もあります。


 それにも関わらず、私が本作を水滸伝リライトとしてこよなく愛するのは、本作の物語が、滅び行く梁山泊、死に行く一〇八星というもののムードを、非常に良く描き出している点であります。

 本作は、言ってしまえば、全編、滅びに向けた物語であります。
 登場人物は――もちろん例外はあるものの――ほとんどが滅びに向けて突き進み、そして散っていきます。

 原典(七十回本以外)の終盤で、梁山泊の一〇八星は、その大半が命を落とします。原典はその犬死ににも等しい死に様を、ほとんど事務処理的に描いていくのですが…
 多くの水滸伝リライトでも省略されがちな、あるいは分量的に流されがちなその部分を、抽出し、よりドラマチックに描く――それが、本作の中核にあるものではないかと感じるのです。

 信じる者に裏切られ、一時の平穏を奪われ、愛する者を亡くし、天地に身の置き所を失い、そして死んでゆく…
 本作はその無惨さを、これでもかとばかりに読者に突きつけてゆきます。

 本作には、基本的に救いはありません。宋江がその戦いで守ったものですら、結末の公孫勝の言葉で、容赦なく否定されていきます。
 しかし、本作に限っては、それで良いのだと感じます。

 原典で無機質に死んでいった一〇八星たちに、もう一度、より劇的で、無惨な死を与える――そしてそれは、奇しくも本作に登場する操り人形の姿に重なります――それによって、初めて彼らの死が意味のあるものとなり得る…

 というのはいささか褒めすぎではありますが、水滸伝ファンであれば、この滅びの姿に、頷ける部分があるのではないかと感じる次第なのです。

|

« 「天下一!!」第3巻 彼女のリアリティは何処に | トップページ | 「SF水滸伝」 時にはこんな水滸伝(その二) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/51101273

この記事へのトラックバック一覧です: 「水辺物語」 時にはこんな水滸伝(その一):

« 「天下一!!」第3巻 彼女のリアリティは何処に | トップページ | 「SF水滸伝」 時にはこんな水滸伝(その二) »