« 「骨法伝説 夢必殺拳」 骨法に仕掛けたガチ | トップページ | 「天下一!!」第3巻 彼女のリアリティは何処に »

2011.03.11

「鬼舞 見習い陰陽師と橋姫の罠」 狙い所のど真ん中を射抜く快作

 宮中で女房たちが無気力になるという病が流行、祈祷に出向いた安倍吉平が何者かに襲われ、同じ状態になってしまう。その犯人を捜すため、道冬は女装して後宮に潜入する羽目に…。しかし道冬にも魔の手が迫り、安倍吉昌と渡辺綱は、反目しながらも救出に立ち上がる。果たして姿なき敵の正体は…

 瀬川貴次の平安ファンタジー新シリーズ「鬼舞」、待望の第二弾「見習い陰陽師と橋姫の罠」であります。

 播磨から陰陽師になるために京に出てきた少年・宇原道冬が、安倍晴明の息子・安倍吉昌らとともに、都を騒がす奇怪な物の怪に挑む第一弾は、晴明がどうも「あの」晴明のその後らしいということもあって大いに楽しんだのですが、続編である今回も、出し惜しみなしという印象で実に面白い。

 今回は、女性の物の怪が現れるという橋に肝試しに出かけた武士が襲われたのをきっかけに、宮中――帝の近くにまで迫っていく謎の物の怪の跳梁に、道冬たちが挑むこととなるのですが、そこに絡んでくるのが新登場の渡辺綱であります。

 もちろん、後に頼光四天王として数々の鬼との逸話を残したあの綱ですが、本作では、かつて短い間とはいえ親交を結んだ――そして何よりも、道冬の持つ妖を視る才能を異端視しない――心優しき少年というおいしい役どころ。
 それだけでなく、道冬が住む河原院のかつての主・源融(の亡霊)は綱の先祖というわけで、思わぬところで先祖と子孫が再会、本人たち歓喜、道冬たちは呆然…というシーンが最高におかしいのです。
(というか、綱が登場した時点でこの展開を予想できなかった自分が悔しい)

 それにしても妙に人間臭い(?)幽霊と物の怪を書かせたら、作者が屈指の書き手であることは良く知っていたつもりですが、今回もその辺りの展開は本当におかしい。
 上記のシーンもそうですが、冒頭からしえ、源融(幽霊)の心ない言葉に傷ついた古畳(付喪神)が、泣きながら屋敷を飛び出し、それを道冬が追いかけていって優しく慰める…と、浦沢義雄脚本みたいな展開が繰り広げられるのですから――

 と、面白方面ばかり強調してしまいましたが、シリアス方面ももちろん本作は面白い。
 吉昌をかばったとはいえ、吉平をもその呪力でダウンさせた敵を見つけ出すため、物語の後半では道冬は後宮に潜入することとなります。女童に化けて。
 …あれ、シリアス?


 実のところ、本作を読んで感心してしまうのは、このような物語展開といいキャラクター配置(主人公を取り巻くタイプの違う美形たち)といい、あざといくらいに狙っているのに、しかしその狙い所のど真ん中を正確に、美しく射抜いている点であります。

 読者層が何を読みたいかを熟知した上で、その期待を裏切ることなく、それに応える…当たり前のことではありますが、それを行うのがどれだけ難しいか。本作はそれをサラッと達成してみせた快作であります。


 さて、シリーズものとして、本作でもヒキとなる謎が幾つか提示されているのですが、その最たるものは、道冬が時折見せる、彼自身も知らぬ力の由来でしょう。

 ラストである人物が指摘するように、彼の姓、宇原は菟原に通じます。菟原といえば葦屋菟原処女(あしやのうないおとめ)、そして蘆屋といえば――
 考えてみれば道冬は播磨出身、しかも名前に道の字が入るわけですが…さて、そうそう予想通りにいきますかどうか。

 あまり早く道冬の「正体」がわかってしまうと、シリーズそのものが早く終わってしまいそうで、そこは痛し痒し。
 これからもそこはじらしつつ、面白シリアスな活劇を展開していただきたいものです。


 しかし作中のほとんどのシーンで怠けているくせに、クライマックスで一番目立つ場所に登場するあの人は、さすがとしか…

「鬼舞 見習い陰陽師と橋姫の罠」(瀬川貴次 集英社コバルト文庫) Amazon
鬼舞 見習い陰陽師と橋姫の罠 (鬼舞シリーズ) (コバルト文庫 せ 1-42)


関連記事
 「鬼舞 見習い陰陽師と御所の鬼」 ネクストジェネレーションの陰陽師たち

|

« 「骨法伝説 夢必殺拳」 骨法に仕掛けたガチ | トップページ | 「天下一!!」第3巻 彼女のリアリティは何処に »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/51053964

この記事へのトラックバック一覧です: 「鬼舞 見習い陰陽師と橋姫の罠」 狙い所のど真ん中を射抜く快作:

« 「骨法伝説 夢必殺拳」 骨法に仕掛けたガチ | トップページ | 「天下一!!」第3巻 彼女のリアリティは何処に »