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2011.03.07

「山風短 第二幕 剣鬼喇嘛仏」 美しきもう一つの喇嘛仏

 細川家の御曹司でありながら無類の剣法狂い・長岡与五郎は、宮本武蔵打倒を念願に、彼を追い続ける。大坂城にまで追おうとする与五郎を留めるため父・細川忠興は、配下の忍び・青竜寺組に命を下す。青竜寺組組頭の孫娘・登世は、思わぬ秘術を持って、与五郎の身を封じたかに見えたが…

 せがわまさきが山田風太郎の短編を漫画化する「山風短」、その第二弾は、「剣鬼喇嘛仏」――
 と聞いた時、驚いた山風ファンは、私のみではないでしょう。なにしろ本作は、ビジュアル的な意味で忍法帖屈指の怪忍法が登場するのですから…

 殿様芸の域を超えた剣法を拾得し、武蔵を宿敵と思い定めた細川忠興の子・与五郎――武蔵へあくまで執着する彼は、大坂の陣にあたり、豊臣側についた武蔵を追って、自らも大坂城に入城せんとします。
 しかし徳川方の父にとって、自らの子が大坂城に入るのはいかにもまずい。かくて、妻という足枷をはめるべく選ばれたのが、青竜寺組のくノ一・登世。

 唯一与五郎も認めた剣の才を持つ彼女は、与五郎の元に侍った夜にある秘術を試みるのですが…
 その秘術というのが、交合した状態から繋がったまま、抜けなくなるという、何とも情けなくも、しかし容易ならざる――いかにも山風忍法らしき――もの。彼女が妊娠して子供が生まれれば、術も解けるというのが、何とも合理的かつ象徴的な術ではありますが…

 それはさておき、それでも打倒武蔵を諦めぬ与五郎は、登世と一体となった状態のまま、大坂に旅立つこととなります。しかし、共に剣の達人同士が向かい合わせ抱き合ったが如きその状態は、互いに背後に目を持ったも同然であり、外見の滑稽さと裏腹の戦闘力を持つ、まさに剣鬼喇嘛仏というべき存在と化していたのでありました。

 で、ありますが――その作中の扱いがどうであれ、どうしたってこれはビジュアル的に間抜けすぎる。
 それゆえ、本作を漫画化することは無謀に過ぎると、そう感じたのですが…
(実は石川賢の「柳生十兵衛死す」にも剣鬼喇嘛仏が登場、十兵衛とドリームマッチ(?)を行うのですが、ほとんど一発ネタの雑魚キャラ扱いでありました…)


 しかし、今回もまた、せがわまさきは見事に山風世界を、自家薬籠中のものとして描いてみせました。
 喇嘛仏のあのビジュアルを真っ正面から描きつつも、しかし、そのアクションはあくまでもスタイリッシュに、むしろ凄絶さすら感じさせる筆致で描写してみせる。

 その一方で、喇嘛仏の間抜けさを、ユーモアを交えて浮かび上がらせるのも面白く、さらに繋がりあった二人の感覚を、微妙な表情の変化を用いて下品にならない形で描くなど、まず本作の漫画化としては、最も真摯かつ理想的なものであると言って良いのではないでしょうか。


 しかし――本作はラストにおいて、原作の忠実な漫画化からさらに一歩進んだ世界にまで、踏み込むことになります。

 ようやく術が解け、単身武蔵を追った与五郎が辿った、皮肉かつ残酷な運命を描くことをもって、原作は終わります。
 が、本作では、その先、漫画オリジナルのエピソードが追加され、物語は結ばれることとなるのです。

 これは、原作から見れば大甘も大甘の結末であります。原作の精神をぶち壊しにした、蛇足と取る向きがあっても不思議ではないでしょう。

 しかし私は、この結末を、山風作品の結末として、大いに気に入っているのです。
 時に残酷に、時に優しく、時に淡々と、時に劇的に…様々な形で、山田風太郎が描いてきた女性の、女性という存在の大きさ、尊さ。それが、男の驕慢を、残酷さを、ガキっぽさを受け止め、そして男の側もそれを受け入れた――そんな男女和合の姿が、本作のラストからは、感じ取れるのです。

 もちろんこれ自体、私の勝手な思い入れではありましょう。
 しかし、ラストの見開きで描かれる二人の姿に、美しきもう一つの喇嘛仏を見るのは、これは錯覚ではありますまい。

 天の山風先生も、この画には笑顔で頷いてくれるのではないかと――これも勝手な思い入れではありますが、私は信じているところなのであります。

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コメント

私も大甘でも、この結末の方が好きです。ラストで『Y十M 〜柳生忍法帖〜』でお馴染みの千姫様がチラッと出るのはサービスですかね? あのシーンは山田世界的には『くノ一忍法帖』の導入部ですが。

投稿: ジャラル | 2011.03.09 22:22

ジャラル様:
おおむね、この結末は評判がいいですね
ラストの千姫様は盛り上がりました。たぶん周囲にいた侍女たちが…なのでしょう

投稿: 三田主水 | 2011.03.16 23:52

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