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2011.03.18

「柳生十兵衛秘剣考」(その二)

 柳生十兵衛と毛利玄達を探偵役とした高井忍の時代ミステリ連作短編集「柳生十兵衛秘剣考」、後半の二作品の紹介であります。

「真新陰流“八寸ののべかね”」
 小笠原源信斎という剣豪は、その来歴等を知れば知るほど、実に面白い人物であります。
 元は高天神城を領した名門・小笠原氏の出身でありながら、城が徳川家に落とされた後は浪人、武者修行の末に大陸に渡り、そこで張良の子孫から戈を学び、日本の剣術と組み合わせることにより、奥義「八寸ののべかね」を編み出し、真新陰流を名乗った…

 と、剣豪小説&武侠小説ファンの私にとってはたまらない経歴の持ち主。真新陰流という流派名も、実に…で、この人物が今ひとつメジャーでないのが残念でなりません。

 と、本作は、その源信斎の八寸ののべかねが、武蔵二刀流に挑む!? という、ミステリ抜きに剣豪小説としても興趣満点の作品。
 年齢のこともあり、実際に武蔵に挑むのはその一番弟子の神谷文左衛門なのですが、それでも結果には興味津々であります。

 が…たまたま武蔵の元を訪れていた玄達が目撃したのは、決闘の意外な顛末。
 かくて、秘技の正体と、決着の理由を十兵衛が推理することとなります。

 実は、剣豪小説にミステリの要素を持ち込んだ作品というのは、笹沢左保の「鬼神の弱点は何処に」(これも十兵衛が登場する作品ですが)をはじめとして、少なからぬ数が存在しています。
 これは、相手の秘術の仕組みを見破り、あるいはその仕掛けの穴を突くという術合戦が、ミステリの謎解きと、構造的に相性が良いためでしょう。

 本作はまさにその意味で見事な剣豪ミステリ、「八寸ののべかね」の謎解きは、実に合理的かつ説得力十分で、掛け値無しに、今まで読んだ、「八寸ののべかね」解説の中で最も説得力がありました。
 そしてそれだけでなく、作中に、剣豪の意外な、そして微笑ましい人間性が織り込まれているのも、実に楽しいのです。


「新陰流“月影”」
 そしてラストは、やはりと言うべきか、柳生十兵衛自身の事件。
 十兵衛が京は粟田口で、襲ってきた盗賊、実に十二人を返り討ちにしたというのは、様々な武術譚を集めた江戸後期の書物「撃剣叢談」にも記載された事件ですが、本作では、その意外な真相を語るものであります。

 実は粟田口で討たれた「盗賊」は、盗賊などではなく無辜の民。どうやら十兵衛は関係ない人々を殺害し、それを盗賊退治と誇っていたようなのですが…

 果たして本当に殺されたのは盗賊ではなかったのか、だとすれば天下の柳生十兵衛が何故そんなことをしたのか?
 玄達は、十兵衛に父を殺された娘の介添えとして、十兵衛を相手とした仇討ちに臨むこととなります。

 と、本書を締めくくるに相応しい内容の本作ですが、実はスタイル的に、最もミステリしているのも本作かもしれません。
 詳細はここでは語れませんが、ミステリとしては基本中の基本のトリックを用いながら、それが十兵衛ファンにとってはいささかショッキングな内容と巧みに結びつき、犯人と探偵、双方にとってのホワイダニットが解き明かされるのには、ただただ感嘆するほかありません。
(本作で一番不思議だった、玄達の設定についても、ここで説明されているとも言えます)

 そして事件が解決したラストにおいて、十兵衛最大の謎をさらりと提示してみせる――いやはや、痺れます。


 剣豪たちのユニークな秘剣や事績が描かれる時代ものとして、その背後の様々な秘密が合理的に明かされるミステリとして、そして十兵衛と玄達の軽妙なやりとりが楽しいキャラクターものとして…
 様々な魅力を持つ本作、是非シリーズ化していただきたいものであります。

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コメント

本作を読みました。
“八寸ののべかね”って某流派の技と同じ原理ですよね。
それだけなら柳生宗矩でも勝てそうです。

投稿: 木村 | 2011.03.21 11:06

木村様:
“八寸ののべかね”は同じような技が何度か剣豪小説にも出てきているので、技の正体自体はもしかして…と予想はつきました。
しかしそこに「八寸」を綺麗に絡めてきたのがうまかったですね

投稿: 三田主水 | 2011.03.21 21:45

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