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2011.03.17

「柳生十兵衛秘剣考」(その一)

 手裏剣の達人にして男装の女武芸者・毛利玄達は、諸国修行のさなか、各地で様々な秘剣と出会う。その謎に挑み、解き明かすのは、玄達とは腐れ縁の剣の達人・柳生十兵衛だった。

 現代を舞台に、対話形式で歴史上の事件の真実を解き明かすという歴史ミステリ「漂流巌流島」でデビューした高井忍の第二作は、過去を舞台とした時代小説。
 それも、柳生十兵衛と毛利玄達を主人公に、様々な剣豪の秘剣や事績の背後を解き明かしていくというのですから、好きな人間にはたまりません。

 舞台となるのは寛永年間――主人公の一人である柳生十兵衛が、指南役を辞して諸国を放浪していた、一番おいしい(?)時分の話であります。
 この十兵衛と腐れ縁で一緒に謎に挑むこととなるのが、手裏剣術の達人・毛利玄達。十兵衛に比べると知名度の点ではかなり落ちますが、独学で修得した手裏剣術で、十兵衛に舌を巻かせたと伝えられる人物であります。(が、玄達が女性というのは本作のオリジナルでしょう)

 さて、折角ですので、収録された全四編を一つずつ紹介していきましょう。


「兵法無手勝流」
 最初の作品は、かの塚原卜伝の無手勝流にまつわる物語。
 渡し舟で腕自慢の乱暴者に絡まれた卜伝が、相手を先に川の中州に降ろし、舟をさっさと出しておいてけぼりにして、戦わずして勝ったという、非常に有名な逸話が題材とされています。

 本作では、この一部始終を玄達が目撃することとなるのですが、彼女に対して土佐の卜伝と名乗ったこの老人は、その後江戸に現れ、なんと柳生宗矩に対決を挑みます。
 もちろん(?)その対決は回避されるのですが、しかしそれで一躍卜伝は名前を挙げることに――

 が、卜伝といえば戦国時代の人物。いくら達人でも、寛永年間に生きているわけがありません。
 だとすれば何故卜伝を名乗る者が、いまこのような振る舞いを見せるのか…というところで十兵衛が出馬、謎を解き明かすこととなります。

 本作は収録された他の作品とは些か趣向を異として、卜伝の行動の理由が推理されることとなるのですが、それが明かされてみれば、まさに本作が時代ミステリというに相応しいものであるのに感心させられます。
 冷静に考えると、何もここまで…という気がしないでもありませんが、しかしあの人物だったらこれくらいはやるかあ、と思わず納得してしまうのであります(と、ほとんど同じようなことを細谷正充氏が解説で書いているのがちょっとくやしい…)


「深甚流“水鏡”」
 その塚原卜伝と唯一引き分けたと伝えられるのが、草深甚十郎であります。しかし剣豪ファンにとってこの剣豪は、秘剣水鏡によってよく知られているのではないでしょうか。

 遠く離れた相手に対し、その姿を盥に張った水の上に映し、その像を斬るや、相手の実体も斬られる――剣術というより、ほとんど妖術に等しい秘技であり、世に怪剣奇剣数あれど、その中でも屈指のものと言えるのではないでしょうか。

 さて本作では、子供の頃に甚十郎に仕え、その秘剣水鏡の一部始終を目撃したという老爺の語りを聞いた十兵衛が、遠く過去の事件を実際に見ずして謎を解くという、一種の安楽椅子探偵もののスタイルで描かれます。

 嵐の翌朝、甚十郎の小屋を訪れた後、河原で斬殺体となって発見された男。周囲に足跡は一つしかなく、その場に凶器もなく、男の死を説明するには、やはり秘剣水鏡に斬られたと信じるほかない――

 十兵衛の推理が、そのまま一種の密室殺人の謎解きともなるのが実に面白いのですが、本作が真に素晴らしいのは、何故甚十郎が秘剣を振るったのか、その真相でありましょう。

 これぞ真の活人剣、と唸らされること請け合いの名品、本書のうちで、個人的には最も印象に残った作品です。

 なお、秘剣水鏡を扱った作品としては、(これまた解説で触れられていますが)戸部新十郎の「水鏡」があります。
 剣豪ものとして面白いだけでなく、剣法というものの進化の過程を描いたものとして、私の大好きな作品でもあります。


(後半二編の紹介は、次回といたします)

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