« 「越女剣」(その1) 「白馬は西風にいななく」 | トップページ | 「ICHI」第4巻 »

2011.04.23

「越女剣」(その2) 「鴛鴦刀」「越女剣」

 金庸唯一の中短編集「越女剣」収録作品は、残る「鴛鴦刀」「越女剣」の二編の紹介であります。

「鴛鴦刀」

 手に入れた者は天下無敵になれるという鴛鴦刀。それを皇帝に献上するための一隊の周囲に、いずれも一癖も二癖もありげな者たちが出没する。その一人、蕭中慧は、父が求める鴛鴦刀を手に入れようとするが、その前に強敵が現れる。果たして鴛鴦刀を手にするものは誰か…

 どこまで狙ってのことかわかりませんが、金庸作品には、しばしばコミカルな場面、登場人物が登場して、物語のアクセントとなっています。
 しかし本作は、ほぼ全編に渡ってそれが続く、簡単に言ってしまえば、ドタバタ喜劇とも言うべき作品。それでいてきっちり武侠小説になっているのが面白いのです。

 清代を舞台に、謎を秘めた二本の刀・鴛鴦刀を巡る争奪戦を描く本作は、その骨子そのものは典型的な武侠小説ですが、個性的過ぎる面々が次から次に登場、その面々による活劇が後から後から繰り広げられると思えば、そこから意外な秘密のが、続々と解き明かされるという――

 その様はさながら稲妻車、一瞬目を離すと次がどうなっているのかわからなくなりかねない勢いですが、しかしそれでも話がとっちらかることなく展開していくのは、これはさすがに作者の腕というものでしょう。
(最初から最後まで無茶苦茶な夫婦喧嘩を繰り広げるキャラの、喧嘩もしない夫婦は真っ当な夫婦じゃない、という台詞が伏線になっているのにはひっくり返りました)

 というより、冷静に考えてみると、多士済々の登場人物の因縁と秘密が様々に入り乱れる様は、金庸が描いてきた長編・大長編でも見られるもの。いわば本作は、そうした作品をググッと圧縮して、そこに笑いの調味料を振りかけたもの…と言えるかもしれません。


「越女剣」

 呉王夫差に敗れ、雪辱を期す越王勾践。しかし呉の剣士は越を遙かに凌ぐ腕を持ち、越の大夫・范蠡は打開策に頭を悩ませていた。呉の剣士をものともしない神技を持つ少女・阿青と出会った彼は、彼女の力を借りようとするが…

 本書の最後に収められたのは、本書の表題作にして金庸作品中、最も短い作品。さらに、おそらくは最も過去を舞台とした作品です。
 春秋戦国時代、臥薪嘗胆の故事で知られる呉王夫差と越王勾践の争い。本作は、その勾践の懐刀である范蠡を中心とした物語であります。

 呉打倒の最大の障害である、優れた呉の剣と、それを操る剣士たち。それに対して范蠡が希望を見出したのは、何と羊飼いの少女・阿青。
 ある理由で神技に等しい武術を身につけた彼女の力を借りて呉を討とうとする范蠡の胸中には、夫差の元に送り込んだ美女・西施の姿があったのですが…それが、意外な結末をもたらすことになります。

 登場人物はほとんど実在、物語も、呉越の争いの史実をなぞって進む本作ですが、そこに一人の少女と、その秘められた想いを絡めることで、哀しくもロマンチックな歴史秘話として成立している本作。
 掌編ではありますが、無情の史実の間に、有情の虚構を差し挟む物語が伝奇であるならば、本作はまさに優れた伝奇と言うべきでしょう。


 以上三編、舞台とする時代も場所も、物語の趣向も全く異なる物語であります。
 しかしながら、作品の分量としては限られているだけに、むしろ逆に、金庸の物語作家としての力量を示すものばかりと言えるでしょう。
 特に、金庸作品をこれまで何作か読んできた方にお勧めできる作品集であります。


「鴛鴦刀」「越女剣」(金庸 徳間文庫「越女剣」所収) Amazon
越女剣 (徳間文庫)


関連記事
 「越女剣」(その1) 「白馬は西風にいななく」

|

« 「越女剣」(その1) 「白馬は西風にいななく」 | トップページ | 「ICHI」第4巻 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/51475309

この記事へのトラックバック一覧です: 「越女剣」(その2) 「鴛鴦刀」「越女剣」:

« 「越女剣」(その1) 「白馬は西風にいななく」 | トップページ | 「ICHI」第4巻 »