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2011.04.14

「武侠三風剣」

 お尋ね者となり諸国を放浪する剣士・雪健は、江州から禁軍が輸送する財宝を狙う盗人の少女・元奴を助ける。一人突っ走る元奴を追った雪健は、禁軍の宿舎で、激しく戦う男女を目撃する。男は禁軍に雇われた伝説の達人・華風先生。そして女は、かつて雪健が自害に追い込んでしまった女性と瓜二つだった…!

 武侠、であります。中華(風)ファンタジーではなく、まぎれもなく武侠小説、それも日本人作家の手になるものであります。

 作者は嬉野秋彦、個人的にはSNK作品のノベライゼーションで印象の強い作家ですが、これまでもまさに中華ファンタジーを数多く発表してきた方です。

 そして本作の背景となるのは、そのデビュー作からほぼ一貫して扱っている中国宋代。
 その末期、徽宗の治世を舞台に、剣戟と恩讐が交錯する物語が展開されることとなります。

 本作のタイトルのうち、「三風剣」とは、物語の中心となる三人の剣士――独臂狂風 穆雪健、梅花清風 田紅雲、薫風剣 華風先生――の異名を指しますが、その中の一人、主人公たる雪健は、過去のある事件がもとで、友人を、身分を、そして剣士としての未来を失い、諸国を放浪する男。

 その雪健が、追われる盗人娘・元奴を助けてしまったことから、物語が始まることとなります。
 元奴が狙うのは、江州から禁軍が護送する財宝。当時、徽宗が諸国の名木奇石を集めるどさくさに紛れて集められ、ある高官に献上されるその財宝を運ぶ一行を、なりゆきから元奴と共に追いかける羽目になってしまった雪健ですが…

 その前に立ち塞がるのが、一行を差配する江州副知州の護衛として雇われた伝説の剣士・華風先生。
 そしてもう一人、その一行を付け狙い、そして偶然出会った雪健に激しい敵意を燃やす美女・紅雲――

 かくて、三風剣の戦いに、禁軍、湖賊、さらにある集団が加わり、雪健はその中で己の過去の傷と罪に、向かい合うことを余儀なくされます。
 うむ、見事に武侠小説であります。

 しかし本作がユニークな点は、いかにも武侠小説という人物配置、物語展開を用意しながら、それを物語るに、武林や江湖、内功といった武侠小説用語をほとんど用いていないところでしょう。
 私も既に武侠小説に腰の辺りまで浸かった人間のため、確かなことは言えませんが、あるいは初心者には壁となりかねぬ武侠小説用語(=武侠小説ならではの概念)を用いずに武侠小説を描いてみせる、というのは実に面白く、賞賛すべきことだと感じます。

 そしてまた個人的に気に入っているのは、本作がきちんと史実とのフックを用意しているところであります。
 舞台は徽宗皇帝の頃…といえば、私のような人間には真っ先に水滸伝が浮かぶのですが、本作は水滸伝の、そして北宋末期の歴史に残る人物と事件が密接に絡んでくるのです。

 その一人、問題の財宝が献上される先というのは、当時権勢を誇った宦官・童貫。
 そしてもう一人、物語の後半に雪健や元奴の運命に大きく関わってくる人物がいるのですが――これはここでは伏せておくべきでしょう。


 物語が良くも悪くもあっさりしている面はあります。キャラクターの喋りも、軽いと感じる向きは多いでしょう。
 そういう意味では(うるさ型の多い)武侠小説ファンから見れば、不満はあるかもしれません。

 しかしながら、日本人が自分たちの言葉で自分たちの視点で武侠小説を書いたということは、大きな意味を持つのだと思います。
 この試みがこれからも続いていくよう――そして何より、本作の続編が描かれるよう期待している次第です。

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