« 「戦国妖狐」第5巻&第6巻 | トップページ | 「お髷番承り候 奸闘の緒」 »

2011.04.10

「龍神丸」

 五百年前、八幡船・龍神丸で全世界を荒らし回り、莫大な財宝を遺したという村上三郎右衛門義龍。その子孫、明王丸の九郎右衛門は財宝を探そうとした矢先に行方不明となり、一味は散り散りとなってしまう。果たして龍神丸の宝は何処に隠されたのか、そして九郎右衛門は、その息子・龍太郎は何処に…

 戦前に書かれた「快傑黒頭巾」「まぼろし城」等の少年伝奇冒険小説で知られた高垣眸のデビュー作、幕末を舞台として海賊の秘宝を巡る波瀾万丈の活劇であります。

 宝探し、それも海賊の遺した宝の争奪戦というのは、いわばエンターテイメントの黄金パターンの一つ。
 その意味では本作に新味はありません――というか90年近く(!)昔の作品なのですが――し、シンプルな物語ではあるのですが、しかし、全編に漲るスピード感とテンションの高さ、そして独特の構成から生まれる先の読めない展開で、今読んでも実に楽しい作品となっています。

 幕末から五百年前、八幡船が世界中を荒らし回っていた頃、世界の富の半ば以上を集めたと伝えられる海賊船龍神丸。
 その財宝は、龍神丸の船長であるいわば海賊王・村上三郎右衛門義龍により何処かに隠されたまま行方不明となり、そしてその宝を探すものには恐ろしい祟りがあると言われたことから、一つの伝説として、海賊たちの間に伝えられていくこととなります。

 物語は、この財宝が眠る地として最も疑われてきた土佐の洋上に浮かぶ髑髏島に、一人の男が乗り込む場面から始まります。
 孤島に遺された十三の櫃、島に出没する怪人、謎の黒い魔犬の跳梁、島に潜む謎の一団との戦い――

 見せ場と謎が連続するこの髑髏島での活劇は、しかし物語の序章。
 この後、舞台は長崎、カムチャツカ半島から江戸、江戸から太平洋上と、目まぐるしく変わっていくこととなります。

 実に本作のユニークな点は、この日本中、いや時に文字通りの海外まで次々と場面を転換しながら、その各場面で、主人公格のキャラクターが変わっていくことでしょう。
 目まぐるしい場面転換のみならず、主人公まで次々とバトンタッチしていく展開は、一歩間違えれば本筋がどこにあるのか、混乱させる結果に繋がりかねません。

 しかし本作においては、最初に述べた通りシンプルな物語にその構造を当てはめることにより、わかりやすくも先が読めないという、ある種大衆エンターテイメントとして実に理想的な形を生み出しているのであります。

 そしてそこで活躍する主人公格のキャラクターたちがまた異常に力強い。特におっさんキャラなどは、体温や血圧が現代人の倍くらいあるんじゃないかというテンションで、その豪快な活躍ぶりには、理屈抜きでこちらも熱くなるというものです。


 実のところ本作では、基本スタイルは宝物の争奪戦ではありますが、むしろ内容的には、争奪戦を行おうとする人々のぶつかり合いに力点を置いた印象があります。

 言い換えれば、暗号や絵地図といった、謎解きの要素には乏しいのですが、しかしここで展開する人間ドラマは、シンプルではありつつも、それを補って余りある起伏に富んだものなのです。

 結局、作品の構造が固まった終盤はこじんまりとしてしまった感は否めないものの(謎解きがないという弱点がここで効いてきた印象もあり)、むかしの児童文学、という色眼鏡で見ていたこちらの印象を、良い意味で180度ひっくり返してくれた快作であることは、間違いないのであります。

「龍神丸」(高垣眸 講談社少年倶楽部文庫)

|

« 「戦国妖狐」第5巻&第6巻 | トップページ | 「お髷番承り候 奸闘の緒」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/51354267

この記事へのトラックバック一覧です: 「龍神丸」:

« 「戦国妖狐」第5巻&第6巻 | トップページ | 「お髷番承り候 奸闘の緒」 »