「されど月に手は届かず 魍魎の都」
乳兄弟の皇太子・師貞親王が毎夜悪夢にうなされていることを知った橘家の御曹司・橘則光は、安倍晴明を頼る。その則光の前に現れたのは、晴明に遣わされた渡辺綱をはじめとする頼光四天王だった。悪夢を祓うため、宝剣の力を借りようとする則光らだが、その前に恐るべき敵が現れる。
平安ものというのは、少女もの小説の定番の一つということでしょうか、実に様々な作品が発表されています。
本作もそんな作品の一つ。平安後期の京の都を舞台に、元気印の少年が、親友を救うため、あの頼光四天王とともに活躍する時代ファンタジーであります。
乳兄弟であり、無二の親友である師貞親王が、奇怪な黒い羽根の悪夢に苦しんでいることを知った少年・橘則光。
父・冷泉天皇には奇矯の振る舞いが多かったことから、自分も…と怯える師貞親王を救うため、則光は力ある陰陽師を求めて安倍晴明のもとを訪れます。
晴明本人には出会えなかったものの、自分の願いを晴明に伝えることができた則光が、その帰り道に盗賊に襲われたとき――駆けつけたのは四人の勇士。
美女のような外見と言動ながら弓の達人・碓井貞通。ノリは軽いが脇差の遣い手・平季武。童顔ながら斧を軽々と扱う坂田公時。そして、凄まじい太刀を操る美青年・渡辺綱…これぞ世に言う源頼光が下の四天王であります。
四天王というこの上もなく頼もしい味方とともに、則光は悪夢祓いのための宝剣を求めて奔走するのですが――その前に現れたのは妖しの美女。果たして彼女の正体は…
というわけで、良くも悪くも非常にオーソドックスな平安ものライトノベルという印象の本作。
お話しの展開的には、比較的シンプルなのですが、その分、なかなかに個性的な登場人物のやりとりで見せる、というところでしょうか。
正直なところ、登場人物の喋り方は――例えば現代の高校生のような則光など――いかがなものかとは思いますが、比較的人口に膾炙しつつも、そのキャラクター像はわかりにくい四天王などをこういう形で料理してくれたのは、なかなか面白いと思います。
(特に碓井貞通。これをドラマCDでは松田賢二がやったのか…)
そして登場人物のほとんど全てが実在の人物というのも、なかなか楽しい試みではないでしょうか。
しかし残念なのは、分量・内容の割りには登場人物が多く、ほとんど顔見せ状態で消えてしまうキャラもいたことで、特に冒頭近くに登場した学問好きの少女・諾子など、そのまま消えてしまうには勿体ないキャラだったのですが…
と、実は本作はまさに顔見世興行的作品――諸般の事情で、シリーズ本編の前に書かれた前日譚という扱いらしく、本編では諾子が主人公となっているとのこと。
(彼女の暴れん坊ぶりは本編にお預けということですか…)
ちょっと珍しい成り立ちの本作ですが、なるほど、シリーズの導入部として見れば、その役割はきちんと果たしていると言えるでしょう。
とりあえず、本編の方にも興味が湧いて来ましたから…
「されど月に手は届かず 魍魎の都」(本宮ことは 講談社X文庫ホワイトハート) Amazon

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