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2011.04.19

「隠密秘帖」(小説版)

 震災後のあれやこれやでいつの間にか終わってしまった感のあるNHK時代劇「隠密八百八町」。そのノベライゼーションについては先日紹介したところですが、それに次いで、「八百八町」ののビフォアストーリーである「隠密秘帖」のノベライゼーションも刊行されました。

 正直なところ、どう考えても刊行の順番は逆で、私など、2月に「八百八町」のノベライズが出ていたので、3月の新刊予定に本作があったのを、何かのミスだと思ってスルーしそうになってしまったのですが…(というのはあまりに出版側に失礼なお話ですが)

 徒し事はともかく、本作のベースとなったドラマ「隠密秘帖」は、今年の正月時代劇として放映された作品。
 田沼意次の子・意知が江戸城内で佐野善左衛門に斬りつけられ、八日後に没した事件の探索を命じられた神谷庄左衛門が、その背後の恐るべき真相に気付くというストーリーや、基本的な展開は、ドラマ版とノベライズ版で、ほとんど全く変わりません。

 ドラマ版については――既に放映時に感想を書いていますが――正月時代劇とは思えない、暗く、地味な展開に驚かされたものですが、もちろんその部分についても、このノベライズ版は同様。
 しかし、こうして小説として読んでみると、悪くないものとして感じられるのが面白いところであります。

 これは、既に覚悟(?)が出来ていたということもあるでしょうが、しかしその大部分は、ディテールの書き込みによるところが大でしょう。
 物語の発端となる、善左衛門が刃傷に及び、その結果世直し大明神と祭り上げられた事件の内容、庄左衛門と同僚の探索の詳細(どのようにして目指す相手に接近し、情報を聞き出すか、といった点)、そして何よりも、事件の真相に迫る庄左衛門の揺れる心中…

 もちろんこれらはいずれもドラマでも描かれていたところではありますが、しかしこのノベライズ版では、限られた放映時間では省略されざるを得ない部分も書き込むことによって、物語に厚みを出していると感じられるのです。

 特に庄左衛門の心中については、ドラマ版の方では、一種の生贄に供された不幸な人物という印象が強かったものが、男の、勤め人の、一家の長としての意地を胸に、真実を探求する男という側面がより目立つ形となっており、なかなかに共感できるものがありました。

 そして、これは私の記憶違いかもしれませんが、庄左衛門が小人目付の任に疑問を持った子供時代の又十郎――「八百八町」の主人公――を張り飛ばすシーンも、作中でより印象的なものとなるような位置に入れ替えてあったように感じます。


 そんなわけで、期待以上に楽しめた本作なのですが、しかし同時に浮かび上がった想いが二つ――
 「どうしてドラマ版でここまでできなかった」「どうして同じ作者による「八百八町」のノベライズではここまでできなかった」
 ノベライズがそれなりの水準であったためにこう言われてしまうのもある意味理不尽ですが、これもまた、正直な印象であります。

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