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2011.04.29

「幻魔斬り 四十郎化け物始末」

 今日も今日とて借金返済のために化け物退治を請け負う四十郎。さらに、北町奉行・遠山金四郎に頼まれ、金四郎の偽者退治までする羽目になってしまう。そんな中、とある医院で起きた怪事件を調べて四十郎は、そこで働くお多恵という娘と出会うのだが…

 まさかの(?)五年ぶりの復活、それも三ヶ月連続刊行という破格の待遇でという「四十郎化け物始末」シリーズ、第三弾は書き下ろしで登場の「幻魔斬り」であります。
 「妖かし」「百鬼」ときて「幻魔」…どこかで聞いたような聞いたことないような相手ですがそれはさておき…

 さて本作は、これまで同様(そして大半の風野作品同様)、連作短編スタイルの化け物退治話。
 次々と厄介事(それもしょうもない)に巻き込まれて嵩んでいく借金返済のため、礼金の良い化け物退治を請け負う羽目になった月村四十郎は、今回もビビりつつも様々な化け物と対峙することになります。

 一晩で骸骨に変わった病人、旗本の奥方の枕元に夜ごと立つ影、夜に長屋に訪ねてくる海坊主、占い師を脅かすのっぺらぼうの怪。
 化け物の仕業にしか見えぬ事件に、ビビりつつ挑んだ四十郎が、その真相を知り、「心に闇、人が化け物」と呟く羽目になる…という基本パターンは、今回も共通であります。

 そしてその化け物退治が横糸だとすれば、縦糸となるのはシリーズ恒例の遠山金四郎と鳥居耀蔵の争い。
 ある事件がきっかけで鳥居に命を狙われ、金四郎と知り合った四十郎は、それ以来何かと二人の争いに巻き込まれるのですが――
 今回のそれは、江戸の町で悪事を繰り返し、本物の人気を落とそうという偽金四郎退治。化け物退治のかたわら、遠山桜の名誉回復のため、四十郎は涙ぐましくも可笑しく奔走することになります。

 そして、終盤に描かれるのは、化け物退治と金さんの依頼、その二つが絡み合って浮かび上がる、タイトルである「幻魔」の謎。
 あくどい手口で成り上がった大商人を苦しめる夜毎の悪夢と、赤いからすの怪。そしてその大商人が恐れる存在こそが「幻魔」――
 本作で描かれた事件たちが思わぬ形で繋がっていく中、四十郎の知恵袋である妻・お静も知らぬ「幻魔」の意外な正体と、その背後にあるひたむきで哀しい魂に辿り着いた四十郎は…


 冒頭に述べたとおり書き下ろしの本作は、良くも悪くも、作者が肩の力を抜いて書いたという印象があります。

 ペーソスの固まりのような四十郎が、ぼやきつつも挑む怪事件の数々と、そこで出会う人々のユニークさというものは、本シリーズ…いや作者の作品であればお馴染みの楽しさ。
 その一方で、海坊主事件の真相のようにさすがにしょうもなさすぎる部分は幾つも見られますし、何よりも終盤の事件の連鎖も、いささかご都合主義的なものに感じられます。
(個人的には、作中に登場する書物のタイトルが適当なのも…そこは笑いどころなのかもしれませんが)
 こちらも肩の力を抜いて読めるのはいいのですが、しかしちょっと抜きすぎかな…と感じてしまうのが正直なところではあるのです。

 しかし、これまで化け物を恐れ、人の心の闇に呆れて来た四十郎が、「心に闇、人が化け物」という決まり文句をポジティブな形で受け入れ、そこに一つの人のあり方を見出す結末は、シリーズの締めくくりに相応しい。この辺りのセンスには唸らされたというのも、これまた偽らざる気持ちです。


 さて、さらっと書いてしまいましたが、本シリーズは本作で一応の結末を迎えることとなります。

 その結末もちと安直…ではあるのですが、しかし四十郎もこれまで奔走してきたのですから、これくらい報われてもいいでしょう。
 とはいえ、こちらの偽らざる心境としては、やっぱり四十郎にはまだまだ苦労して欲しいところ。彼には申し訳ないのですが、いつかまた、彼に出会える日を待つとしましょう。

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