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2011.04.07

「さかしま砂絵・うそつき砂絵」収録のシリーズ外作品

 この数ヶ月連続刊行されていた光文社文庫の新装版「なめくじ長屋捕物さわぎ」シリーズも、第6巻の「さかしま砂絵・うそつき砂絵」で、先月めでたく完結しました。
 シリーズ本編は他の方に譲るとして、そこに併録された、作者の他の時代短編をとりあげましょう。

 言ってみれば完全版として刊行された今回の新装版。過去に同じ光文社文庫から「さかしま砂絵」までは刊行されましたが、「うそつき砂絵」の方は初の単行本化…といっても、悲しいかな二話しか書かれていないため、当然(?)穴埋めが必要になります。

 というわけで、残りの部分に収録されているのは、作者の他の時代短編であります。
 こういうことを言っては怒られるかもしれませんが、実は個人的にはこちらの作品群も楽しみにしていた次第です。

 さて、そんなわけで収録されているのは、「春色なぞ暦」と題されたシリーズの「羅生門河岸」「藤八五文奇妙!」「河川戸心中」の三編と、「ふしぎ時代劇」と題された「湯もじ千両」「ばけもの屋敷」「もどり駕籠」「本所割下水」「開化横浜図絵」「うえすけ始末」の六編であります。

 前者の第一話は、岡っ引きを刺して逃げた破落戸が、吉原の羅生門河岸で「消失」した謎を追う、一種の密室もの。そしてその謎を追うのは、なかなか芽のでない戯作者志望の青年で、事件を自作の題材にしようというのですが…

 面白いのは、本作が人間消失という一種の密室トリックを扱いながらも、その実、その背後にあるのが、意外な人間心理の綾、暗い部分が生み出したものというのが面白く、ラストに明かされる主人公のその後――シリーズタイトルを見直して納得――に繋がっていくのにもニヤリとさせられます。

 そして「ふしぎ時代劇」の方は、貧しさから辻斬りを働いた男が、死霊とも生き霊ともつかぬ被害者の娘に追いつめられていく「本所割下水」、業界向け情報誌に掲載されたウイスキーにまつわる洒落た掌編「うえすけ始末」などが面白いのですが、個人的に特に気に入ったのは、「ばけもの屋敷」であります。

 夜毎、凄まじい化け物たちが出没するという屋敷で肝試しするために乗り込んだ若侍三人が体験する怪事の数々…
 という枠組み自体は、江戸怪談に定番パターンの一つではありますが、そこに登場する現実とも幻覚ともつかぬ妖異の描写は、作者の「神州魔法陣」で描かれた、どこか垢抜けた感覚のもの。

 そして何よりも、騒動の末に明かされた真実(そこに至るまでのひねりもまた楽しい)が、これも江戸怪談の伝統を継ぐものであると同時に、むしろ欧州の幽霊屋敷ものに通じるものを感じさせるものであるところに、二つの世界を自在に行き来した作者の面目躍如たるものを感じるのです。
(ラストのもう一ひねりにもまたニヤリ)


 とはいえ、頷いていただける方も多いのではないかと思いますが、作者の時代もの短編の出来にばらつきが大きいのもまた事実。
 本書の収録作品も、上記に挙げたもの以外には、「アレ?」と思わされるものもいくつかあります。

 この辺りは、作者の良くも悪くも一定に抑制の効いた文章が影響している――物語の勢いや温度で紛らわせにくい――点はあるのかな、とは思いますが…

 そうした点の再確認も含めて、しかし、やはり作者の時代短編を、こうした形である程度まとめて読むことができるのは、非常にありがたいお話。

 まだまだ埋もれているであろう他の作品も、なにがしかの形で復活してくれれば…と願う次第であります。


「さかしま砂絵・うそつき砂絵」(都筑道夫 光文社文庫) Amazon
さかしま砂絵・うそつき砂絵―なめくじ長屋捕物さわぎ〈6〉 (光文社時代小説文庫)

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