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2011.05.11

「週刊新マンガ日本史」 第28号「柳生宗矩」

 意表を突いた人物と作画者のチョイスで驚かされる「新マンガ日本史」。第28号は、おそらくは最も意外なチョイスであろう、柳生宗矩であります。
 後年のフィクションでの扱い故に、私を含めた一部層の間ではアイドル扱いの宗矩が、果たして学習マンガでどのように描かれるのか――これは実に興味深いことであります。

 さて、猫井ヤスユキ作画によるこの柳生宗矩伝、結論から言えば、かなり良くまとまった上に、なかなかに興味深い内容と言うべきでしょう。

 本作における宗矩のビジュアルは、激シブのイケメン中年と言ったところ。沈着剛毅な人物として描かれることも多い宗矩ですが、本作はそのイメージを踏襲していると言えるでしょう。
(その一方で、やんちゃ盛りの七郎少年が振るう竹刀と、筆でチャンバラをしてしまうお茶目さも楽しい)

 そんな宗矩の物語は、大坂夏の陣における、徳川秀忠を護っての七人斬りという、戦時における宗矩の剣技の冴えを示すエピソードから始まり、その翌年の坂崎出羽守の一件での宗矩の活躍を描くこととなります。

 夏の陣で大坂城から千姫を救い出し、一度は千姫との婚姻を約された坂崎出羽守が、それを反故にされて激怒し、千姫強奪を企てた一件は、様々な作品で題材とされていますが、これを大事に至る前に収めたのが宗矩であります。
 本作ではこの一件において、出羽守を戦乱の時代を引きずった武士の代表として描き、それに対する宗矩を太平の世に生きんとする武士の代表として描きます。

 戦争から平和へと大きく時代が動いた江戸時代初期は、同時に、武士の在り方が大きく変化していく時代でありました。
 戦闘者としての役割は失われ、統治者としての役割が求められるようになっていく武士――その変化の中で己を見失った者と、己の役割を見出した者、その両者の対立が、ここでは描かれることとなります。

 そしてそこで宗矩が見せるのが、「無刀取り」の極意であるというのが、このテーマ的にもアクションの見せ場的にも実にうまい。
 一種即物的ではありますが、刀無くして相手に克つ宗矩の姿は、活人剣の遣い手として以上に、新しい時代の武士の姿を象徴するものとして、実に印象的であります。

 考えてみれば、学習漫画においてこの時代が、大名クラスの視点から描かれることは多くとも、それに仕える武士の視点から描かれたことは――そしてそこにおける武士の役割の変化が描かれたことは、少なかったように感じます。
 柳生宗矩という人物の面白さは、剣というある意味個人技の世界の頂点に立ちながらも、同時に政治という複数の人間関係を動かす分野においても才能を見せた点にあると、個人的には感じておりますが、なるほど、そこに戦争から平和への武士の過渡期の姿を重ねてきたか…と、大いに感心した次第であります。

 学習漫画としての役割はもちろんのこと、時代ものファン、宗矩ファンが手にとっても決して損はない一冊と言えるでしょう。
 巻末資料の剣術諸派系譜も、子供向けとは思えない知識まで含めて実にわかりやすく、手際よくまとめられており、一見の価値ありであります。


 ちなみにラストでお父さんと一緒に治国平天下の剣を極めることを誓う七郎少年は、巻末付録の絵葉書で、柳生十兵衛として成長した姿を披露。これがまた超ナイスガイで…

「週刊新マンガ日本史」 第28号「柳生宗矩」(猫井ヤスユキ 朝日新聞出版)


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コメント

いや、実はこのシリーズ、マンガの絵で食わず嫌いでした(笑)が初めて購入
しましたが、面白いすね。しかし歴史上の人物の常とはいえ、柳生宗矩はある時は
太平の世のため戦うヒーロー、ある時は非情な権力者とまるで違うようにえがかかれますが、そこが歴史物の面白い点でしょうか。

投稿: エージェント・スイス | 2011.05.15 20:44

エージェント・スイス様:
 このシリーズ、漫画家さんのチョイスが大御所から若手まで、本当に多岐に及んでいるのでなかなか油断できません。その他の巻もおすすめです。
 宗矩の扱い・解釈の違いは、本文にも書きましたが、武芸者と政治家という、ある意味正反対の世界で活躍した点にあるのでしょうね。歴史上の人物を、後世の人間が白黒つけるのはあまり良くないことですが、しかし宗矩の場合は極端に表現したくなる何かがあるのでは(笑)

投稿: 三田主水 | 2011.05.24 00:07

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