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2011.05.16

「乱飛乱外」第9巻

 戦国ドタバタラブコメ忍者アクション「乱飛乱外」もいよいよこの第9巻で最終巻。
 お家再興を目指す雷蔵少年の愛と冒険の旅も、ここにめでたく大団円であります。

 伊賀の頭領争いの中で、これまで秘術・神体合を用いて自分を支えてきてくれたくノ一・かがりへの想いを自覚した雷蔵。
 しかしそのかがりは、秘術を狙う宿敵・冠木星眼にさらわれ、その居城に囚われの身に…

 城を守るは、星眼の外術により人外の力を与えられた百花忍群。
 常人では到底及ばぬ力を持つ彼女たちの力を破れるのは、雷蔵の持つ隠切の太刀のみ――
 かくて雷蔵は愛するかがりを救うため、強敵ひしめく星眼の居城を目指すのでありました!

 という、ラストにふさわしい盛り上がりで始まった第9巻。これまでハーレムものの主人公に相応しく(?)優柔不断で状況に流されてばかりだった雷蔵も、ここに至り主人公らしい大活躍を見せるのですが…
 しかし面白いのは、星眼サイドに生じる、ある異変であります。

 これまで、外術でもって相手(女性)の意志を奪い、己の手駒・百花忍群としてきた星眼。しかし、ただ一人、純粋無垢な心を持つかがりにのみはその術をかけることができず、彼女に振り回される羽目になります。
 そしてその騒動は彼自身のみならず、百花忍群にも波及。彼の忠実な下僕にすぎぬはずの彼女たちにも自我が生じる(この辺り、ある意味女性らしい形で発露するのが面白い)ことに…

 雷蔵にとっては家の仇でもある宿敵中の宿敵が、自分が従えていたはずの女性集団に取り囲まれて右往左往…というギャップが可笑しく、この辺りのギャグ感覚はいかにも本作らしいのですが、しかしそれだけでないのが実に面白い。

 誰かを愛すること、愛されることを知らない――というより理解できない――星眼ならばこそ陥った苦境の中で浮かび上がるのは、彼の異常さ、孤独さ…
 一人一人の女性と真摯に向き合ってきた雷蔵と、女性を道具としてしか見れぬ星眼の違いが、ここで明確に――そして一種我々の同情をかき立てる形で!――示されるのです。

 しかしそこで己の欠落に気付かないのが悪役としての運命か、ついにかがりを外術の贄とした星眼は、神体合を我がものとしてかがりと共に雷蔵の前に現れることに――
 最愛の、そして最強の敵・かがりを前に、雷蔵の選択は…まあ、これはこの物語を最後まで読んできた者にとっては、言うまでもありますまい。

 クライマックスの展開はベタもベタ、お約束ではありますが、しかし本作においてはこれが正しいとしか言いようがありません。
 どこまでも不器用に、しかし心から女性を愛してきた少年を描く本作、愛する者同士が見交わす瞳と瞳が、最強の力を生み出す本作においては――


 と、書いている自分も恥ずかしくなってきましたが、しかしこちらが見たいもの、本作に期待してきたものをきちんと見せてくれた――実にここに至るまでの、特に本作中盤の展開はその点で大いに不満だったのですが――点で、大いに満足しております。

 まあ、その後歴史の中で雷蔵がどうなったか、生真面目に考えるのも野暮なのでありましょう。
 まずは幸福感溢れる結末を、素直に噛みしめるといたしましょう。

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