« 「快傑ライオン丸」 第27話「大魔王ゴースン怒る!」 | トップページ | 「杖術師夢幻帳」 »

2011.05.05

「ICHI」第5巻

 幕末伝奇として、なかなか油断できない内容をキープしている漫画版「ICHI」の第5巻は、主人公たる市から一旦離れて、市の(元)相棒である剣士・藤平十馬に焦点を当てて物語が展開することとなります。それも、意外な人物を道連れにして――

 兄であり、父をはじめとした一族を皆殺しにした仇である十内を取り逃がした十馬。
 市に別れを告げ(告げられ)、京にいるという十内を追う彼は、川崎宿で無口な剣の達人の青年と出会うのですが…その青年の名は、斎藤一!

 言うまでもありません、後に新選組にその人ありと知られるあの斎藤一ですが、この時点の斎藤は、何かに怯え、追われるように京に向かう一人の青年に過ぎません。
 そんな斎藤と、飄々――というより脳天気な十馬はまるで水と油、正反対のキャラクターですが、それでも何となく行動を共にしてしまうのは、これは十馬の人徳(?)というやつかもしれません。
(しかし、自分は「いち」つながりの無口な奴に縁があるのかとため息をつく十馬が可笑しい)

 さて、それだけであれば単なる二人の珍道中で終わるのですが、そうなるわけがない。 旅の途上、文久2年8月に神奈川宿近くを通ったことで、彼らの運命も大きく動くことになります。神奈川宿の近郊――生麦村を通ったことで。

 そう、薩摩藩士によるイギリス人斬殺事件に、二人は巻き込まれ、あろうことかその下手人としてイギリス人たちに捕らわれの身となってしまうのでありました。
 幸い、かつて市と十馬と関わりを持ったヘボンの助けにより私刑は免れた二人ですが、しかし薩摩と幕府、イギリスの思惑が入り交じる中、なおも二人は翻弄されることになるのですが…

 そんな中で光るのは、十馬と斎藤、全く異なるパーソナリティの、そして直前まで全く接点を持たなかった二人が、突然巻き込まれた事件の中で、互いの過去を知り、そしてその中で己自身を見つめ直すことであります。

 特に、優れた剣の腕を持ちながら、どこか危うい横顔を見せる斎藤のキャラクターが面白いのです。
 彼が剣に懸けるひたむきな姿と、しかしその剣への想いが彼の運命を狂わせるという皮肉。そしてもう一つ彼の運命を、間接的にせよ狂わせた異人の存在が、今また彼の運命に絡んでくるという物語展開は、なかなかに巧みであると感じます。

 そして、普段は感情を表に出さない斎藤の内面にいささかなりとも触れることで、彼と似た面を持つ市の内面に、十馬が遅ればせながら想いを馳せるというのも、なるほどこうくるか、と感心いたしました。

 そして次いで語られ始めた十馬のもう一つの過去――
 この巻で描かれた彼の意外な側面と繋がるらしいその過去が十馬の今にどのような影響を及ぼしてきたのか、そしてそれが斎藤にどのような想いを抱かせるのか。
 何よりも、まだまだいくつも波乱がありそうな二人の旅の行方が、いずれ再会するであろう市と、どのように交差することとなるのか。

 画力的にはまだまだな部分があるというのも改めて感じたこの巻ですが――非美形の男性キャラの表情は相変わらず今一つ――それを補って余りあるキャラクターと物語の結びつきが、やはり魅力的に感じられるのです。

「ICHI」第5巻(篠原花那&子母澤寛 講談社イブニングKC) Amazon
ICHI(5) (イブニングKC)


関連記事
 「ICHI」第1巻 激動の時代に在るべき場所は
 「ICHI」第2巻 市の存在感が…
 「ICHI」第3巻 市の抱えた闇
 「ICHI」第4巻

|

« 「快傑ライオン丸」 第27話「大魔王ゴースン怒る!」 | トップページ | 「杖術師夢幻帳」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/51568342

この記事へのトラックバック一覧です: 「ICHI」第5巻:

« 「快傑ライオン丸」 第27話「大魔王ゴースン怒る!」 | トップページ | 「杖術師夢幻帳」 »