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2011.05.17

「浪華の翔風」

 かつて無実の罪で父母を失い、大坂城代直属の隠密・影役として育てられたあや。城の堀に浮かんだ医者の死体と、それを奪い去ろうとする鬼面の男率いる謎の一団と出くわしたあやは、それをきっかけに、大坂の闇で蠢く企てに巻き込まれることとなる。そしてそれはあやの過去にも繋がる事件だった…

 ゴールデンウイーク明けのこの五月の第二週は、私にとっては、「在天ウィーク」とも言うべきものでした。
 築山桂の作品の幾つかに共通して登場する大坂の闇の守護者・在天別流が活躍する新旧二作品がほぼ同時に発売されたのですから。

 本作はその旧の方、築山桂のデビュー作であり、長らく絶版となっていた幻の作品の復刊であります。

 時は文政年間、場所は大坂。大坂城代に仕える隠密・影役の一人であるあやが、城の堀に浮かぶ男の死体を見つけ、謎の一団とその死体を奪い合う場面から物語は始まります。
 口中医(歯科医)であったその男が何故殺されたのか、そして何故謎の一団が死体を奪おうとしたのか?
 事件の謎を追ううち、あやは、町奉行所が、次々と市中の薬問屋を闕所にしていることを知ることになります。

 実は町奉行の同心であった父が無実の罪で切腹に追い込まれ、母も後を追ったという過去を持つあや。
 その父を罠にはめた男が闕所を行っていると知ったあやは、密かに慕う城代・大久保教孝がもうすぐ江戸に去ることもあり、必死に事件を追うのですが――

 その前に幾度となく現れる、鬼面の男に率いられる謎の一団。そして曰くありげな飯屋の男…
 彼らと時に反目し、時に助けられながらも、あやは恐るべき真相に迫っていくこととなります。


 ほとんど一貫して大坂を舞台とした時代ミステリを描いている築山桂ですが、本作は、謎めいた発端部から、不可解な事件、ささいな異変が次々と繋がり、やがて巨大な陰謀の姿を浮かび上がらせるミステリとしての魅力は言うまでもありませんが、そこの重要な背景として、城代と奉行所の対立という、大坂ならではの特殊事情が描かれるのが実に興味深い。

 大坂の町に密着して暮らす――それは、癒着にも容易に繋がるものですが――奉行所と、任期が終わればやがて大坂を去る城代と、この権力の二重構造の隙間に生じた闇の姿を、その両者と縁を持つあやの姿を通じて浮かび上がらせていくこととなります。

 しかし――大坂に存在する力は、武士のそれだけではありません。それが、大坂の闇の守護者、影の戦力たる「在天別流」であります。
 大坂が難波宮と呼ばれた頃より、四天王寺の楽人集団「在天楽所」の裏の顔として存在してきた在天別流。時の権力に屈せず、歴史の陰で大坂の自立を守ってきた彼らが、あやの前に現れることとなります。
(そして、彼らのような存在が、何故今回の事件に姿を見せることとなったのかという点も、本作のミステリ要素を高めているのもまた面白い)

 医師殺しの謎を描くミステリとして、当時の大坂独自の姿を描く時代ものとして、そして大坂を陰から守る者たちの活躍を描く伝奇ものとして――三つの要素を持つ本作において、しかしそれを破綻なく同時に結びつけているのは、あやの存在であり…そして彼女の戦う理由であります。

 先に述べたとおり、彼女の戦う理由は、そもそもは両親の復讐のためであり、愛する主への最後の奉公のためでありました。
 しかし、事態が進行するにつれ、彼女の戦う理由、そしてそれを支えてきた彼女の信じるものは、次々と揺らいでいくこととなります。

 それでもなお、彼女を支えるもの、彼女を突き動かすもの――
 小さくとも確かなその想いが、築山作品すべてに共通するものであることは、作者のファンであればよくご存じであるかと思います。


 デビュー作には作者の全てが含まれていると言いますが、本作はその好例と言うべきでしょう。
 デビュー作がこれほどの完成度であったかと舌を巻くと共に、長らく幻であったその完成度を確認することができたことに、感謝する次第です。


 ちなみに――本作は、時系列的には、「浪花の華 緒方洪庵事件帳」のタイトルでドラマ化された「緒方洪庵・浪華の事件帳」シリーズの後(直後?)に位置するものであります。
 その観点からすると、本作の登場人物(具体的には左近)の行動も、また違った形に見えてくるものがあって、何とも興味深いのであります。

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