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2011.05.15

「柴錬立川文庫 猿飛佐助」(その三)

 文春文庫の「柴錬立川文庫 猿飛佐助」紹介の最終回は「豊臣小太郎」「淀君」「岩見重太郎」であります。

「豊臣小太郎」

 上洛した徳川秀忠の前に現れた軍勢の主は、秀吉の遺児・小太郎と名乗った。その正体を追う幸村がフロイシから聞かされたのは…

 上洛し、将軍位を継承した徳川秀忠。その前に現れたのは、謎の軍勢を率い、かつて秀吉のものであった黄金の鎧をまとった若き貴公子。
 自らを秀吉の遺児・小太郎と名乗った貴公子ですが――しかし奇怪なことに、彼は豊臣秀頼への恨みを口にし、徳川の大坂城攻めの暁には、自らが先陣となるとまで申し出るのでした。

 と、実に興味をそそる冒頭部ですが、本作で中心となって描かれるのは、実はかつて秀吉の子であった人物、豊臣秀次の物語であります。
 小太郎の正体を知るために幸村が出会ったのは、実は生きていたルイス・フロイシ(フロイス)。
 その口から、かつては温厚な文化人であった秀次が狂乱し、殺生関白と恐れられるまでになった裏が語られることとなります。

 裏の事情はさておき、この辺りの秀次の描写は、史実/巷説に伝わるものをなぞっており、さまで珍しくないのが残念。オチも結構ひどいのですが、しかし本シリーズで毎回のように登場する遺児ネタにくわえたひねりはユニークなのです。


「淀君」

 秀頼は秀吉の胤ではなかった。塚原彦四郎なる剣士が、密かに淀君と通じたのだ。ある事件から彦四郎の存在を知った幸村だが…

 と、秀吉の隠れたる遺児の物語に次ぐのは、豊臣秀頼が、実は秀吉の子ではなかったという意外史。
 当然そこには、タイトルロールである淀君の意志が介在しているのですが――しかし本作の真の主役は、塚原卜伝の子・彦四郎であります。

 邪剣を遣い、父に挑戦したことから片目両耳を潰され、追放された彦四郎。放浪の果て、千利休の知己となった彼は、利休が秀吉の命で切腹するのを知り、彼なりの復讐を試みることになるのです。
 言うまでもなく、それが淀君と通じること――秀吉との間の子を欲しながらも、秀吉が既にその能力を失っていたことから、淀君は密かに彦四郎に抱かれたのでありました。

 が、本作の真に見るべきは、クライマックスの展開でありましょう。二条城に上洛する秀頼に、賊徒の群れが襲いかかった時、その前に現れたのは――

 父に捨てられた男が、戯れのように儲けた子に対し、如何なる想いを抱いていたか…その想いが明らかになるラストの一文は、実に感動的なのです。


「岩見重太郎」

 幸村の家来になるべく押しかけてきた岩見重太郎。彼と組んで徳川の軍船破壊に向かう佐助は、思わぬ珍道中を繰り広げる羽目に。

 終いに控えしは、大坂の陣でも活躍した岩見重太郎。講談では狒狒退治で知られる人物ですが、本作では伊予海賊の子孫であり、思慮は足りないが、いかにも豪傑らしい、裏表のない一種好人物として描かれます。
(柴錬先生が実はこういうキャラクターを好むことは、ファンならご存じの通り)

 どういうわけか幸村を天下を取る人物と見込んだ重太郎は、幸村が謹慎する九度山に押しかけ、徳川が建造中の大軍船を焼き払うため、佐助とともに凸凹コンビを結成することとなる…というのが本作のあらすじであります。
 正直なところ、他の作品に比べると意表を突いた伝奇色は薄く、その点では一段落ちるのですが、しかしエンターテイメントとしてみれば、豪傑の大暴れあり、佐助の珍しい濡れ場ありとなかなか楽しい。

 何よりも、九度山での幸村一党の暮らしぶりや、久々登場の三好清海と重太郎の、ある意味似たもの同士のドリームマッチといった、シリーズには珍しいコミカルな味わいを楽しむべきエピソードでありましょうか。


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猿飛佐助 (文春文庫―柴錬立川文庫)


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コメント

あまりの懐かしさにコメントします^^
私が時代小説や歴史小説を読むきっかけとなった、柴錬立川文庫。いまだに新本が売っているという状況なのが素晴らしいですね。
20年以上前に初めて読み、いまだその存在感を本棚の片隅で誇っている。私にとっての柴錬はそんな作家です。
この勢いで、柴錬三国志なんかも取り上げてほしいくらいですw(これはさすがに絶版?かな…)

投稿: たぬき | 2011.05.16 09:21

たぬき様:
 本当にイマジネーションの宝庫と言いたくなるような、何度読んでも楽しいシリーズだと思います。
 確かに、今回、この原稿を書くにあたってamazonで検索して、新刊が買えるのに驚きました。

 柴錬三国志は、数年前にハードカバー化されましたね。実は三国志演義はあまり詳しくないので、この機に読んでみるのもいいかな…とも思っています。

投稿: 三田主水 | 2011.05.24 00:11

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