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2011.05.09

「さびしい女神 僕僕先生」

 蚕嬢の故郷である苗族の国にやってきた僕僕一行。しかし訪れた先は大干魃に襲われていた。日照りの神をなだめるための生け贄に選ばれてしまった王弁は、山で魃という醜い女神に出会う。寂しがり屋の彼女の姿を知った王弁は、彼女を救う手だてを求めて、太古の戦争の生き残りを訪ねて星の世界へ…

 「僕僕先生」シリーズ第四作は、第一作以来久々の長編スタイル。これまでのシリーズの流れを受けつつも、よりスケールをアップした物語が描かれます。

 前作ラストで、追っ手の手を逃れて苗族の住む辺境に向かった僕僕・王弁・薄妃・劉欣・蚕嬢の面々。
 その国こそは蚕嬢の故郷、実は彼女は土地に封じられたある女神をなだめる役の巫女だったのですが、彼女の軽挙が元で封印が破れ、周囲に大干魃が広がり始めることに。

 そこに巻き込まれたのが王弁君、こともあろうに生け贄に選ばれてその女神・魃の元に連れて行かれてしまうのですが…
 しかしそこで彼が見たのは、恐ろしい言い伝えとは裏腹に、孤独の中に生き続けた、さびしげな魃の素顔。そんな彼女に共感と同情を覚えた王弁は、魃が皆と共存できる方法を探すことを決意します。

 と、ここからがある意味物語の本番。何故か手を貸そうとしない僕僕を置いて、王弁は天馬の吉良とともに東奔西走…どころか、長安そして星の世界への大冒険を繰り広げることとなります。
 ここで星の世界というのは、比喩ではなく、本当に星の彼方の世界。道教的世界観で描かれる辺境世界が、本作においてはこの地球を離れた先にあるというのは、なかなかに面白いアイディアで、レトロフューチャー的な香りのあるその世界描写も相まって、非常にユニークな味わいがあります。

 閑話休題、王弁の旅は、空間を超えるものに留まりません。皆が恐れ忌む魃の真の姿、かつての神仙間の戦い――この話自体は第一作でもほのめかされていましたが――において猛威を振るったかつての魃の姿を知るため、王弁は過去の世界をも垣間見るのです(そこには、今後のシリーズの展開をも左右しかねない情報が含まれているようですが…)

 物語が始まった時点では、無気力なニート暮らしだった王弁君。それが中国大陸はおろか、この世界をはみ出すほどの旅をするようになったのは、もちろん僕僕に引っ張り回されてのことではあります。
 しかし本作においては、王弁は自らの意志で旅立ち、時間と空間を超えた冒険を繰り広げることなります。
 それは、頼りの僕僕が、魃に対してはネガティブな…いや、敵対的ですらある態度を見せることもありましょうが、しかし何よりも、他の誰でもない、王弁自身が、苗族の国を――そして魃を救いたいと願った、その強い想いが存在します。

 もちろん、王弁はあくまでも王弁、何ら人より優れた能力があるわけでもなく、相変わらずビビりで考えなし、その場の勢いで動いてしまう、言うなれば凡人であります。

 魃を救いたいと考えたのも、初めは勢いと軽い考え、僕僕言うところの安易な思い入れであったことは間違いありませんが――しかし彼の素晴らしいのは、かつての恐るべき魃の姿を見てなお、そこに一抹の哀しみを見出し、その思い入れを貫いたことでしょう。

 僕僕のような神仙でもなければ薄妃のような妖怪でもなく、劉欣のような超人でもない。
 そんな凡人であっても――いやそれだからこそ、見えるものがある。わかることがある…そんな素晴らしき凡人の活躍が、本作にはあります。

 そしてその王弁の姿に、僕僕が希望と魅力を見出していることは、間違いありますまい。
 そしてまた、私が本シリーズに求めるものも、そこにあります。こんな王弁が見たかった!


 もちろん、あくまでも凡人は凡人、できることに限りはあります。そして今回その過去の一端が描かれた(であろう)僕僕との間には、文字通り天地の隔たりがあるのでしょう。
 しかしそれでもなお、それを乗り越える力が王弁にはあると信じたい。それは、全ての人間にその力があるということでもあるから――

 素晴らしき凡人の活躍に、これからも期待する次第であります。

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さびしい女神―僕僕先生


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