「鬼宿の庭」第1巻 神異の姫君との逢瀬
絵の修行中の青年・深津可風は、倒れた百合の花を助けた礼として、草木百花を司る精霊・たまゆら姫の元に招かれる。二十八日に一度、鬼宿の日にのみ現れる庭で逢瀬を重ねるうち、姫に惹かれていく可風だが…
普段血なまぐさい話や殺伐とした話ばかり取り上げているこのブログですが、たまには美しくしっとりとした、それでいて不可思議なお話も良いでしょう。
おそらくは現代よりも少し前の時代――ふとしたことから二十八日に一度、鬼宿の日(二十八宿の一つ。恐ろしげな名前に似合わず、嫁取り以外は万事に大吉の日とか)にのみ行くことができる不思議の庭に迷い込んだ心優しき絵師見習いの青年と、美しい水神の末娘との交流を描く漫画であります。
主人公の深津可風(ふかつ かふう)は、蒲柳の質ながらも草花を愛する優しい心を持つ、草食系男子の先駆けのような青年。
絵師の修業のため、山中で仲間たちと暮らす可風は、ある日、倒れた百合の花を立て直し、その花粉を浴びたことがきっかけで、この鬼宿の庭に誘われることとなります。
そこに彼を待っていたのは、美しい女性たちに姿を変えた草花の数々。
そして、庭の主であり草木百花を司る美しきたまゆら姫…のはずが、そこに現れたのは、手乗りサイズのちんちくりんのお姫様?
実はこれは姫の省江根(省エネ…)型の姿、思わず可風が姫を手の上に載せると、現れ出でたるは美しくもあどけない姫本来の姿――
天界に生まれ、可風の絵を実体化させる力を持つ天真爛漫な姫に振り回されながらも、可風は姫に惹かれ、二十八日に一度の鬼宿の日を心待ちにするようになります。
本作は、そんな設定の下、可風が鬼宿の庭で出会う奇妙な出来事の数々と、姫の恋模様を描く短編連作的なスタイルで描かれます。
姫に横恋慕する雷神に絡まれたり、遙か昔に自分と同じように姫に恋した青年の存在に嫉妬の虫に取り憑かれたり、様々な事件に巻き込まれつつも、少しずつ可風は姫と距離を縮め、姫も可風に心を開くのですが…
しかし、二人の間にあるのは、神と人、天界と地上という大きな隔たり。
文字通り住む世界が違う以上に、人とは異なる遙かに永い生を生き、それでいて、人に触れられる度にその寿命を縮めるという姫の宿命が、可風をためらわせることとなります(姫はその辺りあまり気にしていないのが、現実の男女のソレを思わせて面白い)。
住む世界の違う男女のラブストーリーは、いつの時代も定番テーマではありますが、本作は、可風と姫のキャラクターがうまく噛み合って、神異の世界を描きつつも、そこにどこか穏やかで、そして微笑ましい、不思議な温度感の世界を作り上げているのに感心します。
そんな二人の世界が、いつまでも続くか、それはわかりません。
人とは異なる時間を生きるかに見える草花にも寿命があり、やがては醜く枯れ、その生を終える時が来ることを考えれば、もしかすると、二人の別れも遠くないのかもしれません。
それでもなお、今はこの世界に浸っていたい…そんな気分にさせてくれる作品であります。
「鬼宿の庭」第1巻(佐野未央子 集英社) Amazon

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