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2011.06.11

「眠狂四郎」 第17話「岡っ引どぶが来た」

 かつて自分が捕らえ、島送りになったはずの男を江戸で見かけた岡っ引のどぶ。しかし奉行所は、男を追うことを禁じ、どぶも何者かに命を狙われることとなる。俄然闘志を燃やすどぶは、行方不明となった吉原芸者が、この件に絡んでいることを知るが、その前に異相の浪人・眠狂四郎が現れる。

 今を去ること約40年前、1972年から73年にかけてフジテレビ系列で放送されていた田村正和版「眠狂四郎」が、先日、CSの時代劇専門チャンネルで再放送されていました。
 本当であれば第1話からきちんと紹介すべきなのですが、ずいぶんすっ飛ばして、せっかちにもこの第17話を本日紹介するのは、この回が柴錬ヒーロー同士の競演回であるからにほかなりません。

 それが、今回のサブタイトルにもある「岡っ引どぶ」。
 岡っ引きながら、飲む・打つ・買うの極道者、女にはもてないご面相ながら、許せぬ悪に対しては仕込み十手を武器に果然立ち向かう、柴錬流捕物帖ヒーローであります。

 実はどぶと狂四郎は同時代人(原作ではどちらも河内山宗春や鼠小僧次郎吉という有名人と関わりを持っています)、その意味では二人が顔を合わせても不思議ではない…はずなのですが、しかしこの組み合わせにはちと驚かされました。

 何となればこの二人は正反対のキャラクター、狂四郎がニヒリスト型ヒーローだとすれば、どぶはエピュリアン型ヒーロー(虚無的な主人公が多い印象のある柴錬作品ですが、実はどぶのような、自分の欲望に忠実な主人公も少なくありません)。
 言ってみれば水と油の関係ゆえ、同じ世界の人間、という印象はなかったのですが…

 が、実際にこの回を見てみれば、その正反対さが、逆にきっちり噛み合った印象で実に楽しい。
 物語の構成的には、狂四郎の世界に「岡っ引どぶが来た」というより、どぶの世界に狂四郎が来たという印象で、どぶが抱えていた事件に、狂四郎が首を突っ込んだ形となっているのですが、二人の設定、普段の行動を考えればこれで大いに納得。

 特に山崎努演じるどぶが、キメキメの言動の田村狂四郎に、ほとんど素の状態で突っ込みを入れるのが面白すぎて――狂四郎の「女は魔物だ」の台詞に、「気持ち悪い野郎だねえ…あんな顔してメザシ食うんだぜ」とか――ある意味作品世界を崩壊させかねない危険球ではあるのですが、それがファンにとっては逆にたまらないものがあります。

 なお、触れるのが遅れましたが、山崎努演じる「岡っ引どぶ」は、この「眠狂四郎」の半年前に同じフジテレビ系列でドラマ化されていたので、当時のファンとしては、帰ってきたどぶと狂四郎の競演に、今の我々以上に喜んだのだろうなあ…と想像します。
(ちなみに「どぶ」の方では田村正和は、どぶの上司である盲目の与力・町小路左門を演じていたようなのですが…さすがのどぶも、その辺りには突っ込みを入れなかった模様)

 ストーリーの方も、島送りになったはずの男が江戸に現れたのと、吉原の売れっ子芸者の失踪と、全く関係ないように見えた事件が一つに結びつき、さらにそこに、冒頭に登場した狂四郎の知人である大塩平八郎の門下生が絡んでくるという構造がよくできていて面白く、単なるイベント回に終わらぬものがあったと思います。

 そして、悪党たちを狂四郎が一人残らず切り捨て(ここでどぶが「円月殺法! 円月殺法!」とリクエストするのも異常におかしい)、悪党どもの財布を抜き取って去っていくどぶを、狂四郎が珍しく明るい心持ちで、口元に微笑さえ浮かべて見送る結末も素晴らしい。
 正反対の強烈なキャラクターの持ち主が、どちらの持ち味も殺すことなく絡み合った、実に理想的な競演回でありました。


 ちなみに今回、冒頭に柴田錬三郎先生その人が登場。
 普段のダンディさはどこへやら、苦虫噛み潰したような表情の飲み屋の親父役なのですが、そこで、どぶの「苦虫噛み潰したような面しやがって、これで女が好きなんだからおそれいっちゃうよ」という言葉に「お前の方だろう、女が好きなのは」と返すくだりは、なにやらメタな感覚すらある迷場面でありました。


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コメント

海外にいて田村正和さんについての作品裏話をきけて感謝
しています。素敵なブログですね。田村氏の眠狂四郎の再放送を見れてうらやましい限りです。DVD出ないものか願っていますが・・・。
アメリカに長くすんでいてもやはり心は日本人でした。時代劇ファンです。そして田村正和さんのファンです。
ブログ応援しています。

ゆみこ

投稿: ゆみこ | 2016.10.27 11:43

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