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2011.06.18

「Fantasy Seller」に見る時代ファンタジー(その2)

 新潮文庫のアンソロジー「Fantasy Seller」収録の、時代もの短編紹介の続きであります。

「水鏡の虜」(遠田潤子)

 国司となり、かつて自分たちを苦しめた山椒太夫を捕らえた厨子王。厨子王に安寿の最期を語る山椒太夫が本当に恐れたものとは。

 鴎外の「山椒太夫」というより、その原話たる「安寿と厨子王」異聞、その後日譚というべき本作は、人間の心に潜む善意と悪意をえぐり出した作品。

 落魄した貴族の子・安寿と厨子王が人買いにさらわれて山椒太夫に買われ、そこで酷使された末に安寿は死に、その犠牲で厨子王は逃げ延び、後に家を再興して山椒太夫に復讐を果たす…という構造はそのままに、本作ではそれを「山椒太夫」の側から描くことにより、全く異なる姿を浮かび上がらせます。

 山椒太夫の息子たちの中で、唯一慈悲の心を持ち、何くれとなく安寿と厨子王を――というより姉の安寿を――支えてきた二郎。
 彼の存在がありながら、何故、安寿は無惨に責め殺されなければならなかったのか。
 山椒太夫の物語の中に、そして自他ともに鬼と認める彼が唯一恐れる「水鏡」の中に、その答えが浮かび上がります。

 人間の心が一番恐ろしい…そう述べるのは簡単ですが、本作においては、その陳腐なテーゼが真実であることを、容赦なくえぐり出すのです。

 しかし、山椒太夫に関する一種のどんでん返し、そして何よりも水鏡に映るものの正体と、作中の仕掛けも巧みであるにも関わらず、読後にいささか食い足りないものが残るのは、本作で描かれる人間の善意が、初めから明らかに弱々しいものとしか映らないためでしょうか。

 善意の力あってこそ、結末の恐ろしさがより映えたのではないかと思うのですが…その点だけが残念であります。


「赫夜島」(宇月原晴明)

 かぐや姫を奉ずる者たちが巣くい、今は死の島となった赫夜島。主の命で、不死の霊薬を探しに島に渡った平将門がそこで見たものは。

 今回の作品紹介の、そして本書のラストは、宇月原晴明の作品。
 誰でも知っているかぐや姫の伝説、「竹取物語」を題材としつつも、そこに平将門と藤原純友を絡め、幻妖奇怪な世界を現出させてみせた、作者ならではの、作者でしか描けない作品であります。

 かぐや姫が天に帰る際に遺した不老不死の霊薬が富士に納められる際、その使者を襲い、それを奪ったという賊徒。
 彼らは天から帰還したというかぐや姫を奉じ、富士周辺の湖に浮かぶ島に巣くっては周囲を荒らしながらも、ある時に島を覆った瘴気に死に絶えたと…

 以来二百余年、今なお生物の影すら見えない島・赫夜島、別名殺生島に、主たる藤原仲平の命で霊薬を探しに渡ることとなった将門と純友の二人。
 その先陣となった将門を、瘴気漂う赫夜島で待ち受けていたのは、奇怪な力を持つ不死身の魔獣・怪人の数々――

 生あるものが存在しないはずのその島に巣くう彼(?)らは何者なのか、そして本当にかぐや姫は天から帰ってきたのか…
 物語は次々と意外な様相を見せ、将門は伝説の背後のおぞましい真実を目の当たりにすることとなります。

 奇想と言うほかない意外かつ意表をついた着想と、海の向こうまで広がっていくスケールの大きさ、そしてそんな中に漂う、人の生につきまとう哀しみの色…
 そんな宇月原作品の魅力は、短編である本作であっても健在であり、本書の掉尾を飾るに相応しい名品と言って差し支えないでしょう。

 本作一編で終わらせるには惜しい、壮大な伝奇世界の序章として、この先の物語を読んでみたい…そう思わせてくれる作品であります。


「Fantasy Seller」(宇月原晴明ほか 新潮文庫) Amazon
Fantasy Seller (新潮文庫)


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