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2011.06.09

「時空間の剣鬼」 隻腕剣、時空を翔る

 父・移香斎が開いた陰流を極めるべく諸国を放浪する隻腕の剣士・愛州彦四郎は、奇怪な術を操る老人・果心居士と出会う。果心居士、またの名をサンジェルマン伯爵――時空監督官である彼に誘われ、彦四郎は歴史を守るため、様々な時空の強敵と対峙することとなる。

 宮崎惇の名が、現在では一部の好事家の間でしか知られていないのは、時代小説ファンにとっても残念なことと言えるでしょう。
 日本SFの創生期から活躍した氏は、同時に時代小説にも手を染め、戦国時代の忍者が怪物の跳梁する地底国で冒険を繰り広げる「魔界住人」、猿飛佐助ら忍者の超人的活躍にSF的解釈を施した「神変卍飛脚」など、実にユニークな作品を遺しているのですから。

 そして本作「時空間の剣鬼」も、そんな作者による、時代小説とSFのハイブリッドとも言うべき作品であります。
 主人公は、戦国時代に陰流剣術を開いたという愛洲移香斎――その子にして放浪の剣士・愛洲彦四郎。父との修行の最中に己の片腕を失いながらも、陰流の剣術・忍法を修め、廻国修行を続ける彼が、あの果心居士と出会ったことから、物語は始まります。

 実は果心居士はまたの名をサンジェルマン伯爵(!)、その正体は歴史の運行を守るため、様々な時空で活動する時空監察官。
 彦四郎の腕前に目を付けた居士は彼をスカウト、彦四郎の方も、文字通り古今(いや、未来も含めて)東西の強敵との対決に惹かれ、これを受けることになります。

 かくて、文字通り時空を叉に掛けた彦四郎の活躍が展開されることとなります。


 本作はこの基本設定のもと、彦四郎が様々な時空で出会った事件を描く連作短編集のスタイルを取っていますが、舞台となる時代と土地のバラエティが実に楽しい。
 古くは紀元前1500年のエジプトでハトシェプスト女王の陰謀に立ち向かい、新しくは現代(1960年代)の南米に潜伏するアドルフ・ヒットラーと対決し…

 ある意味何でもありな基本設定ではありますが、しかし、本作で主に取り上げられるのは、南米や中近東、東欧や中央アジアといった土地。
 あえて誰でも知っているような中国や西欧といったメジャーどころを外して、こうした舞台を用意してみせたのは、これは作者の選択眼の確かさというべきものでしょう。

 短編というスタイルもあってか、彦四郎のキャラクター性は希薄(後半になってくると、自分をこき使う果心居士に文句を垂れたり、ゼノビア女王に熱烈に恋したりとずいぶんと人間らしくなるのですが)、彼の剣術・忍法も万能すぎるのが、今ひとつ食い足りないところではあります。
 しかし、剣豪ものでもたまに見られる、日本剣法vs中国武術、vs西洋剣術といった異種武術との対決が毎回展開されるというのは、これはやはり見逃せません。

 ストーリー面でも、話数が進んでいくにつれ、入り組んだものが登場。
 特に果心居士のフン族のアッティラ王の暗殺から始まり、時代を遡って今度は若き日のアッティラ王を彦四郎に守らせる「アレス王の短剣」と、彦四郎が若き日のヴラド・ツェペシュを助けて活躍する中に、ドラキュラ伝説の虚実が浮かび上がる「ワラキアの復讐鬼」などは、特にその構成や史実との絡め様が実に面白く、印象に残るところです。


 ある意味幻の作家の作品だけに、少々手に入れにくい作品ではありますが、しかしバラエティに富んだ歴史伝奇活劇として、機会があれば手にとっていただきたい作品であります。

「時空間の剣鬼」(宮崎惇 Futaba novels) Amazon


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コメント

若い読者には、あの幻の怪作マンガ「聖マッスル」の原作者と言えば、知っている方もいるかな? ロビンフットやダルタニアン、カエサルも登場する「時空間の剣鬼2」も紹介してあげてください。

投稿: ジャラル | 2011.06.12 11:04

ジャラル様:
それが一番メジャーかもしれませんね…
もちろん続編も紹介しますよ!

投稿: 三田主水 | 2011.06.20 23:25

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