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2011.06.03

「柴錬立川文庫 柳生但馬守」(その一)

 柴錬立川文庫の猿飛佐助もの紹介、ラストになる第三弾は「柳生但馬守」。文春文庫版では「真田幸村」で一端シリーズは完結しているのですが、作中の時系列的にはその前となるエピソードが含まれた作品集であります。
 今回も収録八話を、順に全話紹介いたしましょう。

「柳生但馬守」

 冬の陣に勝利し、淀君を妾にすることを望んだ家康。その命を受けた柳生但馬守は、弟の十左衛門と共に一計を案じるのだが…

 大坂冬の陣に勝利して壕も埋め尽くし、既に豊臣家の命運は掌中にあるも同然の家康が望んだのは、こともあろうに淀君を己のものとすることだった…と、冒頭から作者の奇想に驚かされる作品であります。

 さすがにこのようなアイディアは他で見たことはほとんどないのですが、しかし、家康が年増…というより後家を好んだという史実に照らしてみると、俄然説得力を持ってくるのが実に面白いのです。

 さて、そんな家康の趣味を満足させる羽目になったのが、タイトルロールである柳生但馬守宗矩。本シリーズでは、家康の忠実な配下として、真田主従に苦しめられる損な役回りですが、今回はまた別の意味で苦労させられることとなります。

 既におなじみの人物故か、小伝もなく、代わって小伝と活躍が描かれるのは、宗矩の弟である十左衛門宗章――史実では宗章は宗矩の兄・五郎右衛門ですが――のほう。
 ある計を胸に身分を隠し、大坂城に潜入した宗章は、兄と示し合わせての秀頼の御前での試合を演じることとなります。

 ただ一人、彼らの計に気づいた幸村も何故かこれを黙認し、ついに淀君は家康の元へ拉致されてしまうのですが…ここからが本作の凄まじい点。
 ついに宿願(?)を達したかに見えた家康を襲った、皮肉かつ悲痛な事情が、その後の歴史を決定づけたという結末は、意表を突く冒頭部とある意味呼応するもので、感心させられます。
 そしてまた、さらりと数行描かれたに留まる淀君の描写もまた、実に印象的なのであります。

 ちなみに本作では、真の千姫の末路が描かれたり、以前木村重成が御前試合を行ったことが言及されたりと、以前の作品の流れをしっかりと受けているのも目を引きます(その一方で「徳川家康」の内容とは大きすぎる矛盾があるのですが…あちらは虚言だった、ということにしておきましょうか)


「名古屋山三郎」

 京で娘たちと華やかに舞い踊る名古屋山三郎。徳川の騎馬隊を鮮やかに撃退した山三は、自分が秀吉の遺児と名乗りを上げるが。

 かぶき者の元祖にして美青年の代名詞・名古屋山三郎も、柴錬の手になればこうなる、というのを冒頭から感じさせてくれる本作。
 涅槃会の京に乱入してきた徳川の騎馬隊を、舞い踊る娘たちが自分の着物を少しずつ斬らせながら挑発し、そして山三が水際だった業前で撃退するという導入部には目を奪われます。
(超善人の佐助が、美形にだけは劣等感を感じるという設定がここで生きてくるのも可笑しい)

 しかし山三が秀吉のご落胤を自称したことから、物語は意外な方向に展開。その言葉にただならぬものを感じた幸村が、織田有楽斎から聞き出した過去のある事件とは…
 秀吉と○○○○○○が通じた、というアイディアは、別の作品でも見たことがあるように思いますが、しかしその間に生まれたのが名古屋山三郎、というのはやはり柴錬ならではでしょう。

 そしてラスト、本シリーズではおそらく最も過酷であろう幸村の策が描かれるのですが…権威やカリスマというものがどこから生まれるのか、見事に射抜いた残酷さに驚かされた次第です。


 次回に続きます。

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