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2011.06.13

「先生の隠しごと 僕僕先生」 光と影の向こうの希望

 苗族の国を離れ、南西の辺境に向かった僕僕一行。そこで待っていたのは、漢人たちに虐げられた異民族だけの理想郷を作ろうとしている青年・ラクスだった。ラクスは国作りのパートナーとして僕僕にプロポーズ、僕僕もこれを受け入れ、王弁はもう愕然。しかし、彼が理想郷の影で見たものは…

 シリーズ第3作の「胡蝶の失くし物」も文庫化され、いよいよ好調な「僕僕先生」シリーズの最新作/第5作は、こともあろうに先生が結婚!? というセンセーショナルに過ぎる展開の「先生の隠しごと」。
 前作「寂しい女神」において、その謎に包まれた過去の一端が描かれた僕僕先生ですが、見た目は美少女でも齢は幾万年、積もり積もったアレコレが、今回彼女と、何よりも王弁君を悩ませるのですが――しかし、今回描かれるのは、それ以上にある意味普遍的な問題なのであります。

 魃を巡る騒動も終息し、明るさを取り戻した苗族の地。しかしそこに現れた異国からの使者は、漢人に弾圧された異民族たちが手を取り、立ち上がることを呼びかけます。
 その動きに興味を持った僕僕一行が向かった先で出会ったのは、エキゾチックな美貌と、人々を惹き付ける抜群のカリスマの持ち主の青年・ラクス。

 漢人によって辺境に追われた民たちによる理想郷の建設を謳う彼は、住民が等しく平等に暮らし、望む物を与えられる、美しく穏やかな「光の国」の賓客として、僕僕たちを迎え入れるのですが…
 普段であれば、この手の話に真っ先に疑いの眼差しを向けそうな僕僕が、その理想実現のため、ラクスのパートナー=妻になってしまうとは!

 当然のことながら、これにショックを受けたのは王弁君、まさかのNTR(ってまだ僕僕と王弁は師弟以外の何ものでもないのですが)展開は、散々帯などで予告されていても、やはりインパクトは十分以上にあります。
 ラクスの理想は、同時に僕僕の理想…その実現を僕僕も目指すのであれば、二人の間に割り込む隙はない…か?

 しかし「光あるところに影がある」とは良く言ったもの、ラクスの光の国にも影の部分が存在します。
 劉欣の調べで、その存在を知った王弁は影の側から、理想郷の現実を否応なしに突きつけられるのですが――


 僕僕の結婚という、ショッキングで、それでいてどこか可笑しい展開を用意しつつも、本作がその中で描くのは、民族と民族の軋轢であり、国家と個人の関係であり、差別と抑圧の存在であります。
 果たして、人は他者への/他者からの差別を乗り越えることができるのか。権力からの支配と抑圧の軛を逃れることはできるのか。そして、万人が平等で平和に暮らすことはできるのか――
 この途方もなく大きな――あの僕僕ですら己の道を踏み迷うほど――問題の答えがそうそう簡単に出るわけがありません。

 正直なところ、その解決を謳った理想郷の背後に秘められたものについては、かつて地上の楽園と呼ばれた国の正体を知る現代の我々にとっては、予想の範囲内ではあります。
 その点はちと残念ではあるのですが、しかし、ではその真実を如何に訴えかけるのか、そして如何に打破できるのか? それは、その真実を知ることよりも遙かに難しいことであります。
 王弁君もまた、その真実を前にして、ある意味前作以上に重く、辛い選択を強いられ、その中で(先生の結婚よりも)重い苦しみを背負うことになるのですが…

 しかし、それでもなお、人にはできることがある。たとえ小さくとも、一瞬で消え去るものであっても、希望は存在する――そのことを、本作の物語は、本作の登場人物たちは、いかにも「らしい」形で、きっちりとエンターテイメントしつつも、はっきりと示してくれます。
(王弁たち旅の仲間たちが、それぞれの形で思わぬ「反撃」を見せる終盤の痛快さたるや!)


 このシリーズが、コミカルな神仙譚の形を借りつつ一貫して描いてきたものの一つは、人外の存在との触れあい・対比を通じた、人間とは何者なのか、人として望ましい生とは何か…その問いかけでしょう。
 本作は、それをこれまでもっとも重い形で――一見、面白おかしいデコレーションを施して――描いたものと感じます。

 おそらくは、王弁君が、僕僕にその答を示すその日が、一つの旅の終わりとなるのでありましょう。
 その日が待ち遠しいような、まだ先であって欲しいような――この気分は、おそらくは本シリーズのファン共通の想いなのではないでしょうか。

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先生の隠しごと―僕僕先生


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投稿: 藍色 | 2012.03.27 16:42

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