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2011.06.25

「侍ばんぱいや」 吸血鬼侍、大江戸を往く

 神楽門長屋で暮らす凄腕の浪人・黒羽冬馬。陰気で無愛想だが何故か女にもてる彼の正体は、人の生き血をすする「ばんぱいや」だった。若い処女の血を好む冬馬だが、しかし江戸の風俗の乱れでそれは希少価値。冬馬の苦難(?)は今日も続く…

 吸血鬼ものは、いまも色々と流行のようですが、実は時代劇でも吸血ものは決して少なくはありません。
 基本的にキリスト教文化に根付いた存在が、それとはほとんど関係のないように見える日本(江戸)に出現するという意外性が好まれるのかもしれませんが…

 さて、本作も、江戸に吸血鬼が登場する作品ではありますが、その吸血鬼が、異国からやって来た妖魔ではなく、正真正銘の(?)侍であるのがミソであります。

 おそらくは江戸時代後期、果たして何を方便としているのか、夜になると動き出す謎の浪人・黒羽冬馬。
 彼の正体こそは、人の生き血をすする「ばんぱいや」――かつて女ばんぱいや・かむら(Carmilla?)の血を口にしたことから、ばんぱいやとして不死の生を受け、人知れず長き時を一人生き続けてきた彼は、江戸の闇に潜み、今日も獲物を牙にかけるのですが…

 しかし、彼の目的は、日本征服や同族の増殖などという吸血鬼の定番ではなく、ただ、自分の好物を口にして生きることという、妙に生活感(?)があることなのが面白い。

 が、ここに大きな問題が一つ。彼の好物たる処女の生き血は、江戸では既に希少価値。
 折角見つけて大事に大事に(食事的な意味で)いただこうと取っておいた娘も、長屋の大家のエロ息子・朔太に(性的な意味で)いただかれてしまって悶々とするというのが、毎度のパターンであります。
(ただし、あくまでも好物であって、それだけしか受け付けない、というわけではないのが、ちょっと残念と言えば残念かもしれません)

 そんなわけで、本作はガチガチの恐怖譚などでは毛頭なく、ホラーコメディ(掲載誌が「マンガ・エロティクス・エフ」だったためか、ほんの少しエロチックな描写もあるので、艶笑譚的と言うべきでしょうか)。
 世界観もどこかゆるく、冬馬を付け狙う幕府の祓魔衆も、本当にこいつら吸血鬼を滅ぼす気があるのかしら? 的な感じで、実に呑気で肩の凝らない作品であります


 しかしながら、それでいて時折、ハッとさせられるようなシリアスな部分があるのが、本作の隠れた魅力であります。

 吸血鬼の生活をそれなりにエンジョイしながらも、しかしそれに飽きたらず、武士らしく「生」を全うすることを密かに望む冬馬。
 しかし、武士の魂たる刀を腰にしながらも、しかし、それを以て「死ぬ」ことは叶わない…

 そんな彼の想いは、作中に時にサラッと、時に冗談めかして描かれるのみではありますが、なるほど、侍で、ばんぱいやとはこういうことか、と感じ入った次第です。


 単行本全1巻と、あっさり目ではありますが、しかしそれが不思議と気持ちいい作品であります。

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