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2011.06.04

「柴錬立川文庫 柳生但馬守」(その二)

 文春文庫「柴錬立川文庫 柳生但馬守」収録作品紹介のその二であります。

「曾呂利新左衛門」

 偶然佐助が掘り出した四十九振の正宗。それを見た幸村は佐助に曾呂利新左衛門を探させる。幸村が見抜いた新左衛門の正体は。

 秀吉に仕えた御伽衆と言われる曾呂利新左衛門は、元祖立川文庫では千利休を敵役に、その頓智を存分に発揮した人物ですが、しかし柴錬立川文庫の新左衛門は、もちろんそんな生やさしい人物ではありません。

 佐助が土中に埋められた正宗の名刀を発見することから始まる(ちなみに佐助、草木の苗を植えようとして掘っていたというのが微笑ましい)本作は、その、一見全く関係のないように見える導入部からは想像もつかぬ新左衛門の正体が面白い。

 上記の頓智話を巧みに織り込みながらもここで描き出された新左衛門は、一種の妖人にして復讐者。
 その復讐する先と手段の迂遠さには驚かされますが、しかしその意気地というものは、彼もまた柴錬キャラクターであると感じさせられるのです。

 ちなみに新左衛門と白雲斎が恵林寺でニアミスをしていたかと思うとちょっと面白いですね。


「竹中半兵衛」

 秀頼の子・国松が攫われた。犯人は、死んだはずの竹中半兵衛の配下の忍びだった。しかし半兵衛は忍びに意外な命を下す…

 本シリーズには珍しく(?)史実通りのタイトルロールの評伝が語られる本作ですが、しかしただで済むわけがないのは言うまでもありません。
 本作の半兵衛は、実は病死などしておらず、秀吉が自分を危険視することを予見して、自ら姿を消し、今まで生き続けてきたという設定なのであります。

 物語は、その半兵衛に仕える忍びが、滅亡寸前の豊臣家の血を残すために国松君を奪ってきたことから始まるのですが…しかし、彼に対して半兵衛が下したのは、意外かつ冷酷な命でありました。

 柴錬一流の美文で語られるように、戦国の世には珍しい人格者であり、武士の好もしい部分を集めたかのような半兵衛。
 その彼が、かつての主君の血を引く者、それも幼子に対して、何故そのような命を下すに至ったか…

 そこには、歴史を――己を含めた人の営みを――見通す目を持った者の哀しみと、それでもなお己の信じるところを貫こうとする凛然たる決意の美しさがあります。

 最近、短編集「男たちの戦国」にも収録されたため、間を置かずに再読した本作ですが、名品は何度読んでもやはり良い。
 静かな、しかし残酷で切ない結末の一行には、胸を強く打たれるのです。


「佐々木小次郎」
 

北畠具教の遺児・佐々木小次郎は、父を討った新免武蔵守の子・宮本武蔵に敵意を燃やす。しかし巌流島の決闘に敗れた小次郎は…

 タイトルに相違して、北畠具教の最期の場面という、意表についた場面から始まる本作(尤も、意表を突いた冒頭部が少なくないシリーズではあります)。
 一の太刀を伝授されたほどの剣豪大名が、その生の終わりに守り抜いたのは、その末子・小次丸であり、その具教を討ったのは、新免武蔵守――この小次丸こそが後の佐々木小次郎であり、新免武蔵守の子こそが後の宮本武蔵であった! という、ご落胤話が実に多い本シリーズの中でも、なかなかに入り組んだ因果因縁に、まず驚かされるのです

 兵法者として身を立てた小次郎は、父の仇・武蔵守が既に亡くなったと知るや、その子・武蔵を宿敵と思い定め、かくて二人の因縁が始まるというのは、いかにも本シリーズらしい趣向であります。

 しかし本作は、その因縁の終着点である巌流島の決闘において終わりません。
 その後の物語が用意されており、そこに佐助が絡むこととなるのですが――

 残酷さと背中合わせの静謐さをもって勝者と敗者を描くのは、本シリーズに一貫した態度でありますが、本作における「その後の小次郎」の姿は、まさにそれを体現したもの、と感じさせられるのです。


 次回に続きます。

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