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2011.07.28

「中年宮本武蔵」 迷惑武蔵、大暴走

 小倉藩小笠原家の筆頭家老として多忙な宮本伊織の頭痛の種は、養父・武蔵の傍若無人な行動の数々。そんなある日、小倉に現れた柳生十兵衛と荒木又右衛門に出会った武蔵は、こともあろうに十兵衛を闇討ちで倒してしまう。それがきっかけで、伊織と武蔵は、柳生一門を相手に死闘を繰り広げる羽目に…

 恥ずかしながら今までスルーしていたものを、まるひげさんのブログでの紹介を見て、これは! と飛びついてみれば、実に面白かった作品。
 53歳の武蔵が、傍若無人天衣無縫に暴れ回る、剣豪小説の怪作…いや快作であります。

 養子の伊織が筆頭家老に納まった縁で、小倉小笠原家に身を寄せ、道場を立ててもらい、今は悠々自適に暮らす武蔵。
 しかしその実、あまりに傍若無人な行動のため、弟子や女中には次々と逃げられ、道場は移り気な武蔵の趣味のブツが山積みされた魔窟に変わる始末であります。

 その他にも、次々に挑戦してくる武芸者を片っ端から打ち殺してはその辺に転がしておいたり、些細なことでその力を必要以上に奮う養父の後始末に、頭が痛い毎日を送る伊織だったのですが…ここで極めつけの大事件が発生いたします。
 密命を帯びて小倉に現れた柳生十兵衛と荒木又右衛門との間に悶着を起こした武蔵は、それを根に持って十兵衛を闇討ち。十兵衛をボコボコにして病院送りにしてしまったのであります。

 隠密行とはいえ、幕命で動いていた十兵衛をぶちのめしたのは大問題。
 しかも朝鮮通信使暗殺というその幕命に反感を持っていた小笠原忠真から、逆に暗殺阻止を命じられ、伊織と武蔵は、女間者のりくと三人で、又右衛門率いる伊賀忍者・柳生剣士軍団と死闘旅を繰り広げる羽目になるのでありました…!


 映画や小説には「迷惑な親族もの」と、私が勝手に呼んでいる趣向の作品があります。
 親だったり兄だったり、とにかくロクデナシで常識がなくて、トラブルばかり起こすその親族に語り手が振り回され、しかしそのロクデナシに意外にいいところがあって、何となく良い話になるというアレですが、本作もその系譜に連なるものと言えるでしょう。

 本作の主人公的立ち位置にある伊織は、常人に比べればかなりナニですが、それでもりっぱに常識人で地位も身分もある人物。
 そんな彼にとって、色々な意味で(時々物理法則も無視する)常識外れな武蔵は、頭痛の種以外の何物でもありません。

 それでも、(男色オンリーのわりに)傷ついた女性の心を優しくいたわったり、その自由な言動が吉原では男女を問わず大人気だったりと、良いところもあったり、時々弱いところも見せたりして、ちょっとしんみりさせる部分はしっかりあります。

 そして、物語のテーマ的にも、個人の力では到底抗えない時代の流れに取り残された時、人は如何に生きるべきか? という、切なくも重いものを持っている本作。
 そのキャラクターは全く異なるものの、実は、たたかうことでしか自分を表現できない武蔵と又衛門の決闘の中でそれを浮き彫りにしてみせるなど、単なるバカ小説では決してないのですが…


 しかしそれでも、2ページに一度は炸裂してそうな武蔵の無茶苦茶なキャラクターに、全て持っていかれているのもまた事実。
 伊織ならずともツッコミを(拳で)入れたくなるような武蔵の言動を追っかけているうちに、色々と頭が真っ白になること間違いなしなのであります。

 特に、本作の山場の一つである、伊賀上野での伊賀忍者の大群との決戦の場面など…これは初見のインパクトを大事にしたいので内容は触れませんが、あんまりといえばあんまりな事態に、真剣に己の目を疑った次第です。


 まさしく、作中の武蔵同様、こちらを色々と振り回してくれるこの「中年宮本武蔵」という作品。
 しかしこれも作中の武蔵同様、それが実に魅力的で、愛すべき存在となっているのも間違いありません。

 なろうことなら、その後の、島原の乱での武蔵の姿も読みたいものです。

「中年宮本武蔵」(鈴木輝一郎 双葉社) Amazon
中年宮本武蔵

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コメント

おばんです!
壮絶にお久しぶりのご挨拶になってしまいまして
申し訳ありませんです。

『中年宮本武蔵』、拙ブログがきっかけとは恐縮の限りです。
迷惑人間・武蔵がたまーに見せる本気に痺れますよね。
普段のアレな行動とのギャップにより
かっこよさがより際立って見えるという不思議。
それにしても、よいやさよいやさ…(笑)。

先日、この作品の背景となった柳川一件を主題とした『国書偽造』を読んだところ、
同じ作家さんとは思えないほど終始シリアスなテンションで面食らいました。
やや重苦しい雰囲気ですが、機会がありましたら、こちらも是非!

投稿: まるひげ | 2011.07.29 00:06

まるひげ様:
こちらからうかがうべきところをすみません。しかもリンクを貼り忘れておりました…申し訳ありません。

と、本当に面白い作品をご紹介いただき、ありがとうございました。
これだけ無茶苦茶やっても自分の中の宮本武蔵像と比べてあまり違和感がないのも恐ろしいです(笑)
「国書偽造」もいずれ読んでみたいと思っていた作品なので、近日中に。

ちなみに鈴木作品で目を疑うと言えば「白波五人男」ももの凄いのでおすすめです。本当に凄いです。

投稿: 三田主水 | 2011.07.29 00:50

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