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2011.07.14

「ロクモンセンキ」上巻 武士の幸村と忍びの幸村

 天正13年、上野沼田を巡り、徳川軍による真田氏の上田城攻めが始まった。上杉家の人質となっていた真田幸村は、その報に接し、景勝の許しを得て上田城に駆けつける。圧倒的な戦力差に対し、地の利を活かした作戦で挑む真田昌幸。ついに初陣を迎えた幸村の運命は…

 普通の作品では満足できない時代小説愛好家にとっては、いまや見逃せないレーベルとなったメディアワークス文庫。
 その新刊ラインナップに出海まことの名前を見た時は、小躍りしたい気分でした。

 出海まことで時代ものといえば、やはり永倉新八が、魔物と化して復活したかつての仲間たちと対決する「鬼神新選」がやはり思い浮かぶわけですが、本作「ロクモンセンキ」は、かなり歴史小説サイドに近い、それでいて「らしさ」も感じさせる内容となっています。

 この上巻で描かれるのは、第一次上田合戦(神川合戦)――上田城に依った真田昌幸が寡兵でもって徳川の大軍を散々に打ち破り、その名を知らしめた合戦であります。
 本作では、その合戦の開戦直前から、両軍が最も激しく激突を繰り広げた上田城での戦い、そしてこの合戦のクライマックスとも言える神川での水攻めを、幸村の目を通じて描き出しています。

 この当時、史実であれば幸村は上杉景勝の下で人質生活を行っていたはずですが、しかしそこは一工夫、景勝の温情(だけではない意味も込められているのがうまいのですが)により、密かに抜け出し、上田城に馳せ散じたという趣向となっております。

 その幸村、本作では兄・信之とは母が違い、そのことにいささかコンプレックスを持っているという設定なのですが――それでも、謀略家でありつつも親としての情は厚い昌幸や、ちょっと黒いところも見せつつも頼もしい兄である信之に見守られ、見事初陣を飾ることになります。

 もちろん、昌幸一流の軍略、そして上田の地の利はあれど、敵はこちらの数倍にもならんとする大軍。
 その不利をいかにして覆すか、という歴史ものとしての面白さは間違いなく存在するのですが、やはり個人的に注目してしまうのは、本作ならではの幸村の個性、キャラクターというものであります。

 実は幸村の母は、真田家に仕える忍びのうちでも、先代「猿飛」を名乗った達人(!)。その父であり、幸村の武術の師は先々代の猿飛…と、幸村はいわば侍でありながら忍者のスキルを会得した存在として描かれます。
 しかし、それは彼にとって、必ずしも喜ぶべきことではありません。当時の武士にとって、忍びの技は外連の技、武士が使うべきではないものと、一段も二段も低く見られていたのですから…(そしてそれは、忍びの血を引く幸村自身に対しても向けられるものでもあります)

 合戦の中、咄嗟に忍びの技を使って強敵に勝利しても、喜ぶどころか落ち込んでしまう――その辺りは青いと言えば青いのですが、しかし彼を非常に好もしい少年として描くことに成功していると言えましょう。

 さて、そんな幸村の存在の二面性は、本作の構成にも見ることができます。
 すなわち、上田城での徳川軍との激戦の中で見せるのは、武士としての幸村――そして、神川をせき止めた堰を破壊するため、堰を占拠した徳川側の忍びとの死闘の中で見せるのは、忍者としての幸村。

 そしてその幸村につき従うのは、霧隠の異名を持つ少女くノ一・彩香をはじめとする、後に真田十勇士と呼ばれる者たち。
 この辺りはお約束と言えばお約束ですが、幸村と彩香の微妙な距離感の描き方はラノベ的で、この辺りはこのレーベルらしい独自性というところでしょう。
 そして何よりも、当代の猿飛が実は! という一種のどんでん返しは、他の作品では全く見たことのないアイディアで、これは脱帽いたしました。

 ただ、個人的に気になったのは、どう見ても池波正太郎の文体を(模写している……)としか思えない文章が頻出する点であります。
 内容的・題材的に「真田太平記」リスペクトということなのかと思いますが、本作は本作で面白い作品なのに、そこまでしなくとも…もったいなく感じた次第です。


 そんな点もありますが、まずは十分以上に楽しめた本作。
 上巻ということは次は中巻か下巻か…そのくらいの巻数で終わってしまうのが、もったいなく感じてしまうほどなのであります。

「ロクモンセンキ」上巻(出海まこと メディアワークス文庫) Amazon
ロクモンセンキ〈上〉 (メディアワークス文庫)

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