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2011.07.04

「吉原夜伽帳 鬼のみた夢」 吉原という異界に生を見る

 その異様な美貌と凄腕ぶりから「外道菩薩」と呼ばれる吉原の妓有・弥太郎。彼には人の目には見えぬ死者の魂を見る力があった。ある日、彼を訪ねてきた男には、何者かに惨殺された花魁・東雲の顔のない幽霊が憑いていた。弥太郎は、友人の売れっ子絵師・八重垣とともに事件の裏を探り始めるが。

 新刊予定で題名を見た時から、これは時代もの、それも私好みの…という予感が強くあった「吉原夜伽帳 鬼のみた夢」が発売されました。
 さっそく手にとってみたわけですが、この予感は当たり…どころか、内容の方も大当たり。見事な時代ホラー/ファンタジーでありました。

 主人公は、吉原の中見世「雪柳」で妓有(遊女屋の雑務を担当する男衆。妓夫・牛太郎と同じ?)を務める青年・弥太郎。
 白い髪に赤い眼という異様な姿でありながら女とも見まごう美貌の持ち主、それでいて、腕っ節は異常に強い彼は、外道菩薩と徒名され、吉原でも恐れられる存在であります。

 口元には、作ったような笑いを浮かべつつも、その心根は――ごくわずかな例外対象を除けば――どこまでも冷たく、決して人に本心を見せない。
 その容姿同様、ある意味奇怪な存在である彼には、さらに人にはない能力――死んだ者の姿が見えるという能力がありました。

 そんな彼の前に現れたのは、天才仏師・恵春の弟子・恵岸と名乗る男。
 彼は、師に身請けされて妻となり、その後何者かに殺され、顔の皮を剥がされるという無残な姿とされた花魁・東雲のことを尋ねるため、弥太郎を訪ねたのであります。
 そして、その傍らに佇むのは、まさにその、顔のない東雲の幽霊。そして恵岸の手には、師が遺したという顔のない仏像が――
(この仏像、余人が顔を彫ろうとしても、決して彫れない…というより傷一つなく復元されてしまう、という趣向に痺れる!)

 と、この導入部の時点で、既にこちらは物語に惹かれっぱなしなのですが、ここからの展開も期待を裏切りません。

 ただ一度出会い、謎めいた言葉を交わした東雲の辿った運命に興味を持ち、背後を調べ始める弥太郎。
 しかし事件は思わぬところに飛び火し、顔の顔を剥がされた新たな犠牲者が、今度は吉原の中で出ることとなります。
 果たして、東雲は何に心を残しているのか。顔のない仏像の意味するものは。そして何よりも、顔剥ぎ殺人鬼の正体は…

 入り組んだ事件の真相と、その果てに明かされる犯人像など、一種のホラーミステリと見ても実に面白い――特に捻りが加えられた犯人の正体は、ホラーものとしてもちょっと珍しい――のですが、しかし何よりも見事なのは、そこに登場人物それぞれのドラマが絡み合い、昇華されている点であります。

 主人公たる弥太郎、そして彼の探索に巻き込まれる、弥太郎とは腐れ縁でお人好しの売れっ子絵師・西島八重垣と、弥太郎と兄妹のように育ち、密かに彼を慕う禿の末葉の二人、いや、事件の被害者たる東雲や、弥太郎を取り巻く吉原の人々…
 本作に登場する人物は、それぞれの暮らし送りながらも、その心底には、それぞれに深い屈託を抱えながら、「生きて」いることが描かれます。

 それは過去の悔恨であり、そして未来への不安であり――生きていくうちに、当然のように積もり積もっていく澱のようなもの。
 人がそれから自由になれることはないのか、果たして死ねばそれは消えるのか?
 本作の物語に漂うもの、そして本作に描かれた事件を引き起こしたものは、言い換えればその問いかけなのであります。

 吉原という本作の舞台、そしてそこで描かれる怪異な物語は、現代の現実に生きる我々にとっていれば、幾重にも隔てられた、いわば異界であります。

 しかしそれであっても、いやそれだからこそ、そこに暮らす人間の抱える想いはより鮮明に浮かび上がるのであり、そしてそれが実は、我々の抱える想いに重なるものであるということを――これがデビュー作とは思えない作者の達者な筆は、見事に描き出していると感じます。


 吉原という人の想いがむき出しでぶつかり合う地で、「死んで」「生きる」弥太郎。生死二つの世界を見る彼の存在は、確かに菩薩――しかしやはり外道の――なのかもしれません。
 その彼がこれから何を見るのか、我々も見続けたいものです。

「吉原夜伽帳 鬼のみた夢」(ミズサワヒロ 小学館ルルル文庫) Amazon
吉原夜伽帳-鬼の見た夢- (小学館ルルル文庫 み 3-1)

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