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2011.07.15

「鬼やらい 一鬼夜行」上巻 再会の凸凹コンビ

 小春が喜蔵の前を去って半年。ようやく出会った生き別れの妹・深雪と共に暮らすこともなく、孤独に暮らしていた前に、再び小春が現れた。厄介な妖怪を追ってきたという小春に表向き渋々つき合う喜蔵だが、二人が行く先々で聞くのは、女好きだが気弱な妖怪の話ばかりで…?

 夏だから、というわけではないと思いますが、ここのところ、妖怪もの時代小説がたて続けに発売されて、私のような人間にとっては嬉しい限りなのですが、そんな中にさらに一作――

 百鬼夜行から落ちてきた自称大妖怪の小春と、妖怪も震え上がる強面の骨董屋・喜蔵の凸凹コンビが、明治初期の東京を駆ける「一鬼夜行」の待望の続編、「鬼やらい」の登場であります。

 前作から半年、小春が去っていった後、表向きは普段通りの骨董屋稼業を続ける喜蔵。
 あんなはた迷惑な奴など帰ってせいせいした、と言わんばかりな態度を取りながらも、しかしその実、小春がまた帰ってくるのではないか、と毎晩のように夜空を見上げる姿を、店の付喪神にはしっかり見られているのですが…

 そんな想いが通じたか、鬼やらい(節分)の晩に、小春は再び喜蔵の前に落ちてくることとなります。
 今回は落ちてきたのではなく、浅草近辺に出没する妙な妖怪の調査という使命を帯びてきたという小春と、喜蔵は嬉しさ半分、後悔半分で、再び行動を共にするのでありました。

 バディものの必然(?)として、前作ラストで別れた二人ですが、その超強面にもかかわらず内面は繊細な喜蔵の凹みっぷりを示しておいて、こちらの気持ちを盛り上げ、いつ来るか来るかと思わせておいて――というところで喜蔵と小春の再会を描くというのは、お約束と言えばお約束ではあります。

 しかしそれこそがこちらも望むものなのですから、もちろん文句はありません。全く変わらない小春の脳天気ぶりと、喜蔵の仏頂面…いや鬼面デレをたっぷり見せてもらえば、こちらの気持ちもいよいよ盛り上がります。

 そんなこんなで、再結成された凸凹コンビですが、しかし二人が出会う事件が、普通のものであるわけがありません。
 妖怪探しを始めた二人が行く先々で目撃談を聞くことになったもの、それは恐ろしい妖怪などではなく、女性にばかりまとわりつく、しかも妙に弱気な妖怪「たち」。
 そんな、おかしな連中が出没することになった謎を追う二人の前に、意外な真相が浮かび上がるのですが…


 さて、シリーズの第二弾、さらに今回は上下巻ということで、より余裕ができたということでしょうか、前作でも作者のデビュー作とは思えぬほど充実していたキャラクター描写の面でも、ストーリーの構造の面でも、さらに充実していると、この上巻の段階でも感じられる本作ですが、特に今回目に付くのは、喜蔵の内面描写でしょう。

 前作での冒険を経て、仲違いしていた(一応)親友の彦次と和解し、生き別れの妹とも再会することができた喜蔵。
 己の心をその強面で鎧い、ひたすらに秘め隠して生きてきた喜蔵も、これで新たな一歩を踏み出すことができた…とは残念ながらいかないのが人間というものというのは、まず頷ける話であります。

 先に触れた、小春への態度も含めて、己の心に正直になれない喜蔵の姿と、それに戸惑う周囲の人々――いや、妖怪も含めて――の姿が、本作ではユーモラスでありつつも、ほろ苦く描かれます。

 喜蔵が己の殻を破れるか、そしてそれはいつどんな形で…というのは、謎の妖怪を巡るストーリー本筋と合わせて、大いに気になるとことであります。


 そして物語の方は、おかしな妖怪の正体が解明され、そしてその黒幕が正体を現したとことでこの上巻は終わり、第一幕の終わりといったところ。
 敵との対決に如何にして幕を下ろすのか、そしてまた、喜蔵を巡る物語をいかに描いてみせるのか…期待して下巻に向かうとしましょう。

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