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2011.07.29

「もののけ侍伝々 京嵐寺平太郎」 ちょっとユルめの妖怪小説?

 広島藩の下屋敷で呑気に暮らす青年侍・京嵐寺平太郎には秘密があった。故郷・備後三次を騒がす妖怪変化の大将と彼は幼なじみ、しかもその妖怪大将は、平太郎にくっついて江戸に来たのだった。そんな折り、江戸では姫君が次々と奇怪な鬼に攫われる事件が相次ぎ、平太郎に鬼退治の命が下ることに…

 夏だから、というだけではないように思いますが、この数ヶ月は、妖怪時代小説がなかなかの豊作。
 かねてからのシリーズ作に加え、妖怪変化が活躍する時代小説の新作も様々に登場し、好きな人間にとっては実に嬉しい状況にあります。

 本作も、そんな中に登場した妖怪時代小説の一つ。大妖怪を幼なじみに持ち、幾多の妖怪たちと暮らす青年侍・京嵐寺平太郎が、破邪の太刀を以て悪しき妖怪に立ち向かう…わりにはちょっとユルめの、なかなかユニークな作品であります。

 主人公・平太郎は、備後三次の出身。三次には古来より、様々な怪現象を起こしては人々を脅かす大妖怪・妖怪大将がいたのですが…この妖怪大将が住み着いていたのは、平太郎の実家。
 幼い頃から妖怪大将を近くに置いて育った平太郎にとって、彼ら妖怪はいわば幼なじみであり、恐れるべきものではなかったのですが――
(ちなみに三次で平太郎と言えば、妖怪好きには当然のごとく「稲生物怪録」の稲生平太郎が思い浮かぶわけですが、本作はこちらをヒントにしている旨、律儀に記されています)

 そんな彼の生い立ちを知らぬ者にとって、大妖怪を前にしても平然とする彼はまさに勇者。
 そんなわけで、彼は知る人ぞ知る妖怪退治のエキスパートとして、一朝事あらば呼び出されるのでありました。
 …基本的に呑気な本人にとっては、はた迷惑な話なのですが。

 本作は、そんな平太郎を主人公とした全四話の連作短編からなる作品であります。
 江戸の名門の姫君たちを次々と襲う奇怪な鬼に、平太郎と仲間たちが立ち向かう第一話「鬼の風」・第二話「戸隠の若殿」。将棋友達でたぬき使いの神主とともに、百姓の妻の奇行を追う第三話「式鬼神」。不可解なままにやせ衰えていく男の謎を解き明かす第四話「飛縁魔」。
 スケールの大きな話から小さな話まで、良い意味でバラけた印象の作品群ですが、そんな中にも意外な形で伝奇的仕掛けがあるのも、面白いところです。

 面白いといえば、平太郎の仲間の妖怪連中――妖怪大将・樋熊長政に齢五百歳のおばば、その上をいく千二百歳の白狐・おきんといった面々の、頼りになるのかならないのか、ふわふわしたキャラクターもなかなか面白い。
 何となく、大映の妖怪映画に登場する妖怪たちを想像してしまうような、そんなユーモラスな連中なのです。


 しかしながら、本作通してで言えば、まだまだ…という印象が強くあります。
 キャラクターはいい、設定も面白い。ストーリーもまずまず。しかし、それをまとめる文章の力、描写力といったものが、どうにもしゃっきりとしない。
 特に、凶悪な妖怪変化やおどろおどろしい怪異を描く時、大なり小なり必要となるケレン味があまり感じられない――どこか淡々と描いてしまっている――のは大きなマイナスに感じられます。

 その辺りが、逆に先に述べた平太郎の仲間の妖怪たちの楽しいキャラクターに繋がってくるのかもしれませんが、その辺りのメリハリは欲しいところです。


 平太郎や妖怪たちの愛すべきキャラクターが魅力的なだけに、この辺りが解決されれば…と、いう気持ちが先に立ってしまうのでありました。。

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