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2011.07.19

「勝負鷹 強奪「老中の剣」」 プロの魂、男の魂!

 無実の罪で捕らえられたかつての友・酒田半兵衛が勝負鷹に託した願い。それは、家伝の刀を奪い、彼を陥れた老中・水野忠邦から、刀を強奪し、赤恥をかかせることだった。水野の配下に、酒田と自分を陥れた和久井鴻二郎がいることを知った鷹は、奇想天外な策で水野と和久井に挑む。

 謎の覆面作家・片倉出雲のハードボイルド時代小説「勝負鷹」シリーズ待望の第三弾「強奪「老中の剣」」の登場であります。

 狙った獲物は逃さぬ凄腕の白波侍・勝負鷹の今回の獲物は、老中首座・水野忠邦の佩刀。
 百化けの早乙女、騒動師の吉三ら腕利きのプロフェッショナルとともに、不可能ミッションに挑む鷹ですが…今回は彼の意外な側面を見ることとなります。

 自分が仕掛けた仕事の犯人として捕らえられたのが、かつて自分とともに島田虎之助門下で三羽烏と謳われた一人・酒田であると知り、牢に忍びこんだ鷹。
 死病と拷問で余命いくばくもない酒田が鷹に依頼したのは、一つの仕事――それは、かつて自分の元からだまし取られた家伝の名刀を、今の持ち主である水野忠邦から奪い返し、水野に赤恥をかかせることでありました。
 酒田の最後の頼みを聞き、彼に止めをさした鷹は、天保時代の最高権力者とも言うべき水野に、大勝負を挑むことに…

 と、冒頭から暗く重く、そして熱い、本シリーズらしい展開で始まる本作ですが、しかし、これまでのシリーズになかった要素――鷹の過去が、密接に絡んでくることになります。

 これまで、ただ武士の出身であるらしいことのみが語られてきた、正体不明の男・鷹。しかし今回の仕事は、そんな彼の過去に密接に絡んでくるのです。

 上に述べたように、今回の仕事の依頼人は、彼の旧友であり、三羽烏とも呼ばれた仲の男・酒田であります。
 しかし、その三羽烏の残りの一人・和久井こそは、酒田から件の刀をだまし取り、水野に取り入って、今はその懐刀に収まった男。そして、この男は、鷹の許嫁・お縫を寝取り、鷹が白波に身を落とすきっかけを作った、いわば宿敵でもあったのです。

 かくて、彼自身の過去にも密接に関わるものとなった今回の大仕事。
 もちろん、鷹もプロの中のプロ、いかに不倶戴天の仇が絡んだとしても、仕事の遂行を最優先に…するというわけでもないのがなかなかに面白い。

 凄腕の白波侍として、いかに過去を捨てたように振る舞おうとも、一人の男としてはやはり捨てることのできぬ過去の怒り・恨み・悲しみ。
 本作の鷹の姿からは、そんなプロの冷徹な魂と、馬鹿な男の熱い魂がせめぎ合う様が、強く感じられるのであります。

 仕事に全てを賭けるプロフェッショナル、というのも実にいいのですが、しかしそんな男が、プロとして振る舞いつつも、過去の傷、過去の自分を乗り越えようと、寡黙に戦う姿もまた、実にハードボイルドでよいではありませんか。


 と、鷹個人のドラマばかり強調してしまいましたが、もちろん、仕事の仕掛けの方も見事なことは言うまでもありません。

 いかな勝負鷹と仲間たちとて、時の最高権力者たる老中首座のもとに忍び込み、武士の魂たる刀を盗み出すのは至難の業であります。
 と、そこに降って湧いたように持ち上がる、将軍の日光参拝。水野もそこに同行することになったのを奇貨として、鷹たちは――渋い働きを見せる脇役のプロフェッショナルたちの助けを借りて――その道中を狙います。

 しかし、むしろ将軍の行列に挑む方が至難ではないのか?
 しかも、和久井のものとなった後に水野に献上されたお縫が、この道中の最中に、将軍・家慶の閨に侍ることに。
 そして、水野を守るのは恨み重なる和久井――

 かくて、過去の因縁と現在の仕事、二つが幾重にも入り乱れて、物語はクライマックスを迎えることになります。

 そして、そこで鷹の口から出る言葉には、そんな入り組んだ今回の物語を象徴するように、抑制が効いたものでありながら、途方もなく熱い彼の想いが込められていて炸裂していて、いやはや、もうこちらとしても燃えるほかないのであります。
 そしてまた、結末の展開の痛快さたるや…!


 時代ノワールとして、時代ハードボイルドとして、熱く冷たくギラギラとした輝きを見せる本作の、本シリーズの存在感は、三作を数えて、いよいよ定まったやに感じられます。

 鷹が仕事を仕掛けるべき相手は、まだまだありましょうし、白波侍・勝負鷹の冒険がここで終わるわけはありません。次なる鷹の冒険に、今から期待している次第であります。

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勝負鷹 強奪「老中の剣」 (光文社時代小説文庫)


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