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2011.08.27

「花かんざし捕物帖」第5巻・第6巻

 山田風太郎の「おんな牢秘抄」の、島崎譲による漫画化「花かんざし捕物帖」も、この第5巻・第6巻でめでたく完結。
 第5の女囚、第6の女囚の事件を解決した先にある、驚天動地のクライマックスとは――

 大岡越前の娘・霞が、女盗賊・姫君お竜の名を借りて、奇怪な事件に巻き込まれて処刑を待つ6人の薄倖の女囚を救う本作も、いよいよ終盤。
 第5巻の冒頭で第4の女囚・お半の事件を解決した後は、第5の女囚・吉原の振袖新造であったおせん、第6の女囚・旗本の下女であったお葉の事件に霞/お竜は挑むこととなります。

 自分の姉女郎である花魁の間夫に抱かれたことから仕置きを受け、その果てに花魁と相手の男を殺したおせん。
 周囲に出没する妖しの切支丹の影に惑乱されたか、乱行が元で座敷牢に閉じ込められた主を刺殺したお葉。

 これまで同様、いずれも不可解な状況下で、しかし一見疑いもなくその手を汚したと思われる女性たちを、神出鬼没、変幻自在の
お竜の推理が救い出すこととなるのですが…

 しかし、6人の女性の濡れ衣を晴らし、真犯人を暴いただけで、本作が終わるわけではありません。
 いやむしろ、ここからが本作の真の驚倒すべき点、最大の魅力。原作を含めて未読の方のために、この先の展開は伏せておきますが、これまで、事件が解決しても何とはなしに気にかかってきた部分が、思いも寄らぬ形でクローズアップされ、それが…!
 という本作のクライマックスは、まずミステリとして超一級のものと呼んで、差し支えありますまい。


 …そして、これまで同様、本作が原作の持つ魅力を、巧みにビジュアライズして見せてくれることは言うまでもありません。
 特にこの第5巻・第6巻で描かれる事件は、かたや吉原における男女の愛欲を背景とし、かたや切支丹の妖術を操る怪人が跳梁し、いずれも絵として見るに相応しいもの。

 毎度お馴染みの霞の七変化も、振袖新造に、切支丹の尼僧に、一見無茶苦茶な変身ぶりですが、しかし絵で見せられては、なるほど…と思わされるもので、単なるミステリに留まらない、本作ならではの楽しさに一役買っていることは、間違いありません。

 そもそも、本作は、冷静に考えてみれば、かなり無理のある設定ではあります。
 いかに怜悧な知恵があるとはいえ、頼もしき味方がいるとはいえ、大岡越前の娘が、女賊に化けておんな牢に潜入し、そればかりか、身の危険も省みず、様々な姿に身をやつして、自ら事件解決に乗り出すのですから…

 上で述べたように、ミステリとしての魅力がどれほどあろうとも、設定として無理があるのでは…
 と感じさせる原作を、それでも立派に読める作品としてみせたのは、これは山風先生の豪腕によるところではありますが、この漫画版においては、先に述べたように、荒唐無稽な設定を、問答無用に(?)絵として描き出し、そこに説得力と魅力を与えているのに、最初から最後まで感心させられてきたところであります。

 もちろん、本作が原作を完璧に再現している、というわけではありません。時に描写を省略し、時にエピソードを追加し、随所に本作はアレンジを加えていますが、しかし、原作の魅力を殺すことなく、いやむしろ増しているのは、これまで述べてきた通りです。

 そんな本作の、原作との最大の相違点は、(いささかネタバレ気味で恐縮ですが)ラストで霞が破邪顕正の太刀を振るう相手とシチュエーションなのですが――
 原作を読んだ時には、さすがにこれは無茶が過ぎるだろう、と思った部分だけに、この改変は大歓迎。
 いやむしろ、物語の展開的に、この相手と戦わない方がおかしい、というアレンジには、なるほど! と膝を打ちました。


 惜しくも紙媒体での刊行は第2巻までとなりましたが、しかし、どのような形であれ、本作を最後まで読むことができて本当に良かった…心から思います。

「花かんざし捕物帖」第5巻・第6巻(島崎譲 eBookJapan) 第5巻 / 第6巻


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