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2011.08.20

「神幻暗夜行」(その三)

 鬼に傷つけられた片目で、この世にあらざるものを視る浪人・神子上幻也の出会う怪異の数々を描く連作時代伝奇漫画「神幻暗夜行」の全話紹介、今回でラストであります。

「心中奇譚」
 女性があまり登場しない(登場しても脇役な)本作においては珍しい、女性の魔性を描いた一篇。

 幻也が海で救った、無理心中の生き残りの男。女に迫られ、引きずられるように海に落ちながらも命拾いしたその男の周囲では次々と奇怪な現象が…
 と、幻也は傍観者的立ち位置で、畳みかけるような怪異に男が追い詰められていく様が描かれます。

 「吉備津の釜」を男性視点から解釈しているのはどうかとも思いますが、女性の執念の強さと、結末の凄惨さは共通していると言えるでしょう。
 そこからさらに、ええっ!? と言いたくなるようなラストシーンもまた恐ろしい。


「鬼刻」
 雑誌連載時のラストエピソード。ある村で年に一度、亡霊武者が現れる鬼刻という時間帯に紛れ込んだ幻也が、その中で己のルーツを知ることとなります。

 かつて百姓たちにより狩られた落ち武者の亡霊が…というのは、「八つ墓村」を思い起こしますが、その怨念が一種の時間のループを作り出すというアイディアは面白い。

 さらにそこで、第一話の冒頭で描かれた、幻也の右目を傷つけた片目の鬼の正体が明かされるという構成も巧みで――これまでのエピソードも断片的に引用され、特に第3話「抜鬼」で語られた「鬼が鬼を造る」という言葉が効果的に使われることに――ラストに相応しいエピソードであることは間違いありません。

 ちなみにラストに顔を見せる僧・頭白は、子育て幽霊に育てられた赤子の後身という伝承のある人物。
 ある意味、生死を超えてきた幻也の前に現れるには相応しい人物かもしれません。


「鬼木」
 連載終了後に単発で掲載されたエピソード(「鬼刻」の後に位置することは、作中のある描写からわかります)。

 死神に魅入られたように、そこで首を吊る者が後を絶たない呪われた地というのは、怪談話ではまま登場しますが、作中に登場する「鬼木」も、そんな呪われた存在。
 いや、それどころではなく…というわけで、旅の商人と丁稚と道連れになった幻也が、奇怪な木の怪と対峙することなります。

 内容的には民俗もの色は薄い(というより、シリーズの途中で全般的にそういう傾向にあるのですが)作品ですが、幻惑的な怪異の存在に、幻也のアクション、さらに人情話的側面も入って、綺麗にまとまったエピソードであります。


 以上10話、これまで紹介してきたように、バラエティに富んだエピソードで構成された、時代ゴーストハンターものともいうべき内容で、まことに私好みの作品であります。

 現在では作者の画風・作風が大きく異なってしまっているだけに、続編はさすがに厳しいところだと思いますが、しかしこうして電子書籍の形ででも手軽に読める環境にあるというのは、まずはありがたいお話。
 特に、最近の作者のファンで、未読の方には強くお奨めしたい作品であります。

「神幻暗夜行」(長谷川哲也 eBookJapan


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