「諸怪志異 燕見鬼編」
北宋末期、空飛ぶ剣を自在に操る青年・燕見鬼は、師の五行先生の命を受け、伝説の予言書「推背図」を胸に、江南地方に向かう。怪しげな剣士・道士が行く手に立ち塞がり、喫菜事魔の輩の影が見え隠れする中、江南に辿り着いた燕見鬼は、それを得た者は天子となるという伝説の楼閣・万年楼の謎に迫る…
よほどのことがない限り、以前紹介した作品を再び紹介はしないのですが、今回はそのよほどのこと、と言ってよろしいかと思います。
未完のままとなっていた諸星大二郎の中国伝奇漫画「諸怪志異」の燕見鬼編が、このたび、50ページの書き下ろしエピソードを追加して、完結を迎えることとなったのですから。
「諸怪志異」(及び燕見鬼の物語のあらまし)については、既にこのブログでも取り上げましたので、ここでは簡単に触れることとしますが、「諸怪志異」とは、中国を舞台としたオムニバスの奇譚シリーズ。
燕見鬼(シリーズの前半では幼名の阿鬼)とその師匠の五行先生は、その中で狂言回し的に登場したキャラクターでしたが、シリーズが進むに連れて、物語は燕見鬼を主人公とした武侠ロマン、伝奇活劇的な色彩を強めていくこととなります。
時は宋代末期、奢侈享楽に耽る皇帝により国は乱れ、地方では叛乱の兆しが幾つも見られる時代――簡単に言ってしまえば「水滸伝」の時代の江南を舞台に、唐代に記された伝説の予言書「推背図」を巡り、燕見鬼が悪人たちと丁々発止のやりとりを繰り広げるというのが、この「燕見鬼編」の(特に中盤以降の)内容であります。
これまで描かれていた部分では、遙かな未来までも見通すという「推背図」、そして手に入れた者は次代の天子となることが出来るという伝説の楼閣「万年楼」の謎までが描かれ、先が大いに気になるところで、おあずけとなっていたのですが、その続き、完結編を今回読むことができるようになったのは、正直に言って、望外の喜びです。
今回描き下ろされた完結編「再び万年楼へ」では、再びの語が示す通り、かつて潜入したものの、奇怪な違和感を感じさせる内部に翻弄された末、忽然と目の前から消え失せた万年楼に、再び燕見鬼が挑むこととなります。
その中で宿敵たちと繰り広げられる推背図争奪戦の行方は、燕見鬼に味方しながらも謎めいた動きを見せる呂師嚢や方臘の真の狙いは(って水滸伝ファンならばよっくとご存じですが)、そして万年楼の正体とは…
果たして50ページでどこまで描けるのか、読むまでは色々と不安だったのですが、主人公たる燕見鬼君が状況に振り回されがちだったのが少々残念だったのを除けば、これまでの伏線も解明され、まずは綺麗に結末を――一種オープンエンドではありますが――迎えられたのは、何よりも喜ぶべきことではありませんか。
定価は約1,800円、分量は約460ページと、色々な意味で重い一冊ではありますが、しかしファンにはそれだけの価値があると、言って良いのではないかなあ…と思った次第です。
「諸怪志異 燕見鬼編」(諸星大二郎 光文社コミック叢書SIGNAL) Amazon

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