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2011.08.29

「幕府検死官玄庵 血闘」 帰ってきた反骨医!

 南町奉行所付きの検視役を務める逆井玄庵は、馴染みの夜鷹の仇討ちに加勢して、幕府目付の次男を斬る。これをきっかけとするように、以来玄庵の周囲では女性の猟奇殺人が相次ぎ、玄庵は様々な敵に命を狙われることとなる。そんな中、篤姫の依頼を受け、猟奇殺人の犯人を追う玄庵が知った真相とは…

 蘭方医術と無外流抜刀術の達人にして尊皇佐幕の反骨の漢、人の命を救うメスを振るう一方で、女子供を傷つける外道には容赦なく殺人剣を振るう、逆井玄庵が帰ってきました。
 これまで中公文庫で「玄庵検死帖」「倒幕連判状」「皇女暗殺控」と発表されてきた本作ですが、このたび「幕府検死官玄庵 血闘」のタイトルで、文芸社文庫から新作が刊行されたのです。

 作中での時系列では第一作目の前、第三作目の後(第三作目は第一作目の二年前という設定なのです)、おそらくは1861年の江戸を舞台に、女性を逆さ吊りにした上、首筋を切り裂くという猟奇殺人に玄庵が挑むハードボイルド時代劇であります。

 新刀の切れ味を試すための辻斬りに父を斬られ、夜鷹に身を落とした女の助太刀を買って出た玄庵が斬ったのは、目付の不良息子。
 しかしそれがきっかけで、目付配下の黒鍬者、不良息子の兄の師である山田浅右衛門と、次々と強敵に狙われる玄庵は、常回り同心の国光平助、食い詰め浪人の斎藤一というわずかな友を味方に、巨大な敵に挑む羽目になります。

 しかし、捨てる神あれば拾う神ありと言うべきか、猟奇殺人の最初の犠牲者が、篤姫付きの女官であり、玄庵自身、篤姫や和宮との関わりがあったことから、玄庵は篤姫のお墨付きで、事件究明に乗り出す…という展開であります。

 さて、加野作品の最大の魅力は、ひねくれ者でありながら、熱い部分を持つ主人公が、誰が本当に味方で、誰が本当の敵かわからない、複雑怪奇な事件の流れの中で翻弄されながらも自分の信念を貫くという点にあると常々考えております。
 そして、その点は、少しだけ装いを変えた本作でも、健在であることは、言うまでもありません。

 権威権力に牙を剥き、弱い立場にある女性に対しては、どんな危険であろうと飛び込んでいく――
 本作で玄庵が巻き込まれることとなった事件は、元はといえば、玄庵のこの性格がきっかけではあります。

 夜鷹の仇討ちに平然と命を賭け、そして猟奇殺人の犠牲となった女性のために本気で怒り…
 その挙げ句、常人であれば命が幾つあっても足りないような目に遭わされ、更には、出口のない謎の数々に疑心暗鬼となる。

 その姿は何とももどかしくもあるのですが、しかし、それだからこそ玄庵、それだからこそ加野主人公――
 混沌とした幕末の世情の渦に流されず溺れず、平然と逆らいながら立ち向かい、己の検死帖に載せた悪人を討たずにはおかない、そんな玄庵の姿に、旧知の友に会えたような気持ちになれました。


 これまでのシリーズの作品に比べると、史実を背景とする部分は少なく(すなわち伝奇度は低めで)、事件捜査がメインとなっているのは、これは時代の流れというものかもしれません。
 それでもなお――そしてレーベルを変えても――帰ってきた玄庵との再会を、心から喜びたいのです。

「幕府検死官玄庵 血闘」(加野厚志 文芸社文庫) Amazon


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