「ご落胤隠密金五郎 独眼竜の弁天」 時代伝奇・ミステリの快作!!
今日も気楽な(?)隠密稼業の水野金五郎は、父の家老の依頼で、水野家から極秘文書を持って出奔した娘を追っていた。そんな中、金五郎の落語の兄弟子・珍朝が辰巳芸者を殺した疑いで捕らわれる。二つの事件を解決するため奔走する金五郎だが、それは次々と続く事件の幕開けににすぎなかった…
側用人・水野忠成のご落胤・金五郎が、素人隠密として活躍する早見俊「ご落胤隠密金五郎」シリーズの第二弾であります。
主人公の金五郎は、沼津藩主で側用人、果ては老中になろうという水野忠成が、若い頃に外で作った庶子。一度は水野家に引き取られたものの、捨て扶持の飼い殺しを嫌い、今は家を飛び出して気ままに市井に暮らしております。
その金五郎の方便の道は、父の家老・土方縫殿助に依頼されての隠密稼業。暇にあかせて武術・忍術、ことごとく修め、何よりも冒険を愛する金五郎にとって、隠密は趣味と実益を兼ねた(?)仕事なのであります。
そんな彼が今回依頼を受けたのは、沼津藩から極秘文書を奪って逃げたという娘からその文書を奪い返すこと――だったのですが、そこに彼の落語の兄弟子が、芸者殺しの濡れ衣を着せられるという事件が発生します。
…実は習い事マニアの金五郎の目下の興味は落語。同じ長屋に住む落語家の下に強引に弟子入りして、下手の横好きの落語修行を続けているのであります。
かくて二つの事件を同時に抱え込むこととなった金五郎ですが、しかし両者には意外な繋がりが。実は殺された辰巳芸者の元には…
と、ここから事件は一気に転がっていくのですが、それがまた面白い。
実は一連の事件の背後にあるのは、○○○○○の遺したという×××××で、しかもそれを狙うのは、□□家で――と、伝奇ファンであれば、大喜びの展開が待ち受けているのであります。
月一冊以上という驚異的なペースで作品を量産している早見俊は、実は隠れ伝奇者…と評してもよいような作品をしばしば発表していることは、知っている人は知っているお話。
ガチガチの伝奇ものではなくとも、物語の中心にある人物やアイテム、事件の設定に、伝奇テイストが漂っている――いわば伝奇風味を物語に振りかけるのが、実に巧みな作家なのであります。
なるほど、それで今度はこういう展開を持ってきたか、とこちらは大喜びしてしまったのですが、しかし本作の真骨頂は、実はここからなのです。
実に本作は、中盤以降、新事実が次々と明らかになり、どんでん返しが連続するめまぐるしい展開が用意されています。
その内容については、ぜひ実際に読んで驚いて欲しいので詳しくは書けませんが、終盤に用意された、こちらの単純な脳味噌をあざ笑うかのような展開には、ただ「やられた!」と(笑顔で)叫ぶほかありません。
そしてまた、探偵役である金五郎の存在が、ある意味事件の引き金であり、事件の重要な構成要素であるという構造も、心憎いの一言。
ミステリとして見ても、本作は実に良くできた作品と言えます。
そしてもちろん、本作はキャラクターものとして読んでも楽しい作品です。
金五郎の無鉄砲とも野放図とも言える、しかしカラッと明るい人物造形をはじめとして、彼の周囲の人々――彼の師匠である落語一家の賑やかさに、一癖も二癖もある土方家老、金五郎と探索を共にする若きサムライカップル――のキャラクターもまた良いのであります。
特に今回は、金五郎の忍術の師匠が初登場、これがまた実に(良い意味で)胡散臭い、良い味を出した人物で…
伝奇ものとして、ミステリとして、キャラクターものとして…そのそれぞれで一定の水準をキープしながら、それらが驚くような形で絡み合い、さらに高いレベルの一つの物語として成立している本作。
生意気を承知で言えば、これまでの早見作品は、多くの場合、これに近いスタイルを持ちつつも、個々の要素の融合に難があったように感じていたのですが、本作ではそれを見事にクリアしてみせたと言えます。
これだけ多くの作品を生み出しながら、なおレベルアップを見せる作者に驚くと同時に、次なる金五郎の活躍が、否応なしに楽しみになってしまう――本作はそんな快作なのであります。
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