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2011.09.01

「ICHI」第7巻 そして旅は続く

 映画が終了しても、こちらは独自の生命を持ったかのように展開してきた時代漫画「ICHI」。掲載誌での連載が慌ただしく終わり、残念に思っていたところですが、この第7巻にて、三話分を書き下ろして完結であります。

 己を見つめ直した後に江戸に戻り、近藤・土方・沖田ら試衛館の面々と、伊庭八郎と、そして清河八郎と――かつて因縁を持った若き剣客たちと再会した市。
 清河と土方・伊庭が一触即発の危険性をはらむ中、市は清河発案の浪士隊に同行し、京に上ることとなります。

 と、この浪士隊がどのような運命を辿ったかは、言うまでもないお話。
 清河が、こともあろうに幕府の浪士組を尊皇攘夷のための組織としてそっくり編入せんとしたことから浪士組は分裂、それが後の新選組誕生のきっかけとなったわけですが――

 かねてより意趣を抱いていた土方・沖田と伊庭八が、黙って清河を見逃すはずがない。ここで奸賊清河を討たんと、闇討ちを謀る三人ですが、そこに立ちふさがったのは、清河と何かと縁のあった市!

 かくて、清河vs土方・沖田、市vs伊庭八の、因縁の戦いが始まるわけですが、ここがまずこの巻のクライマックスと言えましょう。

 ちなみにここで清河の救援に駆けつけ、土方・沖田の二人を向こうに回して一歩も退かぬ…どころか完全に圧倒したのが高橋泥舟。
 海舟・鉄舟と並んで幕末の三舟と賞されるものの、今一つ知名度では劣る(というのも申し訳ないのですが)この人物に見せ場があるあたり、本作の油断のならなさが表れていて実にいいのです。


 閑話休題、物語の方は、この一幕を頂点として、その後は思いもよらず、新選組誕生前夜までを描いて、静かな形で幕を閉じることとなります。
 正直なところ、予想していたよりも随分と手前の着地点に、最初はいささか戸惑ったのですが――しかし、終わってみれば、これはこれで良かったように思います。

 思えば市は、あくまでも傍観者的な立場にいたキャラクター(十馬は、市と比較的近い位置にありながらも、明確に討つべき相手がいた点で、彼女とは異なりましょう)。
 もちろんこの先も、彼女をその位置に置いて物語を描くことは可能ではありましょうが、しかし、新選組というあまりに鮮烈な存在、そしていよいよその動きを激しくする幕末という時代を前にしては、市の存在は霞まざるを得ないのではないか…

 市自身のドラマとしては、己の過去を向き合い、己が決して一人で生きてきたわけではないこと――そしてそれは、他者への依存を意味するのではないこと――を彼女が再確認していた時点で一旦の終わりを見ていたのであり、その意味ではここで物語を終えておくのも、一つの選択と納得できます。

 もちろんこれはあまりにも好意的な見方ではありますが、しかし、十馬と束の間再会し、そしてあくまでもそれぞれの道を尊重した上で、互いの道が再び交わり、一つになることを予感させる結末は、実に美しく、大団円であるとすら言って良いように思うのです。

 座頭市が、己の剣を頼りに放浪を続けていくキャラクターであるならば、その結末もまた、旅が続くことで示されるのでありましょう。
 そして、その旅が、市が市であることを捨てず、しかしそれでいて、決して孤独なものでないということは、何よりも素晴らしいことだと感じられます。


 確かに全員が満足する結末ではないかもしれませんが、少なくとも私個人にとっては決して不満はない…そんな結末でありました。

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