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2011.09.30

「書生葛木信二郎の日常」第1巻 人間と妖怪の間に立って

 時は大正、帝都に上京してきた小説家志望の青年・葛木信二郎が下宿することになった「黒髭荘」は、彼以外の下宿人全てが妖怪だった。自身も普通の人間には見えないものを見ることができる信二郎は、黒髭荘で不思議な日常を送ることに…

 恥ずかしながら雑誌連載の方は全くチェックしていなかったのですが、大正で書生で妖怪と聞いては見逃すわけにはいきません。
 そんなわけで、「サンデーGX」誌で連載中の「書生葛木信二郎の日常 黒髭荘奇譚」であります。

 舞台は大正時代の帝都東京。小説家を夢見て上京してきた青年・葛木信二郎は、祖母の紹介で、黒髭荘なる下宿に住むことになります。
 が、彼以外の黒髭荘の住人は、全て人間以外の妖怪。下宿の管理人である美少女・尋(ひろ)も、実は…というわけで、信二郎は前途多難な生活を送ることに…と、いうわけでは、意外とないのがちょっと面白い。

 実は信二郎は祖母譲りで、人間ならざる存在を感じ、見ることができる能力の持ち主。それどころか、幼い頃から、常に「ちま」という名の紅焔鬼なる妖怪を連れているのであります。

 本作は、そんな、人間と妖怪の間に立つ信二郎が出会う事件の数々を描く、一種のジェントル・ゴーストストーリーとも言える連作となっています。

 その第1巻である本書では、信二郎の恩師と狐の女房の純愛、天邪鬼を連れた悩める少女、天狗の強盗に、横浜に跳梁する異国の妖魔…と、なかなかにバラエティに富んだ内容です。
 妖怪の存在を感じ、見る程度の能力しか持っていないこともあり、お話はさまで派手な展開を見せるわけではありませんが、しかしむしろそれこそが本作の魅力。
 お人好しとも言えるほどの信二郎の優しさが、人と妖怪の間で起きる事件を包み込み、柔らかな味わいを感じさせてくれます。

 そして何よりも、本作の最大の魅力はその絵柄――特に女性陣のビジュアルであると感じます。
 毎回登場する女性陣の可愛らしさもさることながら、黒髭荘の管理人にしてメインヒロインの尋が実に可愛らしく――ちなみに普段私は漫画のこういう部分にほとんど全くときめかないのですが――これは素直に信二郎が羨ましいと感じてしまうほどであります。
(正体が…というのも実によろしい、というのは妖怪馬鹿の感想かもしれませんが)


 しかしながら、本作でどうにも物足りないのは、舞台を大正時代にする必然性が、少なくともこの時点ではほとんど感じられない点であります。

 確かに、主人公の設定などは「大正的」であるかもしれません。しかし、何故大正なのか、大正であることが、主人公に、物語にどのような影響を与えるのか…それが見えないのです。

 本作のキモであるところの妖怪の存在にしても、彼らがこの時代に存在することが、果たしてどのような意味を持つのか、現時点ではわかりません。
 それが描かれるとき、信二郎が、黒髭荘に暮らすことの意味が、価値が――すなわち本作のそれが見えてくるのではないかと、そう感じるのです。

 絵は良し――その先をどう描いてくれるのか、それを含めて、今後の展開に期待しましょう。

「書生葛木信二郎の日常」第1巻(倉田三ノ路 小学館サンデーGXコミックス) Amazon
書生葛木信二郎の日常 1 (サンデーGXコミックス)

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2011.09.29

「帝都妖怪新聞」 怪談が語り継がれる意味

 湯本豪一といえば、妖怪馬鹿にとってはムムッと思わされる名前であります。
 妖怪研究家として、川崎市市民ミュージアムの学芸員として、ユニークな研究、企画を発表してきた人物ですが、その氏による「帝都妖怪新聞」が角川ソフィア文庫から発売されました。

 湯本豪一で○○妖怪新聞、といえば、もちろん名著「明治妖怪新聞」(とその姉妹編「地方発明治妖怪ニュース」)を連想いたします。
 明治時代の日本各地の新聞(いや国外の日本語新聞も含めて)に掲載された怪談奇談、妖怪・怪獣・幽霊・奇瑞にまつわる数々の記事を抜粋し、一冊にまとめた「明治妖怪新聞」。
 その面白さは、掲載された個々の記事の面白さもさることながら、明治という文明開化の時代に、新聞という近代的なメディアに、様々な妖怪譚が掲載されていたという興味深い事実を、驚くほど数多くの具体例を以て教えてくれることでしょう。

 が、贅沢を言えば…というか弱音を吐けば、同書の唯一の欠点は、記事の復刻の収録という形式を取っているが故に、文体も仮名遣いも、全て明治時代のもの、という点。
 もちろん、個々の記事を読むのは難しいものでは全くないのですが、数多くの記事をこのスタイルで読むのは存外疲れます。
 読み物としても十分以上に面白い一冊だけに、その点だけは残念だったのですが――


 と、そこで本書に目を向ければ、基本的な内容は、明治時代の新聞に掲載された怪談奇談という点で、「明治妖怪新聞」と変わるものではないのですが、本書の最大の違いは、記事が現代語訳されて掲載されていることであります。

 さほど厚くない文庫本のこともあり、収録された記事の数としてみれば、ざっと九十数編と、(「明治妖怪新聞」に比べれば)さまで多いものではありません。
 しかし、数多くの事例の中からチョイスされたものだけあって、その内容はそれぞれに実にユニークで、興味深く、ある意味、傑作選と言っても良いように思われます。

 現代人の目から見れば――いや、当時の「知識人」の目から見ても――何とも荒唐無稽なお話も多く含まれている妖怪譚の数々。
 その荒唐無稽さは、新聞というメディアだからこそ、より一層際だって感じられる部分もあります。
 しかし、逆に、それでもなお、そうした内容が、新聞に掲載され、流布されたという事実に、たまらない面白さが感じられます。

 ある内容が情報として加工され、流布される場合、そこには必ず、そうするだけの理由が、意味があります。
 それは、単純にその内容が面白い、興味深いと感じられることもあれば、その内容に仮託し

て何かを伝えたい、警告したいということもあります。あるいは、その内容をあげつらい、その背後にある思想を否定したいということもあるでしょう。

 いずれにせよ、前近代的な怪談話が、ポジティブな取り方であれネガティブな取り方であれ――本書には、腹が立つくらい上から目線で怪談を否定する記事も多く収録されているのですが――近代的な、いや現代にまで通じるメディアである新聞に掲載されるだけの意味があるものとして扱われていたというのは、何だか実に楽しいことではありませんか。

 そしてそれは、近代をくぐり抜け、現代に至るまでも怪談がその命脈を保ち、語り継がれていることの意味、言い換えれば怪談がその内に秘めているものを考える上でも、大いに意味があることに感じられます。


 「明治妖怪新聞」に比べれば、あくまでもダイジェスト的な一冊ではあるかもしれません。
 しかし、熱心なマニアでなくとも、気軽に手に取って読むことができる本書を通じても、怪談が語り継がれることの意味を考えてみることは可能でしょう。
 その意味でも、価値ある一冊であります。

「帝都妖怪新聞」(湯本豪一 角川ソフィア文庫) Amazon
帝都妖怪新聞 (角川ソフィア文庫)

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2011.09.28

「快傑ライオン丸」 第48話「傷だらけの殺し屋 怪人マフィアン」

 怪人マフィアンに育てられた娘・加代は、病身の彼を案じ、代わって獅子丸と戦おうとする。女や病人と戦えぬと苦慮する獅子丸だが、襲ってきたマフィアンの右腕を切り落としてしまう。その夜、返り血を浴びた小助が苦しみ出し、マフィアンに操られるように獅子丸に襲いかかる。小助を救うために覚悟を決めた獅子丸は再度の戦いでマフィアンを討ち、加代は獅子丸の説得空しく、自決するのだった。

 冒頭でこれまでのゴースン八人衆との戦いがダイジェストされますが、早いものでもう後半戦の五人目。しかしここに来て、恐ろしいまでの変化球が飛んできます。

 五人目の刺客・マフィアンは、しばしば戦いもおぼつかぬほどの咳に襲われる病に冒された怪人。そして彼を「おじさま」と呼び、寄り添うのは、幼い頃に拾われ、育てられた娘・加代――
 作中で小助が「病人や女まで使うようになったか」と身も蓋もなく呆れる台詞がありますが、しかしそれが一番恐ろしいとは…

 冒頭、咳き込むマフィアンを見るに見かね、網タイツの戦闘ルックで獅子丸に襲いかからんとする加代。
 と、獅子丸に代わって加代の前に立ち塞がったのは、沙織さん。得意の縄を使って加代に挑む沙織の態度はむしろ不敵で、単純に相手が女性のためか、はたまた怪人に育てられた加代に、裏返しの自分の姿を見たか、とにかくいつになく迫力十分であります。
(見るに見かねた獅子丸が戦いを止めてもまだエキサイトする沙織さん)

 そこに現れたマフィアンは加代を殺さなかったことに礼を言いつつ、獅子丸に挑もうとしますが、目の前で咳き込んで倒れるような相手と戦える獅子丸ではありません。
 しかし、突然襲いかかって来たマフィアンの右腕を思わず切り落としてしまい、その血は小助の手に降りかかるのでした。

 一旦去って行ったマフィアンと加代。しかしその晩、小助は熱を出し、腕が痛いとのたうち回ります。
 やがて、腕がマフィアンのものに変貌した小助は、顔までも隈取りメイクに変じて獅子丸を襲撃。かろうじてこれを抑え、縛り上げる獅子丸ですが、今度は悶え苦しむ小助の姿に、沙織が取り乱すことに…
(ここで珍しく沙織に平手打ちを喰らわす獅子丸)

 さて、治療法を求めてマフィアンの元に向かう獅子丸の前に現れた加代(女は相手に出来ないという獅子丸に、病人なら相手にできるのかと精神的に追い打ちをかける!)
 何とか加代の攻撃をかわし、マフィアンの前に立つも、マフィアンは横になった姿勢から動かず――
 それでも獅子丸は変身し、一歩一歩近づいていくのですが…ここに勇壮な主題歌がかかるという演出にしびれます。

 しかしさすがに八人衆、ようやく立ち上がったマフィアンはその実力を発揮。得物の熊手で巧みにライオン丸の腕を封じ、咳き込んだと見せかけて口から手裏剣など、獅子丸を翻弄します。
 しかし片腕で病身の哀しさ、残る片腕も斬り飛ばされマフィアンは倒れるのでした。

 マフィアンに駆け寄り泣き叫ぶ加代。彼女に対し、ライオン丸は「ゴースンを倒すためなら何でもやる。しかし加代さんは生きて欲しい」と語りかけるのですが――
 しかしその想いは空しく、己の胸に刀を突き刺し、倒れる加代に、ライオン丸はただ背を向けて耐えることしかできないのでした。

 病人と女というのは、およそ戦闘には向かない組み合わせ…という以前に、正義のヒーローとしてはたとえ敵であっても刃を向けにくい相手。
 それを敵として繰り出してくるとは――ゴースン、というよりピープロの容赦なさに脱帽であります。
 そしてまつしまとしあき脚本によるこの重すぎる展開を、時にアップ、時にキャラクターの主観視点、時にカメラを頭上に移動させながらと、様々なカメラワークを駆使する中西源四郎監督の演出もさすがと言うべきか。
 二人の墓を建てて去っていく獅子丸一行の胸中や如何に…


今回のゴースン怪人
マフィアン
 幼い頃に拾った人間の少女・加代を娘のように可愛がる怪人。熊手を武器とし、その返り血を浴びた者は、マフィアンに操られる。病に冒されており、しばしば咳き込む。
 ゴースンによるライオン丸抹殺の命に、病身を押して登場、様々な手段で獅子丸たちを精神的・肉体的に追い詰めたが、執念空しく倒された。


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2011.09.27

「いかさま博覧亭」同人ドラマCD いかにもな感触のCD化

 基本的にこのブログでは同人作品は取り扱わないことにしているのですが(きりがなくなってしまうためと、誰にでも手に入るというわけではないため)、何事にも例外は、というわけで、今回は「いかさま博覧亭」の同人ドラマCDを取り上げましょう。

 同人作品、と言いつつも、本作は限りなくオフィシャルに近い作品であります。
 作者がタッチしているのはもちろん(?)のこと、脚本も声優も皆プロ。おまけにAmazonで普通に買えてしまう…というわけで、「いかさま博覧亭」ファンとしては、これを見逃すわけにはいかぬ、と取り上げる次第です。

 まずキャスティングはと言えば――
榊:平川大輔
蓮花:石川綾乃
柏:喜多村英梨
蓬:豊崎愛生
八手:早見沙織
杉忠:小西克幸

と、最近の声優にはうとい三田さんでも半分以上知ってるメンツであります。
 主役たる榊の声は、オーランド・ブルームの吹き替えでおなじみの平川大輔ですが、うんちくとぼやきの苦労人ぶりをなかなかに好演。
 このドラマCDではかなり出番の多かった柏役の喜多村絵梨(個人的には「アオキキヲク」の人ですが。作者的にも)も、しっかり者の少年声をきっちりと…
 と、原作ファンにもほとんど全員納得のキャスティングであります(あ、瀬戸大将は勝手にもっと子供声だと思ってましたが…)。

 そしてストーリーの方も、ある意味本作らしいというべきか、特段気張ったところもなく、オリジナルながら、原作の一エピソードと言われても全く違和感ない内容であります。

 おかしな縁から、商人の娘の狐憑き騒動に巻き込まれた榊たち博覧亭の面々の活躍を描いたストーリーですが、冒頭の偽妖怪騒動が伏線となって、事件の謎が解き明かされていくあたりなど、いかにも博覧亭らしい感触で思わずニヤリ。
 ポンポンとノリのいい会話とドタバタギャグで展開しながらも、意外とクレバーな(?)物語展開は、やはり博覧亭のそれであります。
(原作にはほとんど登場してこなかった八丁堀の同心が――実にらしい感じで――話にちらと顔を見せるのも、楽しいところです)

 もっとも、個人的には下ネタがちょっと多いように思いましたが、レギュラーの中に四つ目屋がいるから仕方ない…のか?


 と、一口に言ってしまえば、原作ファンであれば買って損はない一枚。いかにもドラマCD的にベタな展開や演出がひっかかる部分もありますが、そこも味と捉えておきましょう。

 個人的には、もっともっとこうした展開がされてもおかしくないと思っていた作品だけに、同人作品と言いつつも、きっちりとしたクオリティで作られたこのドラマCDの登場は、実に嬉しく感じられました。


 と…ドラマCDのお約束、最後に収められた出演者トークが本作にも収録されているのですが、これは苦しかった。

 「もし自分が妖怪になるとしたら何がいいか」というテーマなのですが、何が苦しいといって、普通の人は「妖怪」でお題を振られても、「何それ何がいるの」って反応になるのか――とイヤと言うほど感じさせられたところが。
 こんなところで榊=妖怪馬鹿の悩みを体験させてくれるとは、これまた本作らしい。って、絶対狙ったわけではないと思いますが…

 ちなみにそんな中で、かつて演じた役とはいえ、朱の盆を挙げた小西克幸の好感度が個人的にはグンと上がった次第です。

「いかさま博覧亭」同人ドラマCD Amazon


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2011.09.26

「帝都幻談」上巻 江戸を覆う北の怨念

 天保11年、幽冥界研究を行っていた平田篤胤は、江戸に見たこともないような妖怪が出現したことを知る。一方、北町奉行・遠山景元は、稲生武太夫を名乗る怪しい講釈師が、世間を騒がす講釈を行っていることを知る。やがて蝦夷地に収斂していく二つの流れは、恐るべき怨念の姿を明らかにするのだった!

 伝奇小説の金字塔とも言うべき「帝都物語」については、再読の上、いずれきちんとこのブログでも取り上げたいと考えているところですが、その前に、時系列的に最も古い時代を描いた本作から語るべきでしょう。
 丁度本年文庫化された「帝都幻談」、帝都が生まれる数十年前、江戸時代を舞台に、江戸破壊を目論む怨念と、その存在を知った人々との死闘を描く一大時代伝奇であります。

 この上巻で描かれるのは天保11年――天保の改革が始まる直前の時代。
 江戸城では水野忠邦ら改革派と、大御所家斉を戴く西の丸派が対立し、江戸の町では目付時代の鳥居耀蔵が暗躍していたころ…江戸の町で次々と奇怪な事件が起こります。

 江戸で捕らえられた蝦夷地の海獣、「アヤカシ」「ツキノイ」と鳴く奇怪な妖怪の出現、蝦夷地からの奇怪な怨念の襲来を語る講釈師(その名も「稲生武太夫」!)…
 一見、それぞれ何の繋がりがないようでいて、「蝦夷地」という共通項を持つ怪事件の数々。
 この謎に、武と文、官と民を代表する二人の人物――遠山景元と平田篤胤が挑むこととなります。

 遠山景元、通称金四郎は、今更言うまでもない有名人、北町奉行として庶民の側に立った人物であり、本作で(も)憎々しげに登場する鳥居耀蔵と対峙して、江戸を守るために奔走することになります。
(しかし彼と物語の中心となる蝦夷地とは、彼の父の代から因縁を持つのですが…)

 そしてもう一人、平田篤胤は、これはいかにもこの物語に相応しい人物であります。
 独自の復古神道を体系化して、後の尊皇攘夷の思想的柱となり、国学の四大人の一人と呼ばれる…ですが、しかしその経歴を見れば、学者というよりもオカルティストとしての側面が強く感じられます。

 その最たるものが、天狗小僧寅吉の研究――天狗にさらわれて異界を見聞し、帰還したという寅吉を養子に迎え入れて起居を共にし、異界の様子を聞き出して記録、出版するなど、今の目で見ればかなり奇っ怪な研究であります(その寅吉も本作に登場し、異界との繋がりを示す重要な役割を果たすこととなります)。

 いずれにせよ、奇怪な妖怪と怨念が跳梁するこの物語において、一種の科学的態度を持ってそれを分析する人物として、篤胤以上に適した人物はおりますまい。

 そして彼らが挑む怨念を操る者たちこそは、稲生武太夫を名乗る怪老人――江戸時代の怪奇事件に興味を持つ方であれば、今更言うまでもないでしょう、一月にわたり妖怪変化の来訪をしのぎ、日本魔族の一方の長である山本五郎右衛門を感じ入らせたという剛の者であります。
 しかし武太夫は、物語の時点から見てもかなり以前の人物。いかに老人といえども、この時代に存命のわけがない。それでは――というのも、物語の重要な柱の一つ。

 さらに日本の歴史の陰の怨念を抱く人物はもう一人…鳥居耀蔵配下として暗躍する怪人・加藤重兵衛。
 「帝都」を破壊すると言えば加藤――この時点では、あの加藤保憲との関係はわかりませんが、その長い顔に長身痩躯、冷たい目に冷笑的な口元、手甲(手袋ではないのがうまい)にはドーマンセーマンの紋とくれば、まさにあの魔人が江戸時代に出現した、と捉えても良いのでしょう。

 しかし本作で江戸に跳梁する魔は、この加藤の心胆を寒からしめるほど強大な存在。
 さらに、江戸城内の権力闘争までもが絡み、ほとんど絶望的な状況の中、景元と篤胤は、江戸を守るための死闘に身を投じることとなります。

 これは個人的な印象ではありますが、年代記的側面を持つ「帝都物語」に比して、本作はかなりエンターテイメント色を強めているやに感じられます。
 二人の主人公が、二人の大敵に立ち向かうクライマックスの決戦はその最たるものですが――
 特に景元の切り札は、一歩間違えれば(いやほとんどすれすれで)ネタになりかねないものではあるのですが、荒俣作品独特の熱気で、おお! と盛り上がること請け合いであります。


 さて、本作は上下巻構成となっておりますが、初出時は、この上巻までが雑誌に連載され、下巻部分は書き下ろしとなっています。
 そのためもあってか、この上巻だけでも物語はひとまずの結末を見るのですが…

 しかし、江戸を狙う怨念は、これで消え去ったわけではありません。
 まだ上巻で解き明かされずに残った謎――それは、下巻で語られることになりましょう。

「帝都幻談」上巻(荒俣宏 文春文庫) Amazon
帝都幻談〈上〉 (文春文庫)

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2011.09.25

「九官鳥侍」 鍵を握るは一羽の鳥と…

 百万両の黄金の秘密を知るという九官鳥…その九官鳥の世話を二十年に渡り続けてきた、人呼んで九官鳥侍は、自分の生き別れの娘・お類にその秘密を刻み、その生涯を閉じた。かくて九官鳥と黄金を巡り、髑髏侍・左近之介、吉村寅太郎、妖女・オホホのお柳ら、様々な面々がしのぎを削ることになるが…

 陣出達朗作品で「九官鳥侍」と聞くと、九官鳥を肩に乗せた侍が活躍するお話かしらん、と思ってしまいますが、さにあらず。
 百万両の黄金の秘密を握る一匹の鳥を巡り、金に目の眩んだ人々の欲望が交錯するという、なかなかにユニークな作品であります。

 黒い九官鳥の駕籠を輿に乗せて街道を行く無言行列…その様を笑った巡礼の娘と、それを止めようとした父は行列の侍に斬殺され、残された少年・彦太郎は九官鳥へ復讐を誓います。
 一方、その九官鳥を付け狙うのは黄金銭を眼帯代わりにした怪浪人――白い髑髏の小紋を無数に染めた着物をまとった髑髏侍・志摩左近之介。
 その左近之介が、九官鳥を巡る乱闘の中で助けたのは、父を訪ねる旅の途中の美しい娘・お類なのですが――彼女の父こそが、九官鳥侍その人なのでありました。

 九官鳥侍とは何者か?
 それは、南蛮の海賊船から押収された百万両の黄金の在処を覚え込まされた件の九官鳥・山彦の世話を命じられ、二十年ものあいだ松山城の天守閣に籠もり、山彦の世話を行ってきた飼育役。
 かつては颯爽たる武士だった彼も、長きに渡る幽閉に等しい暮らしのうちに駝背となり、その氏素性を知る者もごくわずかとなった今…彼は百万両の秘密をお類に伝えんとしていたのであります。

 時あたかも文久3年、日本中が佐幕派と倒幕派に分かれて争っていた頃。そんな時期に百万両の黄金が見つかれば、一体どのようなこととなるか…
 かくて、百万両で最新鋭の軍艦を買い付けようとする老中・板倉勝静、その黄金を横領せんとする悪家老一味、回天に燃える若き志士の一団、怪しげな腹話術使いの女に海賊たち、そして左近之介・彦太郎・お類と――
 様々な登場人物が入り乱れ、百万両の在処を記した秘文を半分ずつ託されたお類と山彦と、その両者の争奪戦が繰り広げられることとなります。

 というわけで、物語の方はある意味定番の秘宝争奪戦となるわけですが、金の亡者も、高邁な理想を持った者も――皆、血眼になって追うのは珍しいとはいえたかが一羽の鳥というのに、強烈な皮肉を感じざるを得ません。
 あるいはその狂奔ぶりに、その一羽の鳥に人生を狂わされた九官鳥侍の怨念を見て取ることも可能かもしれませんが…
(結末では、無欲に生きた者こそが、本当の幸せを手に入れることができることを暗示しているようにも見えるのも印象深い)

 しかし――百万両の秘密を知るもう一方である、お類に秘密が託された方法というのが、またもや乳房へのおしろい彫り!
 彫り込まれた秘密を見るためには、その、温めたり刺激を与えたり興奮させて熱を持たせる必要があるおかげで、ヒロインの胸は色々と大変な目に遭わされれるのですが、ああ、やはり陣出先生だなあ…


 などと混乱をしていると、ラストでさらっとある史実との関連が示され、「やられたっ!」という気持ちにさせられる本作。
 いやはや本当に色々な意味で、陣出作品は楽しませてくれます。

「九官鳥侍」(陣出達朗 春陽文庫) Amazon


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 「黄金万花峡」 秘宝の鍵は○○○○に?

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2011.09.24

大年表の大年表更新

 伝奇時代劇年表&データベースwiki「妖異聚成」の一コーナー、ある年に起きた史実上の出来事と、小説・漫画等伝奇時代劇の中の出来事、人物の生没年をまとめた「大年表の大年表」を更新いたしました。
 更新といいつつ、今回はほとんど新装に近い大変更となっています。

 この大年表の大年表がどのようなものかは、ご覧いただくのが一番かと思いますが、以前、「伝奇城」に掲載された「伝奇時代小説年表」を、遙かにパワーアップしたもの…と書くと、おわかりいただける方もいるかもしれません。
 とにかくひたすら、ある時代のある年に起きた出来事を、史実・虚構様々に列挙していくという、言ってみればただそれだけのものではありますが、ある作品のおおまかな背景設定が見えてきたり、史実と作品、作品と作品の間の意外な前後関係がわかったりと、何となく眺めていても、何だか楽しい――そんな年表です。

 ここに掲載した史実・虚構の出来事、人物の生没年は、全て私が重要だと思ったもの、あるいは面白いと思ったものをチョイスしており、当然のことながら大きな偏りがありますが、そこも含めて楽しんでいただければと思います。


 また、この年表には、一種の作品紹介、作品リストの役割もあります。名作・良作、怪作(?)…この年表に載せる価値があると私が感じた作品を、ベストとは到底言えませんが、しかし現時点で私にできるだけチョイスして掲載しています。
 ただ一行ではありますが、ここに記した作品中の出来事に興味を持って、実際の作品に触れていただければ、これに勝る喜びはありません。
(可能な限り内容の核心には触れないように記載しましたが…アウトのものがありましたらお詫びいたします)


 もちろん、まだまだこの年表は今後とも成長していくべきものです。
 あの作品が入っていないのは何故だ、もしくはこの作品が入っているのは何故だ、という声は当然ありましょう(なかったらそれはそれで寂しいのですが)
 しかし、ベストを求めていつまでも抱え込んでいても意味がありません。現在進行形の形であっても、今現在、自分にできるものを、自分の原点に帰ったつもりで作ってみたところです。

 と大上段に構えるほどのものではそもそもありませんが、まずは楽しんでいただければ幸いです。

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2011.09.23

「烈風!! 獣機隊二〇三」 一歩踏み出した鋼鉄の存在感

 日本軍でその異才を知られた田村陸軍少佐が、日露戦争に投入した最新兵器。それは、石炭を動力とする巨大兵器だった。はみ出し者ばかりが集まった特殊科学兵器部隊――通称獣機隊は、大陸でロシア軍を相手に破天荒な戦いを繰り広げる!

 今は亡き石川賢の作品リストを眺めてみると、特に90年代の半ば頃、矢継ぎ早に時代もの――というか、過去の時代を舞台とした破天荒なアクション活劇を発表していた印象があります。
 「爆末伝」「回天」…それらの作品群は、作品の分量(頁数)的にはさほどではないものの、それがかえって作品・作者の方向性、志向とマッチして、独特の印象を残すものばかりでした。

 本作も、そのような作品の一つ、作者の作品としては珍しく、明治時代、それも日露戦争(タイトルの二〇三は、二百三高地のことでしょう。実は作中には直接は登場しないのですが…)を舞台としたロボットアクションバイオレンス漫画です。


 ストーリー的には、本作は大きく二部に分かれます。
 前半部分は、遼東半島の南山に築かれたロシア永久陣地攻防戦を、後半部分は、中国奥地の唐龍陵に眠るという秘宝の日露争奪戦を、それぞれ描いているのですが、特に前半は、とにかくひたすら戦闘、戦闘、戦闘の連続。
 日本軍が初めて要塞攻略戦を行ったというこの戦いにおいて、獣機隊の巨大メカが要塞めがけてひたすら突っ込む! という、極めてシンプルなストーリーなのですが、しかしそれでも、いやそれだからこそ、本作は強烈な印象を残してくれるのです。

 戦う相手は、爬虫人類でもなければ神の軍団でもない、ただの人間。繰り出される兵器も(わずかな例外を除けば)、当時のテクノロジーで作られた通常兵器。
 獣機隊側も、インテリ狂人の田村少佐や、超肉体派の竜王曹長など、わずかな「らしい」キャラ以外は一般人であり、そして獣機隊も、オーバーテクノロジー的な存在とはいえ、石炭を燃料とする蒸気機関(!)搭載のローテクメカであり、これだけみれば、地味な戦いとなりそうなのですが…

 しかし――
 作者一流の超リアリズムと言うべき筆致で描かれた戦場を突き進む、キャラクター性ほとんど無しの(そもそも主役メカの名前が最後まで登場しないのも面白い。「五千光年の虎」同様、単に忘れてただけのような気もしますが…)無骨な鉄の怪物。
 その姿は、下手な思想性抜きで描かれているからこそ、より強烈に「戦い」「力」というものを、プリミティブに感じさせてくれるのであります。


 あくまでも史実、それも生と死という現実が充ち満ちた世界だからこそ強烈に感じられる、獣機隊の存在感…

 この作品を語る上で欠かせない、要塞まであと一歩のところまで迫りながらも石炭切れとなってしまった獣機隊のメカ。と、燃料が切れたはずのメカが再起動、その燃料とは…!
 というあのシーンも、この、現実からちょっとだけ踏み出した作品世界なればこそ、という気がするのです。


 …などと言いつつ、やはりもう少し描きようはあったのではないかな、という印象も否めないのですが、やはりどうしても気になるこの作品。
 完全に狙ってきたあのラストの台詞も含めて、妙に心に残ってしまう作品であることは、間違いないのであります。

「烈風!! 獣機隊二〇三」(石川賢 双葉社アクションコミックス) Amazon

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2011.09.22

「常住戦陣!! ムシブギョー」第3巻 一気に広がる世界観

 人喰いの巨大蟲から江戸を護る新中町奉行所、通称・蟲奉行所の新米同心・月島仁兵衛の活躍を描く「常住戦陣!! ムシブギョー」、快調の第3巻であります。
 仁兵衛と蟲奉行所の前にとんでもない新キャラクターが登場、さらに世界観につながる秘密までが…

 週刊連載の前に、パイロット版的に増刊のに月刊連載されていた「ムシブギョー」。
 第2巻までは、この増刊版の内容をほとんどなぞってきましたが、この巻からはほぼ初めての内容に突入します。

 ある晩蟲奉行所に忍び込んできた、能面をかぶったおかしな少年・長福丸。腕力の方はからっきしながら、人並み外れた知識を持つ長福丸を仁兵衛は無心に尊敬し、長福丸もそんな仁兵衛を憎からず思い…

 と、この長福丸の正体こそ、時の将軍・吉宗の長男、後の九代将軍・徳川家重!

 歴史好きの方には今更言うまでもないことですが、この家重は、あまり評判のよろしくない将軍であります。
 言語不明瞭で側近の者しかその意志を知ることができなかった、弟たちの方が出来が良かったため危うく将軍になれないところだった…等々。

 父親の方が名君として知られるため、一層ネガティブな印象を受ける家重を、本作では大胆にアレンジ。
 さすがに言語不明瞭ではありませんが、周囲との軋轢から書に耽溺し、能面の下に素顔(美形)を隠した孤独な少年として、本作では描かれます。

 孤独のあまりひねくれた貴人が、それと知らずに出会ったピュアな主人公の熱情に触れ、友情を結ぶというのは定番のパターンではあります。
 しかし本作では、長福丸も仁兵衛もある意味非常に極端なキャラクターとして描かれているため、そして個人的には何よりも「あの家重が!?」と、強く印象に残りました。

 尤も、巨大蟲に襲われた仁兵衛が、あっさりと出会ったばかり長福丸を信じて、その知識に頼る場面には(彼自身の責任を投げ出しているようで)首を傾げる部分もなくはないのですが…

 しかし、本当に驚かされたのはこの後の部分。
 蟲に関する情報を求めて奉行所の書庫に潜り込んだ長福丸が見つけた巻物、そこに記されていた内容とは…!

 これはぜひ実際に目にして驚いていただきたいために、詳細には触れませんが、たった一つの絵を見ただけで「えっ、この作品の世界観では、もしかしてこうなってるの!?」と、作品の背後に存在する世界の秘密まで想像させられてしまうのには、ただただ唸らされました。

 この後の展開も、パイロット版とはほとんど全く異なるものばかり。
 特にこの巻のラストに描かれる超々巨大蟲と、蟲奉行所のエース、蟲狩――この集団も背後に色々とありそうな存在で――の無涯との対決は、ほとんど、いや完全に怪獣もので、あまりの無茶苦茶ぶりに辟易としつつも、しかしやはり胸がときめいてしまうのです。

 まだまだ荒削りな部分は多くあります。キャラクター造形もまだまだ一面的であります(特にヒロインの造形の薄っぺらさには驚かされます)。
 しかし、パイロット版から踏み出して、全く新しい世界を描こうとする本作の試みには――特にこの巻での、あの素晴らしいハッタリを見せられた後では――大いに期待させられてしまうのです。

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2011.09.21

「快傑ライオン丸」 第47話「地獄の棺桶 怪人ジェンマ」

 ドクロ忍者に襲われていたジェンマを助ける獅子丸。ゴースンを討つというジェンマと手を組む獅子丸だが、錠之介はジェンマを信じず、出て行ってしまう。しかしやはり欺いていたジェンマの罠をくぐり抜けた獅子丸は一対一の対決に臨み、最後の最後まで仕掛けられた罠をかわして勝利するのだった。

 野原での武士同士が決闘し、決着がついたところに通りかかったのは、黒いマント姿で馬に乗り、そして棺桶を引きずるというビジュアルのジェンマ。勝った武士が棺桶を譲れと言うのを冷静に射殺(その様を上から見下ろすカメラワークが凄い)してしまうという、色々な意味で強烈な幕開けであります。

 さて、突然ドクロ忍者と戦い始めたジェンマは、助太刀した獅子丸に力を合わせてゴースンを討とうと持ちかけます。
 どう考えても胡散臭いのですが、あっさり信じた獅子丸。しかしその晩、皆が寝ているところで拳銃を抜いたジェンマですが…

 そこで豪快に寝ぼけて、拳銃を食い物と勘違いして食らいつく小助。目をさました小助に、拳銃の手入れをしなくちゃとごまかすのが、なかなかおかしい。
 しかも、拳銃に興味津々の小助に、「俺が死んだら形見にやろう」と、存外本気で言っているように見えるジェンマが、なかなかイイのです(それに対し「それなら早そうだ」と喜ぶ小助はおにちくにもほどがある)。

 さて、次の日もドクロ忍者と戦う獅子丸たちの前に駆けつけたのは錠之介。しかし予想通り錠之介はジェンマを信用せず、「こい、化け物!」「やるか狂犬」と一触即発に。
 獅子丸が割って入ってことなきを得ますが(ここでもの凄い至近距離で会話する三人のカットも凄い)、面白くない錠之介はどこかへ去ってしまうのでした。

 しかしその直後に錠之介の懸念は的中、自分たちの名前が書かれた十字架を見つけた獅子丸たちに対し、ついにジェンマは本性をむき出しにします。
 凄まじい射撃の腕前で、小助の着物を次々とはぎ取るジェンマ。…撃つ相手間違ってるよ! というのはともかく、小助を人質状態にされた獅子丸たちは大ピンチです。

 が、そこから隙をついてドクロ忍者を一掃した三人。しかしジェンマは焦る様子もなく、一対一の決闘に獅子丸を誘います(と、ちゃんと着る間もなく服を体に巻いていただけの小助、ヒカリ丸を呼ぼうとしたら、ついに服が落ちてフルヌードに! …誰得)。

 大砂塵の中、対峙する馬上の二人。 拳銃の方がどうしても早いからお前に変身する時間を与えてやると、拳銃を地面に放り投げるジェンマに対し、獅子丸も金砂地の太刀を地面に投げて対等をアピールです。
 そして、同時に己の武器に駆け寄る二人。変身ポーズを取りながら駆け寄った獅子丸は、ライオンバックルを取り出し、刀に投げたと思いきや、柄にバックルを装着して引き寄せ、そのまま地面に滑り込んで太刀を取りながら変身完了! 文章にするとややこしいですが、これは実に面白い変身シークエンスです。

 そして激しい決闘の末、拳銃も刀も落としてしまったジェンマに、ライオン丸は、自分も太刀を手放してまたもフェアプレー精神をアピール。
 再び己の武器に駆け寄る二人ですが、再びライオンバックルを放ったライオン丸は、そのまま刀を投じ、ジェンマを貫くのでした(どうもライオンバックル、装着することで自在に太刀を操作できるようです)。

 この拳銃を小助にやってくれと差し出し、棺桶に自分を入れてくれと頼むジェンマ。
 それを叶えるライオン丸ですが…棺の蓋が手を挟んで離さない。ジェンマの最後の罠で大爆発する棺!

 何とか生き延びた獅子丸ですが、ジェンマを強敵と認めるのでした。
 そして獅子丸から渡された拳銃を捨ててしまう小助の心中は…


 登場キャラはレギュラー+怪人のみ、お話もジェンマの裏切り(?)こそあれ、非常にシンプルな今回のエピソード。
 しかし、名前もビジュアルもどうみてもマカロニ・ウェスタンながら、どこかべらんめえ調で憎めない調子のジェンマのキャラや、早撃ちvs変身という変則バトルの面白さがあり、実に見応えのある回でした。


今回のゴースン怪人
ジェンマ
 拳銃を得意とするゴースン八人衆の一人。馬に乗り、常に棺桶を引っ張っている。
 ゴースンを裏切ったふりで獅子丸に接近、罠にはめて倒そうとするが失敗。一対一の決闘の末に敗れるが、棺桶にしかけられた爆薬の爆発に巻き込もうとするんど、最後まで執念を見せた。


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2011.09.20

「風魔孤太郎」 彼の真に相手するもの

 秀吉と家康により滅ぼされた北条氏政から、最後の血筋となる赤子の養育を依頼された風魔小太郎。17年後、その赤子は壮絶な修行の末に孤太郎を名乗り、風魔一族を弾圧した家康の首を取るべく、ただ一人戦いを挑んでいた。服部九忍衆との死闘の果て、駿府城に家康を追いつめた孤太郎だが…

 90年代半ば辺りにかなりの作品が復刊された印象のある石川賢ですが、もちろん、その例外もあります。
 1972年、その作家活動のごく初期に「週刊少年サンデー」誌に連載された本作「風魔孤太郎」もその一つ。
 時代ものということで読みたいと思いつつも、私の知る限り最初の単行本化以来復刊されていなかったものを、電子書籍で読むことができました。(以下、物語の核心に繋がる部分に触れていますのでご注意下さい)

 天正18年、秀吉の小田原攻め――北条家が滅亡したこの戦いで、北条家に雇われていた忍び・風魔小太郎が、北条氏政の妻の腹から、二人の赤子を取り上げたことから物語は始まります。

 その一人が孤太郎と名付けられ、小太郎の息子として育てられて――と言っても、幼い頃に鎖で柱に繋ぎとめられ、自力で脱出することを命じられるという無茶苦茶な修行を課せられて――17年後、小太郎の後を継いだ彼は、風魔一族を弾圧し、滅ぼした怨敵・徳川家康の首を狙い、一人戦いを開始します。

 服部半蔵配下の九忍衆と死闘を繰り返しつつ、謎の老人と美少女・エナガの助けを借りて、ついに駿府城に潜入した孤太郎は、家康を討つことに成功するのですが――
(ここで、影武者を含めて孤太郎が二つ持ち帰った家康の首が本物かどうか、小太郎が丹念に調べるシーンが印象的)

 しかし(こういう読み方をするのも申し訳ないのですが)まだここまでで物語は全体の3/4程度…
 さて、孤太郎は目的を果たしたのにこの後は? と思いきや、ここで物語は、孤太郎が真に相手とするものの姿を語ります。

 一個人としての徳川家康を仇として狙い、討ち果たした孤太郎――しかし徳川幕府は、すでにその家康すらも巨大なシステムの一部として取り込み、存在を始めていたのです。
 すなわち、徳川幕府ある限り、家康は死なない!
(この辺り、ちと強引かもしれませんが、白土三平の「忍者武芸帖」の影丸の不死身ぶりと、よく似ているようで正反対の存在なのが非常に面白いのです)

 巨大なシステムに対しては、風魔の存在とその戦いは、あまりに小さく、孤独なもの…
 なるほど、それゆえに「風魔孤太郎」であったか、と感じ入った次第です。


 物語的には、原作者が別にいるためか、後年の野放図に広がる石川作品に比べると、かなりおとなしめの内容にも感じられます。
 孤太郎も、石川作品の主人公としては、かなり線が細いキャラクターとして――おそらくは意図的に――描かれており、そのキャリア最初期の作品として見ても、むしろ異色作と感じられます。
(尤も、主人公の必殺技が、相手を後ろから押さえつけて股間からシコロでゴリゴリ切り上げるというものだったり、美少女が五連発ライフルをブッ放して忍者たちをなぎ倒したりと、やっぱり石川賢節なのですが…)

 しかし、上に述べたように、孤太郎と家康の戦いの真の構図や、それを受けてのある種虚無的な味わいに満ちた結末などは実に印象的で、石川作品云々は抜きにしても、一つの時代漫画として、評価できる点は少なくないと感じます。
 一種幻の作品となっているのが、ふさわしいともふさわしくないともいえる、不思議な作品ですが――読む価値は十分にあると感じます。

「風魔孤太郎」(石川賢&牛次郎 eBook Japanほか) 

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2011.09.19

「戦国ブラッド 薔薇の契約」第1巻 乙女の向かう先は?

 若干17歳にして、尾張の領主として慕われる織田信長には、双子ゆえ忌み子として里子に出された妹・花梨がいた。妹が幸せに暮らせる世のためにも天下布武を目指す信長だが、しかし、今川義元の刺客に命を奪われてしまう。影武者として祭り上げられ、重圧にあえぐ花梨の前に現れた存在とは…

 ファンタジー色が強めの作品を中心とした講談社のコミック誌「ARIA」連載の異色戦国漫画の第1巻であります。

 「○○は実は女だった!?」というアレンジは、最近の女体化というのを見るまでもなく、古今東西、決して少なくないようですが、本作もその系譜に連なる作品。
 信長の双子の妹が、若くして命を落とした兄の影武者として立つ、という趣向なのですが…そこに色々と加わって、何とも言えぬ作品となっております。

 時はおそらく16世紀半ば――うつけ者と呼ばれつつも、その類い希なる才能でもって、戦国乱世に打って出ようとしていた織田信長。
 彼がこよなく愛するのは、己と双子として生まれながらも、双子であったがために差別され、里子に出された妹・花梨――彼女のためにも太平の世を夢見る信長の夢は、彼が、今川義元が放った暗殺者によって、あっけなく終わりを告げます。

 若くして命を落とした信長――近臣たちが、事態収拾のために取った手段は、性別こそ違え、信長とうり二つの花梨を影武者に立てること。
 兄の夢を叶え、天下布武を行うためにも、その役を引き受ける花梨ですが、昨日までただの町娘として暮らしていた彼女にとって、戦国大名としての任が重いことは言うまでもありません。

 思い悩む彼女に、切支丹の神父は、「契約の箱」を授けるのですが――
 ここからの展開が、ちょっとすごい。契約した者の願いを叶えるというその箱に、花梨が己の血を垂らした時、現れたのは、黒スーツをラフに着こなした「悪魔」!

 …悪魔が登場したことよりも、その格好に驚いてしまったのですが、それはさておき。
 彼女に天下布武のための力を与えるのと引き替えに、悪魔が望んだのは、人間の血――それも、大量の血。
 かくて、信長の天下布武の道は、大量の血に彩られることとなり、花梨は己の、兄の願いと悪魔との取引との板挟みになりながらも、信長としての一歩を踏み出す…という内容であります。

 信長が女だった、という作品は既にありますし、信長が悪魔(に類する超越者)と契約して絶大な力を得るというのも、結構な数の作品で見られるものであります。
 しかし、その両者を組み合わせ、女信長が、信長であることを貫くために悪魔の力を借りる…という趣向は、本作のみでありましょう。

 この辺りは、やはり原作担当の広井王子のセンスかと感心しますが――
 しかし、一つの作品として見ると、本作はその方向性がはっきりしない、というのが正直なところであります。

 信長を女性、それも双子の妹としたことから生じる歴史のifを描きたいのか、悪魔と契約した信長という伝奇ものを描きたいのか。重すぎる任を背負った花梨と周囲の人間群像を描きたいのか、はたまた、美少年好きの義元に見られるように、極端なキャラ立てによるキャラクターものを描きたいのか…

 もしかすると、そのいずれも! ということなのかもしれませんが(というか、本来はもっと耽美的な方向を狙っているのだと思いますが)、残念ながら、この第1巻を見た限りでは、そのいずれでもなく、ただ中途半端に見えてしまうのです。

 しかしそれは、裏を返せばいくらでも面白くする手段があるということ。
 この第1巻は助走として、本格疾走を始めた時に何が見えるか――そこを楽しみにするとしましょう。

「戦国ブラッド 薔薇の契約」第1巻(湖住ふじこ&広井王子 講談社KCxARIA) Amazon
戦国ブラッド~薔薇の契約~(1) (KCx ARIA)

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2011.09.18

「常住戦陣!! ムシブギョー」第1巻・第2巻 引き下がれない理由

 以前「週刊少年サンデー超」誌で連載されていた熱血時代アクション「ムシブギョー」。
 その「ムシブギョー」が、増刊での連載を終了し、「常住戦陣!! ムシブギョー」とタイトルを改め、「週刊少年サンデー」本誌に登場しました。

 週刊に移行と聞いたときには、てっきり、第二シリーズ的に、そのまま増刊版のストーリーを引き継いでのスタートと思いきや、さにあらず。

 時は亨保、何処からか現れては人を襲い、食らう巨大昆虫に対抗するため、幕府により設置された江戸新中町奉行所、通称「蟲奉行所」。
 その蟲奉行所の同心となった少年剣士・月島仁兵衛が、先輩同心たち――蟲退治集団・蟲狩の最強剣士・無涯、火薬の扱いを得意とする忍者の末裔の少女・火鉢、かつて500人以上を斬ったという人斬り・恋川春菊、気弱だが陰陽道の式神を操る少年・一乃谷天間らとともに、蟲たちに立ち向かう…

 という基本的な設定、人物配置はそのままに、物語を一端リセットして、一からリスタートした作品となっております。
 ストーリーの方も、増刊版の冒頭部分をほぼそのまま――仁兵衛の江戸出府と蜘蛛相手の初陣、無涯とコンビでの蚤退治、火鉢とコンビでの天道虫退治――なぞっていますが、週刊連載ということもあってか、ある程度余裕を持った話運びとなっているのが目を引きます。


 しかし、なによりこの週刊版が、増刊版から大きく異なった印象を受けるのは、第1話に仁兵衛の子供時代の――彼がひたすらに強さを求め、決して引かないことを誓った理由となる――エピソードが追加されている点にほかなりません。

 こうと決めたらひたすらに突っ走り、決して後へは引かない…それは増刊版から変わらぬ、仁兵衛のキャラクターであります。
 しかしそれは(ギャグとして描かれている分は差し引いたとしても)見ようによっては単なる猪武者であり、作中の登場人物たちから――最初は否定的な評価がなされるものの――やたらと賞賛されるような美点とは、私には感じられませんでした。

 私がそう感じてしまったのは、ひとえに、仁兵衛が背負うものがなさ過ぎる、という点に尽きたのですが、その部分について、この週刊版ではきっちりと描いてくれたのは、大いに好印象であります。
 なるほど、このような過去を背負っているのであれば、仁兵衛が、自らが武士として強くあるために、そして人を守るために、決して引き下がらない、執念にも似た想いを抱くことに納得が出来るというものです。

 第2巻までの段階では、上で触れたように、ほぼリスタート分のためにまだまだ独立した作品としての判断は難しい部分はあります(尤も、第2巻のラストに登場した徳川家重は、週刊版で初めて登場したキャラクターで、その非常にユニークな言動に今後の期待が出来ますが)。
 しかし、週刊版で個人的に最もひっかかっていた部分がクリアされたのは非常に大きい。周囲の期待がいささか大きすぎるような気もしますが、この先の展開を楽しみにしても良さそうです。

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常住戦陣!! ムシブギョー 1 (少年サンデーコミックス)常住戦陣!! ムシブギョー 2 (少年サンデーコミックス)


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2011.09.17

「戦国ARMORS」 一騎当千のリアリティ?

 織田信長の死から十年後、幽閉されていた信長の娘・長姫は、天下人・秀吉への輿入れを強いられていた。そこに現れ、お長を奪い取ったのは、史上最強の兵器・甦土武を操る僧・天海こと明智光秀だった。己に裏切り者の汚名を着せた秀吉からお長を守るため、甦った光秀の天下一の下克上が始まる!

 不思議なことに、と言うべきか、「週刊少年ジャンプ」では、時代漫画の連載というのがどうにも少なく、またごく一部の例外を除き、長続きしないようです。
 時代漫画ファンとしては何とも残念でならないのですが、そんなジャンプに最も掲載された時代漫画が本作「戦国ARMORS」であります。

 本能寺の変から十年後、信長を弑逆したとして秀吉に討たれたはずの光秀が天海と名を変えて再起、秀吉に挑む――
 という本作のシチュエーション自体はさまで珍しくないのですが、注目すべきは、本作の最大の特徴であり、そしてタイトルの由来となっている武将たちの個人武装・甦土武(そどむ)の存在でしょう。

 古の霊獣の屍から精製され、装着した使い手の生命を吹き込むことで神通力を呼び覚ますことができる最強の武具――かつて信長が開発し、その力で天下布武を押し進めたという甦土武を身につけた武将たちの激突が、本作では描かれることとなります。

 甦土武――なかんずく、天下に五体のみ存在するという、重臣用のものとなれば、その力は百人力、千人力…
 文字通り一騎当千の世界を、それなりに――あくまでもそれなりにではありますが、しかし決して悪くない――理屈を付けて描くことを可能にしているのは、なかなか、いやかなり面白いアイディアであったと思います。

 お話の方も、光秀と石川五右衛門との友情、伊達政宗との対決と、さほど新味はないものの手堅く展開してきて――
 と、その次に、実は生きていた武田信玄とお市、と来たときはどうしようかと思いましたが、それなりに筋の通った扱いになっていたのにちょっと安心。
 戦いの最中で説明される、お長が秀吉に狙われる理由にも納得できたのですが…

 そこで光秀と秀吉の対決になって、俺たちの戦いはこれからだ! 的なラストで2巻エンドとなるとは。


 …しかし、こうして単行本で通して読み直してみると、幾つか残念な点があるのは事実。
 それを最も強く感じたのは(特に序盤の)緊張感のなさでしょうか。
 主人公は文字通り歴史に名を残す裏切り者、目指すところは天下一の下克上――すなわち、自分以外は天下全てが敵、という状況にあるという重さ、際どさが伝わってこないため、単なる一対一のバトルものにしか見えてこないのです。

 また、キャラクターも、それなりに面白くアレンジされているのですが、今一つ類型化されたものに留まっていて、浅く見えてしまうのが苦しい(雑魚悪役は論外ですが)。
 光秀など、シリアスな時とギャグをやっている時のギャップはいいのですが、その奥にある戦国人としての顔、陰というものを――単なる理想家肌の被害者というだけでなく――もっと描いて欲しかったという印象が強くあります。
(五右衛門のキャラも、後に明かされる過去を考えればもう少し描き方が違ったのでは)

 先に述べたとおり、戦国武将の無双っぷりにそれなりの理屈理由を付けるアイディア自体は実に面白いと思うのですが、その一方で、彼らの戦いのリアリティを支える部分が弱かった…といったところでしょうか。

 どれだけ設定をぶっ飛ばそうと、しかしそこにいるのは戦国武将をはじめとした人間であり、そしてその生き様は、戦国という時代に規定されるのですから…


 普段はやらないようなあら探しのようになって本当に申し訳ないのですが、戦国ものをやる時の難しさの一端が本作に表れているように感じられたため、あえてここで取りあげた次第です。


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2011.09.16

「妾屋昼兵衛女帳面 側室顛末」 妾屋、権力の魔を抉る

 若き藩主の世継ぎを残すためという伊達家の依頼に応じ、浪人の娘・八重を側室に周旋した妾屋・山城屋昼兵衛。しかし家中では、伊達家の財政を救うため、将軍家から養子を求めようとする一派があった。八重の警護役となったタイ捨流の使い手・大月新左衛門は、同じ藩士との戦いを繰り広げることに…

 相変わらず快進撃を続ける上田秀人、9月の新刊は「妾屋昼兵衛女帳面 側室顛末」…
 というタイトルを見た時には、少々驚かされました。「妾」や「女」「側室」というワードが、こちらの上田作品のイメージとあまり噛み合わなかったのですから。

 が、もちろん言うまでもなく、これは私の浅はかさというもの。伝奇性はほとんどないものの、内容の方は上田作品そのもの。
 これまでとはほんの少し異なる立場から、権力の魔に憑かれた者たちのおぞましさを浮き彫りにした、なかなかに興味深い作品であります。

 タイトルとなっている妾屋とは、文字通り、妾の仲介業ですが、武士の側室もそこに含まれるというのが興味深い。
 というのも、武士が側室を置くのは、単なる欲望のはけ口だけでなく、いやそれ以上に、血筋を残す手段でもあるのですから。

 そして、武士が己の血筋を残す、すなわち、己の持てるもの、己の家柄・権威権勢を後世に残す…となると、これは上田作品にしばしば見られるシチュエーション。
 本作でも、血筋とそれがもたらす権力を巡り、暗闘が繰り広げられることとなります。

 さて本作は、仙台伊達家の若き藩主に、家臣が側室を持たせようとしたことから物語が始まります。
 藩主・正室、ともに蒲柳の質であったことから、少しでも早く世継ぎを残させるための手段として、家臣が頼ったのが妾屋。かくて、その道に知られた妾屋・山城屋昼兵衛の出番となります。

 一方、側室推進側と対立する一派は、継嗣問題と伊達家の財政難を一挙に解決するための手段として、将軍家――ちなみに時の将軍は家斉、と言えば納得する方も多いでしょう――の男子を所領付きで迎え入れんと策謀。
 それを受けて幕府内部でも、将軍の後継争いに火がつくこととなり、一藩の側室を迎えるということが、あっと言う間に、天下の一大事となってしまうのであります。

 この辺り、先日紹介した「娘始末」もそうでしたが、ほんの小さなきっかけが、見る見る間に周囲を巻き込み、巨大な事件として幕府を、徳川将軍家すらを揺るがすという構成、仕掛けの面白さにまず感心させられます。
 しかし、こうした「大きな」動きを描くのに物語が終始するだけでないのが、本作の魅力であります。

 全く望まぬままに、天下を揺るがしかねない事件の中心となってしまった側室・八重。
 彼女が藩主の男子を生めば、徳川家からの養子を迎える必要がなくなる――言い換えれば、彼女を亡き者とすれば、養子を迎えることができる。
 そのためだけに、彼女は命を狙われることとなり、彼女の警護役に任じられたタイ捨流剣士・新左衛門は、同じ伊達家の人間と命がけの戦いを強いられるのです。

 そんな八重の運命を、新左衛門の戦いを通じて剔抉されるのは、権力の魔に憑かれた人間たちの醜さ、おぞましさ――
 お家のため、忠義のためと言いつつも、その背後には己の欲が見え隠れする、いや、己の権勢欲を忠義という大義名分で塗り固めた者たちにとっては、一個人の人生、命の尊厳などは、いかほどの価値はないのでしょう。

 このような権力観は、上田作品にはほぼ一貫したものではありますが、しかし本作においては、八重という非力な女性の存在を中心に置くことにより、これまで以上に重く、苦く、印象的なものとなっているのです。

 そして、巨大な権力の魔と、それに憑かれた者たちと相対することとなった時、人はどのように処するべきか。自立した一個人として望ましい生き方とは何か…
 これまた上田作品に通底する問いかけに応えるかのように結末で描かれる新左衛門の決断、そして昼兵衛の啖呵は、物語が重く苦いものであるからこそ、一層清々しく、痛快に感じられます。


 どうやら本作はシリーズ化されるようですが、この先、妾屋という存在を通じて何が描かれるのか。
 本作で描かれたものをより掘り下げるのか、はたまた異なるものを浮かび上がらせるのか。
 いずれにせよ、今断言できるのは、そこに描かれるのが、異色に見えても、紛れもなく上田秀人にのみ描くことができるものである、ということであります。

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2011.09.15

「大江戸あやかし犯科帳 雷獣びりびり クロスケ、吸血鬼になる」 人と妖怪の間に

 江戸で若い娘が犠牲となる吸血鬼事件が続発、雷獣のクロスケまでが犯人扱いされて大騒ぎとなる。江戸の町を妖怪から守る刀弥たち妖怪改方も、京から吸血鬼を追ってきたというおかしな唐人・ミクニとともに事件解決に当たるが、なかなか吸血鬼は姿を見せない。やがて事件は意外な方向へ…

 ここのところ、ほとんど月刊状態の高橋由太、9月の新刊は「大江戸あやかし犯科帳 雷獣びりびり」シリーズの第2弾、「クロスケ、吸血鬼になる」であります(ちなみに10月には本シリーズ第3弾が刊行)。

 江戸の町を騒がす妖怪事件の解決にあたる妖怪亡霊改方の若き同心・冬坂刀弥を中心に、おかしな妖怪や人間が引き起こす事件の顛末を描くシリーズですが、前作が連作短編的なスタイルだったのに対し、本作は一冊丸ごと使った、長編(分量的には中編)スタイルです。
 サブタイトルこそユーモラスですが、しかし物語展開はなかなかシビアに、重たいものを含んだ内容となっています。

 若い娘が次々と血を吸われて殺されるのに恐怖し、パニックに陥った江戸の人々は、猫が血を吸うという噂に踊らされ、雷獣(ながら見かけは黒い子猫)のクロスケまで、文字通り石もて追われる羽目に。
 当然、妖怪改方も総力で吸血鬼を追うものの、吸血鬼の足取りは一向に掴めず、殺される娘は増えるばかり。

 そんな中、刀弥の馴染みの飯屋・稲亭の近くに住む娘・こよりは、破落戸から救われたのをきっかけに、夜しか出歩かない侍・染之助に想いを寄せるようになるのですが…


 一見、妖怪変化や個性的なキャラクターたちが引き起こすユーモラスなドタバタ騒動ばかりを描いているようでいて、それに留まらないのが高橋作品。
 そんな騒動の陰で、人と人のわずかなすれ違いと、人の心のわずかな闇が、大きな事件を引き起こす――というシチュエーションが実はしばしば見られます。

 本作も、新キャラクターのおかしな唐人妖かし斬り師・ミクニや、妖怪改所のヘタレなナンバー2・仁科とカッパの九助のおかしなコンビなど、キャラクターものとしても十分楽しませてくれるのですが(特に後者のすっとぼけたやりとりは実に楽しい)、後半に入り、物語は全く異なる様相を見せ始めます。

 生きるために人の生き血をすするしかない吸血鬼と、その吸血鬼に恋した娘…
 そんなカップルに迫る、暴徒と化した人々の姿は――あまりに漫画版の「デビルマン」的ですが――時として、人の心は、妖怪よりも遙かに恐ろしく、おぞましい姿を見せることを、まざまざと示してくれます。

 果たして妖怪は――たとえ人の姿をしていたとしても――全て悪であり、討たれるべき存在なのか。そしてそれは、裏を返せば、果たして人は、無条件で善たり得る存在であるのか、という問いかけとイコールでありましょう。

 妖怪や唐人(一緒にするのもなんですが)が普通に闊歩する江戸という本作の舞台は、この問いかけのために用意されているのでは…
 というのは、ポジティブに捉えすぎかもしれませんが、本シリーズで妖怪改所の宿敵として描かれる男・善鬼が、なにやら単純な悪役ではなく、隠された思惑があるようにほのめかされているのは、あるいはこの辺りを反映してのものかもしれません。


 ただ残念なのは、こうしたキャラものの楽しさと、こうしたテーマ性を同時に描くには、本作の分量がいささか足りないこと。
 あともう少し分量があれば、ゲストのキャラにもう少し厚みを持たせた上で、余韻を持たせたラストを描けたのではないか、という印象は否めません。

 後半の追い込みのかけ方など、作者の新たな一面を見るようで、おっと思わされただけに、勿体なかったな…と感じたというのが、正直なところであります。

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大江戸あやかし犯科帳 雷獣びりびり クロスケ、吸血鬼になる (徳間文庫)


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2011.09.14

「快傑ライオン丸」第46話 「暗闇の琵琶法師 怪人ノイザー」

 獅子丸一行と間違えられてノイザーに兄と弟を殺され、自分は狂わされたおゆう。不憫に思った獅子丸たちは、彼女の父がいるという硫黄谷に向かう。しかし硫黄を狙うゴースンが硫黄谷の砦を襲撃。破壊された砦を襲うノイザーを、ライオン丸は琵琶の音に苦しみつつ倒す。一方、ゴースンを追った錠之介は象牙の槍でゴースンに襲いかかるものの、全く敵わずに完膚無きまでに敗れるのだった。

 ここのところ、ゴースン一味との攻防戦メインだった本作ですが、今回は久々に(?)ゴースンの日本征服のための作戦が描かれることとなります。

 アバンで登場する、青年と娘、少年の三人組。何だかどこかで見たような年齢構成だな…と思いきや、やはり獅子丸一行と間違えたノイザーに襲撃を受けてしまいます。
 無残にも兄と弟を殺された末、エレキギターのようなブリブリとした音を立てるノイザーの琵琶を聴くうちに、気が触れてしまう娘・おゆう…

 その惨劇を知り、おゆうを硫黄谷に連れて行くことを強く主張したのは沙織さん。やはり同じ女性同士、家族を失った者同士、感じるものがあったのでしょう。
 ちなみに小助は錠之介との勝負に勝つため、おゆうに構っていられないと、子供らしい(?)残酷な主張。獅子丸は沙織に賛同しますが、以前村人が山賊に襲われた時は、思い切り無視しようとしてたよな…(いや、今回は自分たちの巻き添えですけどね)

 さて、錠之介の方は、象牙を手に入れてご満悦。しかしノイザーの襲撃を受け、その音を聞きつけて駆けつけた獅子丸に襲いかかります。錠之介が獅子丸を襲うのは、ある意味当たり前のような…ですが、実は錠之介はノイザーの琵琶に操られていたのでした。
 折良く琵琶を弾くノイザーに小助が爆弾を投げつけたことで音が絶え、正気に戻った錠之介ですが、視力を失っていたのでした。

 ここで目に効く薬草を差し出す小助は良い子ですが、世話にならんとそれを叩き落とす錠之介さんは…しかもその直後、小助に手を引いてもらうという。
(ちなみにこの後、別行動を取った時に、目を拭いた手ぬぐいに薬草が仕込ませてあったのを知った時には、笑顔で使ってました。素直でないんだなあ)

 と、ここで急展開、硫黄谷をゴースンが襲撃! 日本征服に必要な硫黄を奪取するため、谷を守る砦を破壊しに現れたのです。
 部下にやらせず、自分でやるゴースン様は偉いというか何というか…
 砦の守備隊も大筒を持ち出して抵抗しますが、大筒の直撃を何発くらってもびくともしないゴースンの出鱈目な強さに、潰走状態となってしまいます。

 そして砦に乱入するノイザーとドクロ忍者。大混戦となった中に駆けつけた獅子丸は、ノイザーの琵琶に苦しみながらもライオン丸に変身。追って現れた沙織・小助も、砦の守備隊長と思われる侍と力を合わせてドクロ仮面3号を倒します。

 しかし変身してもノイザーの琵琶の音は脅威のまま。苦しみながらもライオン丸は、ブーツについた玉飾りを取り外し、ライオンマジックボールとして投げつけ、琵琶の弦を封じてしまいます。
 すると琵琶に籠もった音が逆流、苦しむノイザーにライオン飛行返し一閃!
 と、ノイザーの中から巨大な耳が出現(芳一?)。しかし向かってくる耳にライオン飛行斬りを喰らわせ、今度こそノイザーを倒すのでした。

 さて、敵を撃退した砦では、錠之介から教えられたとおり、沙織がノイザーの琵琶を弾くと(曲は「風よ光よ」!)、おゆうに正気が戻ります。砦の守備隊長だった父親と、おゆうは涙の再会を果たすのでした。

 一方、ゴースンに追いついた錠之介は、タイガージョーに変身、象牙の槍で突きかかるのですが…あっさり槍が折れた!?
 ゴースンサンダーを喰らわせ、悠々と去って行くゴースンに、悔し涙を流すしかない錠之介なのでありました。


今回のゴースン怪人
ノイザー

 人を狂わせる音を出す琵琶を操る怪人。琵琶の音で人を操ることも可能。琵琶の転手(糸巻き)や撥は手裏剣になっている。
 獅子丸を狙うとともに硫黄谷の砦の硫黄を狙うが、琵琶の音をライオン丸に封じられてライオン飛行返しを喰らい、真の姿(?)の巨大な耳となって襲いかかるも、飛行斬りに倒された。

ドクロ仮面3号
 ノイザーの配下と思われるドクロ仮面。やはり兜に大きな「3」の字がついている。
 砦を襲った際に、沙織・小助・守備隊長の三人の連続攻撃に倒される。


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2011.09.13

「雲霞竜 奥羽草紙 風の章」 人と妖魔と自然と

 凶刃に倒れたはずの恩人・古川近江の姿を目撃した楠岡平馬。近江を追う中、何ものかに追われる娘・おみつに出会った平馬は、彼女と近江、そして自分自身の運命の意外な関わりを知る。妖鳥に導かれ人々を喰らう奇怪な雲霞竜と、その背後の存在に対し、全てを清算するために挑む平馬の戦いの行方は…

 熊鷹ハヤテと白犬おユキだけを供に、ある目的を胸に北へ北へ旅する会津浪人・楠岡平馬の剣難女難、妖難(?)旅を描く「奥羽草紙」シリーズの第3巻最終巻であります。

 前作のラストで、死んだはずの恩人・古川近江の姿を目撃した平馬。近江の仇を討つために脱藩し、幼なじみの佐川官兵衛に追われる身となってしまった平馬にとって、近江の生存は青天の霹靂であり、複雑な心境で彼は近江を追うこととなります。
 そしてようやく捕まえた近江の口から語られる真実――それは、近江の、楠岡家の、そして彼らが禄を食んでいた会津藩の暗い過去に繋がっていくもの。
 かつて藩内の権力争いに敗れ、僻地に追いやられた一族。その存在を知る数少ない存在である近江や平馬は、絶えたかに見えた彼らの怨念が、時を経てもなお健在であることを知ります。

 そして、奇しき因縁というべきか、近江を追う中で行動を共にすることとなった美少女・おみつがその一族の生き残りであり、一族を捨てた者が、次々と奇怪な雲霞の群れに食い殺されていたのでありました。

 ここに近江・平馬・おみつの運命が絡み合い、共通する「敵」に挑むことになるのですが――その「敵」こそは、三人それぞれに因縁浅からぬ人物。
 果たして本当にこの「敵」を倒すことができるのか? そして怨念を蓄えた巨大な雲霞竜に、平馬の力は及ぶのか…
 物語は、まさにクライマックスに相応しい盛り上がりを見せることとなります。


 本シリーズ三作に共通するテーマ的なものを探すとすれば、それは、荒涼たる北の大地にしがみつくように必死に暮らす人々と、その心に生まれたほんの少しの翳りが生み出したおぞましい人食いの妖魔の跳梁――

 そして、それと一種の合わせ鏡として描かれる、いささか頼りなくとも人間としての善意に溢れた平馬と仲間たち、そして平馬を支える力強い自然の申し子たるハヤテとおユキの存在でしょう。

 本筋だけ見れば、時代ものとして決して珍しい内容ではない物語に、あえて奇怪な妖魔の存在を投入してみせたのは、どんな過酷な環境でも「業」というものを背負わざるを得ない人の存在を、その人を(善悪理非を問わず)喰らい尽くす妖魔と対比することにより、より鮮やかに浮かび上がらせるためなのでありましょう。


 全三作を通読すれば、その試みは成功している…と言いたいところなのですが、しかし実は大きな欠点が、本作にはあります。
 それは、平馬自身の物語――彼が背負ってきた過去と、旅する理由を小出しにしすぎて、それがまとめて語られる本作だけで、シリーズの内容が成立しかねない点であります。

 もちろん、三作を重ねることで、上に挙げたテーマはよりはっきりと見えてくるのではありますが、しかしやはりシリーズとして見れば偏った構成であり――その点のみが、まことに残念に感じるのです。

「雲霞竜 奥羽草紙 風の章」(澤見章 光文社) Amazon
雲霞竜


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2011.09.12

「楊令伝 二 辺烽の章」 方臘という男の存在

 文庫化も快調に進行中の北方謙三「楊令伝」、既に第3巻まで刊行されておりますが、本日取り上げますのはちょっと遅れて第2巻であります。
 第1巻に続き、グランドプロローグとも、前作も含めれば転章とも言える内容、巨大な動きが始まる、その直前と言った印象です。

 北方で猛威を振るう幻王=楊令とついに対面した燕青と武松。
 いよいよ再起を目前とした梁山泊に唯一欠けている頭領――かつての晁蓋、そして宋江を継ぐ者として、立って欲しいという二人の言葉に、しかし楊令は容易に頷こうとしません。

 その間も、少しずつ、しかし着実に力を取り戻していく梁山泊。
 江南は太湖に浮かぶ洞庭山を一つの拠点とし、生き残りの頭領たちのほとんどが集結、さらには次なる世代の好漢たちも登場し、全盛期に及ばぬまでも、替天行道の志が絶えることなく受け継がれていることが示されます。
 一方、北方では宋と遼、金の対立が複雑化し、中国皇帝の悲願である燕雲十六州奪還のため、宋金同盟が結ばれるのですが、それがさらに北方の緊張を高めることに…

 そして、江南で動き出すもう一つの勢力。喫菜事魔の教えを説く教団の教祖・方臘が、信者と、密かに育成した軍を以て、宋に対して決起せんとしていたのでありました。

 かくて、梁山泊・方臘・宋・遼・金、様々な勢力の、様々な人々の思惑が複雑に絡み合い、まさに一触即発――というところが、この第2巻では描かれることとなります。


 この中で、水滸伝(原典)ファンとしても、そして「楊令伝」読者としても大いに気になるのは、方臘の存在でありましょう。
 原典では物語の終盤に登場、数多くの豪傑を配下に立ち塞がり、無敵梁山泊軍に数多くの犠牲者を出させた梁山泊最大最後の強敵であろう方臘。
 本作では、原作よりもむしろ史実サイドに立脚したキャラクターとして描かれている印象がありますが、しかし彼の存在は、いわばもう一つの梁山泊、裏の梁山泊として、大きなインパクトを感じさせてくれます。

 宋という国に叛乱を企てつつも、その中核に新しい国を作るという強固な「志」で結びついた梁山泊。
 その梁山泊とは、叛徒という点で共通しつつも、しかし「志」を持たず、方臘への「信仰」を基盤とする点で、方臘軍は大きく異なることとなります。

 果たしてそれが今後の戦況にいかなる影響を与えるか、それはまだまだこれからのお話ですが、しかし、梁山泊に匹敵する、そしてその方向性を異にする勢力の登場は、いやが上にも物語を盛り上げてくれます。
 さらに方臘の人物造形も、その全貌が見えたわけではありませんが、これまで北方水滸伝に登場したキャラクターたちとはまた違う存在感を感じさせてくれるのが、嬉しくも恐ろしいのであります。


 新しい登場人物も、いままでの登場人物――その中でも、あまり変わらぬ者もいれば、老いたり疲れたりと変わった者もいて――も、入り乱れた末に、いよいよ始まる巨大な戦い。
 この巻では、あの英雄(の少年時代)も顔を見せ、これから彼がどのように物語に絡んでくるかも、また楽しみなのです。

「楊令伝 二 辺烽の章」(北方謙三 集英社文庫) Amazon
楊令伝 2 辺烽の章 (集英社文庫)


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2011.09.11

「妖月の航海 ネオ・シンドバッド」 甦る伝説の英雄!

 いかなる宝物も持ち帰る腕利きの船乗り・真破。ある航海で宿敵の罠にかかり、仲間と船を失い、海に流された真破は、巨大な亜刺比亜船を見つける。辛くも帰国した真破が大納言より受けた新たな依頼、それは、伝説の反魂香を持ち帰ることだった。南の海に乗り出した真破を待つ、想像を絶する秘密とは…

 異形コレクションで知られるホラー作家の井上雅彦が、そのキャリアの初期で時代小説を――それも時代伝奇小説を発表していたことは、ファンの間では知られていることでしょう。
 今は亡き勁文社から書き下ろしで発表された後、これまた今は亡き朝日ソノラマから再刊された本作も、一種の時代伝奇小説であります。

 しかし、本作は、いわゆる「時代伝奇小説」とは大きく異なる、極めてユニークな作品。
 勁文社版の副題「王朝アラベスク奇譚」、そして朝日ソノラマ版の副題「ネオ・シンドバッド」が表すように、王朝=平安時代を舞台に、シンドバッド――それもハリーハウゼン――ばりの大冒険が繰り広げられる海洋ファンタジー活劇なのです。

 時は平安、官位を捨てて海の男となり、どれほど困難な航海も乗り越え、いかなる秘宝も持ち帰ると評判の男・真破(シンバ)。
 都の貴族の求めに応じ、唐で謎の秘石・朧竜石を、命がけの冒険の末に得た彼は、宿敵の海賊・クズリの罠にかかり、己の船と仲間を全て失った末、蛭子流しの刑に遭って海に放り出されてしまいます。

 漂流の末、いずことも知れぬ海で巨大な亜刺比亜船にたどり着いたシンバは、そこで謎の青い瓶の中身を飲んで以来、不思議な声を聞くように…
 何とか平安京に帰り着いたシンバは、そこで朧竜石にまつわる騒動に巻き込まれた末、新たな宝物――反魂香探索を命じられることとなります。

 死人をも甦らせるという反魂香。その謎が隠された南洋の奇怪な島で、シンバが知った真実、それは、シンバ自身にも、いや、この世界の存在にも関わる巨大な秘密なのでありました!


 海の快男児、古怪な知識に通じる老陰陽師、健気な美少女水夫、謎と憂いを秘めた美女、卑劣凶暴な海賊、奇怪な妖魔の触手、月に呪われた獣人たち、平和の都を狙う邪教徒、あの神話体系を思わせる邪神、そして誰もが知る伝説の英雄…

 舞台の方も、平安京に長安、南海の髑髏島、さらに中近東のあの都、それどころか…と、とにかく途方もないスケールであります。
 とにかく、これでもか! と面白くなりそうな惜しみなくブチ混み、さらにとことん煮詰めてみせた結果生まれたのは、奇書と評しても違和感のない、奇想天外な冒険活劇であります。

 実は、これに先立つ作者の長編――具体的には「ヤング・ヴァン・ヘルシング」シリーズの一作目、「異人館の妖魔」――には、あまりに書きたい要素を詰め込みすぎて、物語のテンポに難がある作品もあるのですが、本作は努めて映画的な構成を意識しているためか、その詰め込み方がむしろ良い方向に働いているように感じられます。
(もっとも、その「映画」っぽさが、鼻につく面もないではないのですが…)


 平安時代を舞台とした作品と言えば、伝奇ものですら、我が国の中でクローズするものがほとんど、せいぜいが中国が舞台となる程度であり、我々も、当時の世界地図がそこまでしかないようにすら錯覚することがあります。
 しかし、「現実」には、そうではないことは言うまでもありません。海の向こうには、更なる世界が広がり、そしてその世界特有の歴史が、文化が、そして冒険が存在しているのです。

 本作は、そんな当たり前の、しかし忘れられがちなことを――伝奇ものという、現実に立脚しつつも、そこから外れた視点を持つ形式を用いて――教えてくれる作品でもあり、その点にも、私はたまらない魅力を感じてしまうのであります。


 もちろん、本作の基本は、血湧き肉踊るエンターテイメントであり、奇想天外な物語の魅力に憑かれた方であれば、理屈抜きで、誰でも楽しめる作品であります。

 不幸にも現在ではレーベル自体が消滅している状態ではありますが、あの英雄が、シンバの体を借りて甦ったが如く、本作もまたいつか、不滅の魅力を以て復活していただきたいものです。

「妖月の航海 ネオ・シンドバッド」(井上雅彦 ソノラマ文庫ネクスト) Amazon

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2011.09.10

「BEAST of EAST」第4巻 待ちに待った…!

 かの大妖・金毛九尾の狐に憑かれた少女・藻と、彼女を追う幼なじみの少年・鬼王丸を中心に展開する何でもありの一大平安幻想奇譚「BEAST of EAST」、その最新刊第4巻が、実に4年ぶりに登場であります。
 待ちに待った、という言葉がこれほど相応しい作品は、そうはありますまい。

 岡本綺堂の「玉藻の前」を下敷きにしつつも、そこに無数のアイディア、ガジェット、キャラクターを投入することで、本作以外のどこでも読めないような唯一無二の世界を描き出す本作ですが、その魔力とも言うべき魅力は、しかしどれだけ時間が経っても健在。
 この第4巻では、いよいよ物語が佳境に入ったということもあり、手にした途端、前巻からのブランクも忘れて、作品世界に没頭させていただきました。

 前巻で受難の末、関東での決起を余儀なくされた平将門。心ならずも討手との戦いを繰り広げる将門と行動を共にする玉藻は、彼を巧妙に導き、新皇の名乗りを上げさせます。
 しかし都もそれを座視しているわけではありません。討伐軍に配備された芦屋道満製作の悪魔の兵器・迦羅倶利将軍の力が将門軍を追い詰め、そしてそれが、さらなる悲劇を将門とその周囲にもたらすこととなるのですが――

 一方、前巻で囚われの人魚を救うため、宮中に乗り込んで大立ち回りを演じた鬼王丸一党。
 果たしてこの人魚が物語にどう関わるのか、と思いきや、これが全く意外な形で、極めて重要なアイテムを彼にもたらすというのがまた面白い。

 なるほど、こういう意味があったのか、そしてこういう手があるのか! と膝を叩きたくなるような展開であります。

 そして、奇想天外な展開が相次ぐ中で、岡本綺堂ファンであればニヤリとさせられるような描写が時折混じるのもまた嬉しい。
 夜の闇に神秘的な光を放つ玉藻の描写は「玉藻の前」からだと思いますが、クライマックスで将門を魔界に誘う玉藻の姿は、これは「小坂部姫」の逆転ではあるまいか!? と一人で興奮してしまった次第です。
(そんな描写があるにも関わらず、この巻の玉藻は普通の(?)悪い女魔法使いにしか見えなかったのが残念ではありますが…)


 さて、この巻のラストでは、鬼王丸と将門の激突が示唆され、いよいよ先の展開が楽しみになるばかり。
 次の巻で完結という噂も聞きますが、それはさておき、ここまで来たらあと何年でも待ちます! 待てます! と胸を張って言ってしまうほど、それほど本作の魔力に参っているところなのです。

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2011.09.09

「新選組刃義抄アサギ」第6巻 更なる陰謀の刃!

 「新選組!」「龍馬伝」の時代考証家・山村竜也が原作を、漫画版「天保異聞妖奇士」の蜷川ヤエコが作画を担当する「新選組刃義抄 アサギ」も、早いものでもう第6巻。
 第4巻・第5巻はちょっとイイ話系の内容でしたが、この第6巻で、再び試衛館組は死闘と陰謀の渦に巻き込まれることとなります。

 幾つもの困難を乗り越えて、晴れてアサギ色の羽織を纏った新選組の面々に与えられた新たな任務は、公卿・姉小路公知の警護。
 しかし、その姉小路卿を狙うのは、あの桂小五郎一派。さらにその中に、岡田以蔵・田中新兵衛ら人斬りも巻き込まれていくこととなります。

 そもそも、警護する側である新選組――というより試衛館組――の方も、平助が総司へのコンプレックスで暴走しかかっている中に、桂のスパイであり、これまでも数々の陰険な陰謀に関わってきた佐伯又三郎&斎藤一が暗躍し、何が起きるかわからない状態。

 さらに、平助の暴走が何とか収まったかと思えば、今度は、新選組への執着と責任感が、公知を狙って現れた以蔵との対峙で暴発した総司が大暴走いたします。
 本作での、いや、それまでの沖田総司像を覆すかのような、野獣のような表情で戦う総司の姿はただただ圧巻。
 決して綺麗事では済まない幕末像を描いてきた本作ですが、総司の姿は、彼もまたその例外では決してないのだと教えてくれます。
(そしてまた、良い意味で汚い殺陣の、なりふり構わない総司と以蔵の死闘を躍動感たっぷりに描く作者の筆が素晴らしい!)

 しかし、桂の奸計は、暗殺の手を幾重にも巡らせます。
 乱闘の中から、公知をただ一人連れて脱出したのは、斎藤一。しかし言うまでもなく彼の繋がる先は…

 と、ここからの展開は本当に二転三転、公知の辿る運命は歴史の示すとおりですが、しかし何故そのような結果となったのか――
 実はそれは、この巻ではわかりません。あの場面から、何故こうなるの!? と、この巻の引きには驚かされること請け合いであります。

 そしてそんな意外な展開の一方で、上記の平助や総司以外のキャラクター――それも敵方に当たる以蔵や新兵衛にも、彼らなりの葛藤が、ドラマが丹念に描かれるのもまた、本作の魅力でありましょう。

 オーソドックスなようでいて、何が飛び出してくるかわからない新選組物語、いや幕末群像劇…これほど先が読めないのは、この巻が初めてであります。


 と、恒例(?)の巻末番外編、今回は左之助と新八の出会いに、さらに月岡芳年が絡むという楽しいエピソード。
 なかなか本編の方ではメインに絡みづらいながらも、キャラ立ちの点では屈指の二人だけに、こういう番外編は良く似合います。
 本編で重い展開が続くだけに、こういうところでホッとさせてくれるのは良いですね。

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2011.09.08

「娘始末 闕所物奉行裏帳合」 ただ人でなく走狗でなく

 江戸で遊女の自害が相次ぐ。死んだのがみな親に売られた旗本の娘であることを知った闕所物奉行・榊扇太郎だが、この機に町奉行の座を狙う鳥居、江戸の暗黒街制覇を狙う狂い犬の一太郎など、事件を巡る様々な思惑の中に巻き込まれていく。さらに事態が幕閣の権力闘争にまで広がる中、扇太郎の選択は…

 従来のシリーズに加えて、新作も次々登場と、相変わらず快調の上田秀人ですが、いま個人的に最も期待しているのは「闕所物奉行 裏帳合」シリーズであります。
 この「娘始末」は、その待ちに待った最新巻、シリーズ第5弾ですが、いやはや、こちらの想像を遙かに上回る充実の内容でした。
 旗本の改易が相次ぎ、それに伴う闕所で忙しい扇太郎。
 しかしそれと平行して、遊女の自害が相次いでいることを知らされ、その調査を命じられます。

 実は二つの動きは同じ事件の表と裏、遊女の死は、借金の形に売られた旗本の娘が、露見を恐れた親から死を強要された果てのものであり、改易は露見された旗本が士道を外れたとして処断されたものでありました。

 しかし、本来であれば表に出るはずのない旗本の娘の身売り、そして遊女の死が、何故知られることとなったのか?
 探索を進める扇太郎は、事件の引き金となった複雑怪奇に絡んだ欲望の渦に巻き込まれていくこととなります。


 第3弾以降、本シリーズでは、江戸の暗黒街を狙う品川の顔役・狂い犬の一太郎の野望が、背景に描かれていきますが、それは本作も同様です。
 かの天一坊の子孫(!)であり、表舞台に立とうとして抹殺された天一坊の逆を行くように、江戸の裏社会を支配しようと陰謀を巡らせる一太郎。
 吉原を、浅草を狙い奸計を巡らせてきた一太郎の今回の作戦は、女郎たちの自害という、岡場所ではありふれた出来事をきっかけに、あたかも一個の雪玉が、転がるうちに果てしなく巨大になっていくように、恐るべき規模に広がっていくこととなります。

 その動きに乗ったのが、扇太郎の上役ともいえる鳥居耀蔵。町奉行の地位を虎視眈々と狙う鳥居は、敢えて事態を大きくして町奉行を罷免させ、自分が後釜に座ろうという奸計を巡らせます。
 さらにそこに、大御所派と将軍派で激しく対立する江戸城御用部屋――すなわち幕府最上層部の思惑までもが絡み、まさに江戸は一触即発の状態へ…

 一人の悪党の暴走に近い野望が、あれよあれよというまに、徳川の世を揺るがしかねぬ大事件へと繋がっていく、その仕掛けにも驚かされますが、それに主人公たる扇太郎が立ち向かうことになる理由付け、いや、彼でなくてはならないというストーリー構成の巧みさには、ただただ感心するのみです。

 己を使い捨ての道具としか見ない鳥居に愛想を尽かし、前作の事件の中で知遇を得た水野忠邦の下に着くこととした扇太郎。
 しかし今をときめく権力者たる水野の庇護を得るには、当然、自分がそれに値する者であることを示さなくてはなりません。
 探索の中で陰謀の存在を察知した扇太郎は、己の価値を示すためにも、この陰謀を粉砕するために奔走することになります。

 しかし、扇太郎の戦う理由は、単なる己の身の安泰のため、だけではありません。
 己の家名を守るために親に売られ、そしてそれが明るみに出ようとするや、タイトル通り始末されようとする娘――そんな武家の身勝手に泣かされる娘は、扇太郎のごく身近にもいるのですから。

 そう、本作のヒロイン・朱鷺は、まさに旗本である父に岡場所に売られ、その岡場所すらなくなって、身の置き所をなくした存在。
 ある事情から彼女とともに暮らすようになり、そしていつしか彼女を深く愛するようになった扇太郎は、一度は絶望の淵に立った彼女の身と心を救い、共に生きるためにも、この陰謀に挑むことになるのです。

 権力者の走狗として動くだけでは情けない。愛する人を守るためだけでは甘すぎる。生き残るためにはどのような手段を使ったとしても、しかし、己自身の牙を決して失わない――

 私が本シリーズに強く魅力を感じるのは、特異な設定と、そこに絡むストーリー展開の見事さもさることながら、この主人公のキャラクター造形に、共感とも憧れともつかぬ想いを抱くためであります。


 さて、扇太郎の戦いもいよいよ佳境に入ります。
 その戦いに絡むのは、吉原の御免状の存在、鳥居との確執、一太郎の陰謀、そして朱鷺との愛…シリーズ冒頭から物語の中で描かれてきた様々な要素が、いま一つに結びつき、巨大なうねりとなって動きだしています。

 厳しい…などという言葉が空しく響くほど苦難に満ちた、扇太郎の歩む道のり。しかしそんな中にも小さな希望の光はあります。
(終盤、ある人物のさりげない言葉が、涙が出るほど胸に響くのです)
 己の牙を失わぬ走狗の戦いが、笑顔で終わることを心から願うのです。

「娘始末 闕所物奉行裏帳合」(上田秀人 中公文庫) Amazon
娘始末 - 闕所物奉行 裏帳合(五) (中公文庫)


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 「旗本始末 闕所物奉行裏帳合」 昼と夜の権力に挑む孤剣

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2011.09.07

「快傑ライオン丸」 第45話「抜け忍けもの道 怪人ハンザキ」

 錠之介の親友だったハンザキは、獅子丸を倒し、錠之介を取り戻そうとする。しかし錠之介はゴースン打倒の鍵である象牙をハンザキから奪い取ってしまう。ついにハンザキと対峙するも、圧倒されるタイガージョー。そこに駆けつけたライオン丸にハンザキは倒されるが、錠之介はなおもゴースン打倒への執念を燃やすのだった。

 今回登場するのは、ゴースン八人衆の二番手・ハンザキ。冷静に考えると本作では珍しい、人間に変身するゴースン忍法人間変身の遣い手であります。
 アバンタイトルで山賊に追われている母子を助け、子供が自分の顔を見て泣き止まないとみるや、人間に変身してあやしたり、獅子丸と対峙した時に子供が出てきたので戦いを止めて引き下がるなど、なかなか情の厚い怪人なのですが…

 このハンザキ、実は錠之介とは親友の間柄。錠之介とは二人仲良く釣りをしたり、剣の稽古をしたり…あの錠之介が心を開くのですから大したものですが、しかし今のハンザキの使命は、その錠之介の抹殺であります。
 悩むハンザキの怒りの矛先が向いたのは、獅子丸。あいつさえいなければ錠之介は裏切り者にならないで済んだのに…と、何やら嫉妬心すら感じさせます。

 しかし錠之介の方は、そんなハンザキの気持ちを知らず、獅子丸とどちらがゴースンを倒すか競争する始末。
 ドクロ忍者との戦いで、ボウガンで崖際に追い詰められて、下に飛び降りたところで待ち受けるドクロ自爆陣の大爆発に巻き込まれるなど、そりゃハンザキも大変です。

 爆発音を聞いてやってきた獅子丸に、ゴースン忍法ハンザキ変身で怪人に戻ると、錠之介の恨みを受けてみろと、襲いかかるのですが…これは獅子丸にはいい迷惑でしょう。
 さすがゴースン八人衆、ゴースン忍法風ハンザキ、火炎ハンザキに追い詰められるライオン丸は、マントの変わり身を使って脱出、ライオン丸の一刀にハンザキは崖から転落するのでした。

 その頃、不死身の錠之介は、ドクロ忍者の一人が象牙を持っているのを目撃(このシーン、ドクロ忍者の一団から一人遅れた奴が、象牙を掲げて走ってくるという、なかなかシュールな眺め…)、彼らを追って、社の地下に作られた基地に潜入します。
 そこで待っていたのは、同じくらい不死身のハンザキ。俺と一緒に獅子丸を倒そう、ここにある象牙を手にした時が本当に裏切り者になる時だと、錠之介に熱く語りかけるのですが――

 錠之介、ドクロ忍者の群れからハンザキに救われておきながら、ハンザキが目を離した隙に、速攻で象牙を持って逃げる始末。
 互いに変身してついに激突する二人ですが、あまりの仕打ちに怒ったか、ハンザキはタイガージョーを圧倒!
 と、そこに現れた獅子丸がライオン丸に変身して割って入ると、錠之介はボロボロの体のまま、いずこかへ消えてしまうのでした…
 さて、残った二人は最後の激突。
 ゴースン忍法闇ハンザキで視力を奪ってきたハンザキに対し、ライオン丸はライオン心眼闇浮かしで対抗。ハンザキの位置を掴むや、謎の新必殺技・ライオンドルフィン飛行斬りを喰らわせ、なおも立ち上がるハンザキにとどめの一刀を見舞うのでした。

 そんな激闘の結果を知ってか知らずしてか、錠之介は一人、手に入れた象牙を研ぎながら、ゴースンへの闘志を燃やすのでした…


 敵であるはずのハンザキが、ほとんど主役という印象の今回。人間的な心を持った怪人というのは既に本作ではお馴染みですが、そこに錠之介のかつての親友という設定を加えることで、物語に深みが…
 といいたいところですが、ダメな男に振り回される深情けの女性みたいに見えてしまったのは、私の目が腐っていたからというわけではないと思いたい。
 数々の忍法を使いこなし、必殺技を喰らっても立ち上がる強豪だったのですが…


今回のゴースン怪人
ハンザキ

 ゴースン八人衆の一人で、錠之介のかつての親友。十文字と三つ叉、二つの穂先と分銅のついた槍を得物とし、強風を起こす風ハンザキ、口から炎を吐く火炎ハンザキ、相手の視界を奪う闇ハンザキなど、数々のゴースン忍法を使う。また、ゴースン忍法人間変身で人間に変身できる。
 錠之介の道を誤らせた獅子丸に敵意を燃やすとともに、錠之介を何とか取り戻そうとするが、ライオン丸のライオンドルフィン斬りに深傷を負わされ、なおも立ち上がったところをとどめをさされた。


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2011.09.06

「かぶき姫 天下一の女」第1巻 天下一の意味は

 ややこ踊りの旅芸人、出雲座のお国の娘・お菊は、旅の途中に山賊に襲われたところを、九右衛門と名乗る若侍に救われる。天下人に天下一と認められることに執着する母の姿を目の当たりにし、天下一の意味を考えるお菊。豊臣から徳川へと時代が移りつつある中、お国とお菊の運命は…

 色々と面白い作品を生み出しつつ、先日終了してしまったのが実に残念であったWebコミック「コミックヒストリア」。
 本作もその「コミックヒストリア」に連載されていた作品ですが、歌舞伎の始祖とされる・出雲のお国の一代記という主題に留まららない、なかなか興味深い作品となっています。

 本作の主人公は、お国本人ではなく、ややこ踊りの出雲座のお国の娘・お菊。
 この第1巻では、お菊の目から、お国の姿が、そして「天下一」という言葉の意味が描かれていくこととなります。

 時は太閤秀吉が晩年を迎えた頃。各地で大きな評判をあげながらも、「天下一」の称号を得ることを夢見るお国は、天下人たる秀吉の前で舞を披露することに執念を燃やします。
 松梅院禅昌をはじめとする文化人・有力者の力を借り、ついに醍醐の花見において秀吉の前で舞うお国ですが――

 あくまでも天下人によって天下一と認められること、すなわち天下人に天下一という言葉を与えられることに固執するお国。
 しかしそんな母の姿を見つめるお菊にとっては、天下一の意味は、母のそれとはいささか異なるものとして描かれます。

 何故ならば、まだ無垢な少女であるお菊にとって、天下人とは決してポジティブな面のみで捉えられる存在ではなく――いやそれどころか、海の向こうの国と戦を起こし、そして苛烈な法度で庶民を取り締まる、無数の屍の上に立つ存在として、彼女の目には映るのですから。

 果たして天下一とは、天下人に与えられるものなのか。高い位置にいる誰かに認められればいいのか。
 そして、何のために天下一の女となるのか――
 秀吉亡き後も天下一を追い求めるお国の姿と平行して、そんな想いを胸に育っていくお菊の姿が描かれていきます。


 現代の我々にとっては、その言葉の意味を特に考えることなく使ってしまう「天下一」という言葉。
 そもそも、「天下」という概念自体、近世までのものという印象もありますが、しかしそれでは、「天下」という言葉で世界が捉えられた、「天下人」が実際に存在した時代においては、その言葉の意味も重みも、現代の我々とは全く異なるものだったのかもしれません。

 本作は、お菊という、天下一を目指すお国の傍らに立ち、しかし別の方向を見据える存在を主人公にすることで、単なる芸道ものに留まらない視点を与えてくれるのです。


 そしてまた、 松梅院禅昌や大鳥居一兵衛といった、現代ではあまり知られていない、しかし実に興味深い人物を配置して、お菊と史実のリンク役とするなど、歴史もの、時代ものとして見ても、本作は十分に面白いのです。
 また、現代の我々からはなかなか想像できないような当時の旅芸人の扱い(一座の人間が身分を隠して色街に出かけて騒動になるというエピソードは実に面白い)がきちんと描かれているのも好感が持てます。

 そして何より、これが初単行本とは思えない描写力を見せる作者の絵が実に印象的であります。
 ことに、巻頭の見開き頁で見得を切るお菊の姿は、思わず何度も見返してしまうほどのインパクト。これを見れば、そこから先の頁も繰りたくなる…というのも、決して大袈裟ではないと感じております。


 さて、冒頭に述べたとおり、「コミックヒストリア」は終了してしまいましたが、本作は「コミックフラッパー」誌に移籍して続行されるとのこと。
 お菊の舞う理由の一つである和侍・九右衛門(ちなみに九右衛門は、ある人物の別名でもあるのですが…出雲お国物語なのですから、まちがいなくその人物のことでありましょう)との再会など、物語の佳境はまだまだこれから。
 まずは連載再開を楽しみに待つとしましょう。

「かぶき姫 天下一の女」第1巻(下元智絵 メディアファクトリーMFコミックスフラッパーシリーズ) Amazon
かぶき姫 ―天下一の女―1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

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2011.09.05

「お江戸ねこぱんち」第三号 猫漫画で時代もので…

 何ヶ月かに一度のお楽しみ、「お江戸ねこぱんち」の第三号であります。
 掲載作全部が猫関連という猫漫画専門誌「ねこぱんち」の増刊、掲載作全部が時代もので猫関連という、時代もの好きで猫好きにはたまらない一冊ですが、こうして第三号が出るということは、それなりに受け入れられているということなのでしょう。

 もちろん、猫漫画で時代ものと言っても、その切り口は様々。
 猫の扱いも、時代ものとしての方向性も作品ごとに異なるわけですが、主な読者層が(おそらく)若い女性ということか、派手なアクションものや伝奇ものは、さすがにございません。

 そんな意味では少々残念ですが(いや、時代伝奇もので猫ものって、どれだけ狭き門だ、という気もしますが)、それでもこのブログ的に見逃せない作品も、もちろん幾つかあるわけで、ここではそうした作品に触れることとしましょう。


「外伝 猫絵十兵衛御伽草紙」(永尾まる)
 「ねこぱんち」誌で江戸ものと言ったら、当然真っ先に挙げるべきは、このブログでも何度も取り上げている「猫絵十兵衛御伽草紙」であるわけですが、「お江戸ねこぱんち」の方では、外伝と銘打った作品が掲載されています。

 今回の外伝は、本編の主人公・猫絵師の十兵衛の隣人の浪人・西浦さんを主人公としたエピソード。
 剣の達人でありながら、その心根はいたって優しい好青年、しかし過去の経験がもとで大の猫嫌いという西浦さんは、本編でも色々いじられている人気キャラですが、今回はなんと化け猫退治に引っ張り出されることとなります。

 化け猫といっても、いわゆる猫又であれば本作に山ほど出てくるわけですが、今回登場するのは、それとはだいぶ趣を異にした、翼を持つ巨大な猫。むしろ怪獣と言いたくなるような存在であります。

 とある町を騒がすこの翼猫を退治することとなった西浦さんですが、実は翼猫にも(ある意味怪獣ものではお馴染みの)事情があって…
 という展開は、正直ベタではあるのですが、クライマックスの大乱戦は、いかにも本作らしい内容で、ラストでちょっとホロリとさせる辺りも良く、やはり毎度のことながらよくできた作品であります。

 ちなみに翼猫というのは、実は現実世界でも一種のUMAとして知られる存在。その辺りを踏まえてか、作中での描写が猫又とはまた異なる存在として描き分けられているのも、面白いところです。


「シャム猫ビビアンまかりとおる!」(河邑コウ)
 時代ものにシャム猫? と思いきや、これがなんとタイムスリップもの。現代のシャム猫が、何かの拍子(?)にタイムスリップして、江戸の職人の家に身を寄せるという内容であります。

 時代ものでタイムスリップもの、というのは(特に漫画では)実は決して少なくないのですが、ほとんどは現代人が過去にタイムスリップというもの。
 それが猫だけタイムスリップ、というのは実に斬新で、私も初めて見たような気がします。

 もっとも、本作の場合、そのもの珍しさだけで終わっていて、ほとんどオチがないのが残念なのですが…しかし本当に珍しい作品であります。


「猫の手文庫 かがやくひのみや」(蜜子)
 第二号に掲載された「あだうち」が実に出来が良かったため、今回も期待していた蜜子の作品。
 その期待は裏切られることなく、今回も完成度の高い時代ファンタジーでありました。

 修行の旅を続ける青年僧が、旅の途中で救った猫に導かれるようにたどり着いたのは、宿場町の女郎屋。
 そこで一夜の宿を借りることとなった僧が、子を孕んだ遊女と出会って…
 という本作は、僧が実は己を捨てた母を捜して旅をしていた、と明かされた時点でオチが読めてしまう部分もあります。

 しかし遊女の無邪気さ、青年僧の純粋さが物語を暖かく彩り、一つの小さな美しい奇譚として、素直に心を動かしてくれるのです。


 と、今回ここで取り上げた作品のほかにも、10作近く収録された今回の「お江戸ねこぱんち」。
 冒頭に述べたとおり、真面目な(?)時代ものが多いのですが、ほとんどが一定水準に達した作品で、なかなかに楽しませてくれます。
(第一号から読んでいますが、出るたびにアベレージは上がっているやに感じます)

 やはりもっとこれで伝奇もの、ファンタジックな作品が増えてくれれば…というのは特殊ファンのたわごとですが、猫時代漫画専門誌というユニークな存在として、これからも育っていってくれたら、と思うのです。

「お江戸ねこぱんち」第三号(少年画報社) Amazon


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 「お江戸ねこぱんち」第二号

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2011.09.04

9月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 さて、夏らしく暑くなってきたと思ったらもう9月。もう今年も残すところ1/3! と思うと悲しい気分になってきますが、それもこれも、どんな時代伝奇アイテムが発売されるか知れば、吹っ飛びます。というわけで9月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 毎月、新刊をチェックし始めた時は、数が少ない…と暗い気分になるのですが、チェックが終わるとそれなりの数が揃っている文庫小説。

 新作の方では、最近ほとんど月刊となっている高橋由太の「大江戸あやかし犯科帖 雷獣びりびり」の続編、おそらくこれでラストかと思われる楠木誠一郎「武蔵三十六番勝負 5 空之巻 死闘!大坂の陣」、そして先日シリーズ第一作が文庫化されたばかりの澤見彰「はなたちばな亭恋騒ぎ」あたりが楽しみなところです。
 おっともう一作、浅生楽の明治を舞台としたユニークなライトノベル調伝奇「桃の侍、金剛のパトリオット」も続編が登場で、こちらも必読です。

 また、内容は不明ですが、上田秀人の「妾屋昼兵衛女帳面 側室顛末」は、作者が作者だけに当然チェックすべきでしょう。

 一方、文庫化の方では、その上田秀人のデビューシリーズ第3弾「将軍家見聞役元八郎 3 無影剣」の新装版が登場。恥ずかしながら最近まで知りませんでしたが、この新装版、過去の版からかなり手を加えているとのことで、これを気に再読したいと思います。
 その他、和田竜「小太郎の左腕」、三田村信行「風の陰陽師 3 うろつき鬼」荒山徹「鳳凰の黙示録」なども要チェックでしょうか。
 特に「鳳凰の黙示録」は、最近女剣士スキーをカミングアウトした作者による、朝鮮の女剣士vs怪人・怪獣軍団という煩悩爆発の一作。
 ある意味最も「赤影してる」作品…と言えばわかるでしょうか。未読の方はぜひ。

 おっと、何故か復刊の佐々木味津三「旗本退屈男」も(むしろ背後関係が)気になります。


 さて、漫画の方は、気になる新作はどちらも少女漫画。
 広井王子原作の信長の双子の妹が兄の影武者を務めるという湖住ふじこ「戦国ブラッド 薔薇の契約」1、明治を舞台に呉服屋の御曹司が奇妙な事件に挑むリカチ「明治緋色綺譚」1をチェックしたいと思います。
 も一つそっち系(?)と言えば、「お江戸ねこぱんち」の第3号も嬉しいところですね。
 おっと、も一つ、その対極にあるような新登場を忘れていました。宮本昌孝の原作を長谷川哲也が漫画化した、男臭さ充満の「陣借り平助」も初登場です。

 その他の漫画としては、佳境に入りっぱなしの柴田亜美「カミヨミ」14に注目。

 また、コンビニコミックで登場の岡村賢二&太田ぐいやの「秘剣 柳生十兵衛」は、「柳生無頼剣 鬼神の太刀」の廉価版なのか、はたまた単行本未刊行のその続編の単行本化なのか…後者であることを祈るところです。


 映像の方では、やはり「JIN 仁 完結編」が今更ながらに気になるところですが、その一方で松田賢二&小沢真珠の忍者アクション「隠忍術 しのび」全4本にも惹かれるところです。
 そしてアニメの方では高田崇史原作の「鬼神伝」はやはり見ておくべきでしょうかね。



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2011.09.03

「花は桜木 柴錬の「大江戸」時代小説短編集」 統一感に疑問はあるが…

 「梅一枝 新編剣豪小説集」「かく戦い、かく死す 新編武将小説集」「男たちの戦国 新編武将小説集」と刊行されてきた集英社文庫オリジナル編集の柴田錬三郎短編集、今回登場するのは、「柴錬の「大江戸」時代小説短編集」であります。

 収録作品は「花は桜木」「豪傑」「助六一代」「かたくり献上」「怪談累ケ淵」「学問浪人」「河内山宗俊」「座頭国市」「孤独な剣客」「辞世」の全10編。
 剣豪ものあり人物伝あり、エッセイ的作品あり怪談あり、なかなかにバラエティに富んだ作品が収録されています。

 もっとも、いささかひっかかるのは、短編集としてのコンセプトがかなりわかりにくいことであります。
 「大江戸」という言葉から、土地としての江戸を舞台とした作品集かと思いきや、必ずしもそういうわけでもなく、ここは時代としての江戸――というより大きな概念としてそれらを包括する江戸として考えるべきなのかもしれません。

 そんなすっきりしない部分がまずあるのですが、もちろん収録された作品は、さすがは柴錬、と言うべき作品ばかりであります。

 武士道の花とも言うべき仇討ちにまつわる運命の皮肉を忠僕の目から描く「花は桜木」。
 助六のモデルと言われる十八大通の一人・大口屋暁雨の一代記「助六一代」。
 冒頭の断り書き通り、本当に悪人しかでてこない人間地獄絵図「怪談累ケ淵」。
 天保六花撰で知られる悪徳茶坊主・河内山宗俊の悪党としての生き様を描く「河内山宗俊」。

 特にこちらの印象に残ったというだけでも、すぐにこれだけの作品を挙げることができます。

 その中でも、「河内山宗俊」が特に強く印象に残ります。
 宗俊と仲間たちが悪事を繰り返した末に、それぞれの運命に従い散り散りとなり、宗俊が獄に繋がれ死の座に向かうまでを描いた本作は、実は作者初の時代小説であります。

 しかしながら、作中で描かれる宗俊の心意気、悪党であることを――すなわち、自分はどこまでも自分であることを――貫こうとする生き様には、後年の作品に見られる、いわゆる柴錬的なるものが、既にはっきりと見て取れるのが、何とも興味深いのです。
(その他、虚無的な浪人・金子市や陽気な小悪党の丑松の人物造形なども実に柴錬的)


 統一感という点では疑問がないわけではありませんが、しかしどの作品からも様々に得るもののある、そんな作品集であります。

「花は桜木 柴錬の「大江戸」時代小説短編集」(柴田錬三郎 集英社文庫) Amazon
花は桜木 柴錬の「大江戸」時代小説短編集 (集英社文庫)


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2011.09.02

「妻は、くノ一 濤の彼方」 新しい物語へ…

 密命を帯びて潜入してきたくノ一だった妻・織江と、姿を消した彼女の想いを信じて追い続ける追う夫・彦馬――すれ違う二人の姿を描いてきた時代ロマンス活劇「妻は、くノ一」も、いよいよこの第10巻で完結であります。
 舞台が江戸を離れ、長崎に向かう中で繰り広げられる最後の戦いの行方は…

 織江とはすれ違いを繰り返し出会えぬまま、松浦静山の命で、開国の使者として密かにオランダに向かうこととなった彦馬。
 幽霊船に偽装した船で、静山とともに長崎に向かう彦馬を、一人織江は追いかけるのですが――しかし、その彼女をまた追う者たちもいます。

 なんと、鳥居の奸計により織江に興味を抱いた将軍家斉の配下の、武芸の達人四人衆が織江を、彦馬を追い、さらに、織江に執着を抱き続ける御庭番頭・川村が彼らと合流――
 ここに来て、織江と彦馬、そして静山は、最後の、最強の敵を迎えることとなるのであります。

 そして、辛うじて船旅を終えてたどり着いた彦馬が、海外への門である長崎から、オランダに向かおうとしたまさにその時、最後の戦いが繰り広げられることとなります。
 織江が、静山が、雁二郎が――これまでの戦いで傷ついた体に鞭打っての戦いは、まさに決戦、いや血戦。
 幸せは犠牲なしに得ることはできないのであれば、どれほどの犠牲を払っても必ず幸せになってみせる/してみせる! との決意の下に繰り広げられる大乱戦は、この長かった物語のラストを飾るに相応しい死闘であります。

 そしてその戦いの果て、彦馬と織江の運命がどうなるのか…それをここで詳細に語るのは野暮というものでしょう。
 しかし、ベタと言わば言え、甘々と言わば言え――これまで物語を追ってきた者が、望んできたものがここにある、とだけは言っても良いかとは思います。

 そしてまた――個人的に何よりも嬉しかったのは、第1巻の最後でこちらの度肝を抜いてくれた静山のあの宣言に、この第10巻の最後の最後で、見事な伝奇的アンサーが示されていたこととであります。
 そうか、そう来たか! と思わず膝を打つと同時に、静山の、皆の努力が決して無駄にならなかったことを想い、思わず胸が熱くなったことです。


 思えばこの10巻までの道のりは――物語の内側だけでなく、一つの作品として見ても――決して平坦なものではなかったと言えるでしょう。
 意味ありげに登場したキャラクターが、ほとんど動かずに終わったり(静山の娘のことでありますが、しかし彼女は、次のシリーズの主人公になるとのこと)、今回終盤での静山と雁二郎の扱いに見られるような展開の粗い部分があったりと、残念な部分もまま見受けられます。

 しかしそれでもなお、この結末を読めば、全て許せる、全て愛せると感じ…
 ごめんなさい、嘘を書きました。結末を読む前から、本シリーズが大好きな作品であることに、変わりはありません。

 1巻に4、5話収録のライトなミステリ調連作というのは、風野作品――いや、文庫書き下ろし時代小説に定番のパターンではあります。
 しかしその中で、縦糸に彦馬を探偵役としたミステリものを、横糸に織江のくノ一としてのアクションものを配置することにより、マンネリズムを回避しているのは、大いに評価するべきでしょう。

 そして、そこに風野作品の持ち味であるユーモアとペーソスに満ちた人物・情景描写と、思わぬところから飛び出してくる伝奇風味が合わさるのですから、またたまらない。

 作者の作品として、まず代表作の一つと読んで間違いはありますまいと…今は心より思う次第であります。

「妻は、くノ一 濤の彼方」(風野真知雄 角川文庫) Amazon


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2011.09.01

「ICHI」第7巻 そして旅は続く

 映画が終了しても、こちらは独自の生命を持ったかのように展開してきた時代漫画「ICHI」。掲載誌での連載が慌ただしく終わり、残念に思っていたところですが、この第7巻にて、三話分を書き下ろして完結であります。

 己を見つめ直した後に江戸に戻り、近藤・土方・沖田ら試衛館の面々と、伊庭八郎と、そして清河八郎と――かつて因縁を持った若き剣客たちと再会した市。
 清河と土方・伊庭が一触即発の危険性をはらむ中、市は清河発案の浪士隊に同行し、京に上ることとなります。

 と、この浪士隊がどのような運命を辿ったかは、言うまでもないお話。
 清河が、こともあろうに幕府の浪士組を尊皇攘夷のための組織としてそっくり編入せんとしたことから浪士組は分裂、それが後の新選組誕生のきっかけとなったわけですが――

 かねてより意趣を抱いていた土方・沖田と伊庭八が、黙って清河を見逃すはずがない。ここで奸賊清河を討たんと、闇討ちを謀る三人ですが、そこに立ちふさがったのは、清河と何かと縁のあった市!

 かくて、清河vs土方・沖田、市vs伊庭八の、因縁の戦いが始まるわけですが、ここがまずこの巻のクライマックスと言えましょう。

 ちなみにここで清河の救援に駆けつけ、土方・沖田の二人を向こうに回して一歩も退かぬ…どころか完全に圧倒したのが高橋泥舟。
 海舟・鉄舟と並んで幕末の三舟と賞されるものの、今一つ知名度では劣る(というのも申し訳ないのですが)この人物に見せ場があるあたり、本作の油断のならなさが表れていて実にいいのです。


 閑話休題、物語の方は、この一幕を頂点として、その後は思いもよらず、新選組誕生前夜までを描いて、静かな形で幕を閉じることとなります。
 正直なところ、予想していたよりも随分と手前の着地点に、最初はいささか戸惑ったのですが――しかし、終わってみれば、これはこれで良かったように思います。

 思えば市は、あくまでも傍観者的な立場にいたキャラクター(十馬は、市と比較的近い位置にありながらも、明確に討つべき相手がいた点で、彼女とは異なりましょう)。
 もちろんこの先も、彼女をその位置に置いて物語を描くことは可能ではありましょうが、しかし、新選組というあまりに鮮烈な存在、そしていよいよその動きを激しくする幕末という時代を前にしては、市の存在は霞まざるを得ないのではないか…

 市自身のドラマとしては、己の過去を向き合い、己が決して一人で生きてきたわけではないこと――そしてそれは、他者への依存を意味するのではないこと――を彼女が再確認していた時点で一旦の終わりを見ていたのであり、その意味ではここで物語を終えておくのも、一つの選択と納得できます。

 もちろんこれはあまりにも好意的な見方ではありますが、しかし、十馬と束の間再会し、そしてあくまでもそれぞれの道を尊重した上で、互いの道が再び交わり、一つになることを予感させる結末は、実に美しく、大団円であるとすら言って良いように思うのです。

 座頭市が、己の剣を頼りに放浪を続けていくキャラクターであるならば、その結末もまた、旅が続くことで示されるのでありましょう。
 そして、その旅が、市が市であることを捨てず、しかしそれでいて、決して孤独なものでないということは、何よりも素晴らしいことだと感じられます。


 確かに全員が満足する結末ではないかもしれませんが、少なくとも私個人にとっては決して不満はない…そんな結末でありました。

「ICHI」第7巻(篠原花那&子母澤寛 講談社イブニングKC) Amazon
ICHI(7) (イブニングKC)


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